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素材喰らいのブラクベン~素材を喰らって強くなる右腕の怪物と、在庫無限の素材屋経営~  作者: 藍家アオ


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1-14 素材屋・改

 夕方近くに、小屋と倉庫が完成した。


 小屋は小さいが、しっかりとした造りだった。棚を並べれば素材が陳列できる。倉庫は隣に接続する形で、小屋の二倍ほどの広さがある。


「どうだ。」


 ガルルドが腕を組んで言った。


「ありがとうございます!思っていたより、ずっといい建物で。」


「当たり前だ。また建ててほしかったら、ワシに言うんだぞ。」


 いつの間にか、人が増えていた。


 ガルルドがアベルに声をかけ、工房の者たちを呼んだらしい。ミリオさんが棚の奥から酒の瓶を何本か持ち出してきた。竣工式が始まろうとしていた。どこから聞きつけたのか、チェルが料理の入った鍋を抱えて飛び込んできた。


「楽しそうなことやってるね!私たちも参加させてもらうよ!」


 その後ろからイレイヤが無言でついてくる。ガドがさらにその後ろに続く。いつの間に。まあ、彼女らにはこれから世話になるだろうから。しかし、いつも屋台を出している場所とは少し離れているのに、どうしてここがわかったのだろうか。


「どうしてここがわかったんですか?」


 イレイヤが右腕を一瞥した。


「気配。」


『おい、出来るだけそいつをオレサマから離せ!』


 イレイヤのブラクベンレーダーは、もはや恐怖の域に達している。あの傍若無人なブラクベンさえ恐れるほどだ。そろそろブラクベンは暴走しそうだし、彼女には助けを求めてもいいかもしれない。右腕は心底嫌そうに震えた。


 チェルは、すでに倉庫の中で鍋を食べ始めていた。そのあたりに、ガルルド建設の職人が集まって騒いでいる。何もない倉庫に、あっという間に人と食べ物と酒が集まった。


 ガドがガルルドの横に立った。二人が並ぶと、体格がそっくりだった。


「親父。元気そうだな。」


「ん?ああ、ガドか。」


 いつもは厳しく近寄りがたいオーラの二人だが、今はどこか柔らかい雰囲気だ。


「もしかして、お二人は。」


 チェルが笑いながら言った。


「親子だよ。ガドはガルルドさんの息子。」


 確かに、そう言われると二人の顔は似ているように思えた。ガドに髭が生えていたら、ガルルドそっくりだっただろう。


 さきほどより人が増えたか、それぞれ持ち込んだ酒やつまみで、はしゃいでいる。おお、とざわめきが広がった。みんなが星スライム酒に気が付いたようだった。ミリオが星スライム酒の樽を倉庫の中央に置いた。


「みんな、わしが作った酒じゃ。ぜひ飲んでみてくれ。新作じゃ。ほら、欲しい者は並ぶんだ。」


 すぐに列ができる。一番最初に並んでいたイレイヤが一口飲んで、動きを止めた。もう一口飲んだ。それからゆっくりと杯を見て、静かにおかわりを注いだ。


「おおこらこら。無くなってしまうぞ!」


 どんちゃん騒ぎが続いた。ガルルドは弟子に自分の店から酒を持ってこさせて、ミリオと騒ぎながらそれを飲んでいた。星スライム酒はすぐ無くなってしまったようで、また作れとせがんでいるようだった。ミリオと目が合った。また星降りのキュケオーンを取って来いと言われるかもしれない。


 チェルは倉庫の中を駆け回り、それぞれのつまみをちょっとずつ拝借しているようだった。ガドは一人で黙々と酒を飲んでいる。イレイヤは……どうやらスライム酒が気に入ったようで、ミリオが工房から持ってきた火炎スライム酒や水スライム酒をがぶ飲みしていた。静かに酒を飲んでいたかと思ったら、急にぎろりとこちら見た。嫌な予感がしたので、背中を向けた。


 大人たちに可愛がられていたリオンとヘレナを呼んで、倉庫の隅で座って話をする。


 リオンは膝に手を置いて、真剣な顔でこちらを見ていた。ヘレナはその隣で、同じように背筋を伸ばしていた。


「これから素材屋をどうしていくか、二人に話しておきたいことがあるんだ。」


 リオンがうなずいた。ヘレナも、たぶんよくわかっていないだろうけど、少し遅れてうなずいた。


「今は仕入れた素材を並べて売るだけだけど、ゆくゆくは職人と直接取引を増やしたい。ミリオさんとの定期取引はもう始まってる。探索者パーティとの買取契約もある。仕入れが安定してきたら、扱う素材の種類を増やしていく。」


「種類って、スライム以外も?」


 リオンが聞いた。


「そのうちね。今はまだ『星屑の洞穴』しか行けないから。それからだ。」


「わかった。」


「はい!はーい!」


 ヘレナが手を挙げた。


「ヘレナ、なんだい?」


「わたしもやる!」


「お誕生日が来たらね。」


「うう。」


 倉庫の外では、まだどんちゃん騒ぎが続いていた。ミリオの笑い声、チェルの声、ガルルドの低い声が混じり合っている。







 夜になる前に、三人で倉庫を出た。流石にこれ以上長居すると、シスターに怒られてしまう。


「ばいばーい!」


 ヘレナが大きな声で言った。ガルルドが顎鬚を撫でながら手を振った。チェルは笑いながら手を振った。ガドは無言で手を上げた。イレイヤは杯を持ったまま、真っ赤な顔でこちらを一瞥した。


 孤児院まで、三人で歩いた。ヘレナは疲れてしまったようで、しきりに目を擦っていた。


「ん……にいちゃん……。」


 もう限界のようで、両手を広げておんぶをせがんでいた。背中に乗せると、すぐに寝息が聞こえてきた。


「リオン。明日からよろしくね。」


「うん。頑張るよ。」


 孤児院の前まで行くと、シスターが待っていた。腰に手を当て、怒りのポーズだ。この子たち、シスターに何も言わずに来ちゃったのか。


「シスター……。」


「三人とも、話があるわ。」


 お説教は避けられないようだった。


 もちろん、説教の的になるのは、最年長の僕だ。眠たそうにしていたヘレナとリオンを解放した後も、がみがみと怒られた。


 自室の窓を開ける。夜空がきれいだ。


『行くぞ。』


 右腕から影法師が滲み出て、形を成す。


『星スライムの素材を寄越せ。狩ってきてやるぞ。』


 星スライム素材のいくつかは、まだ、ブラクベンに食べさせていなかった。暴走する気配がしていたからだ。


 今日の様子を見るに、星スライム酒は人気が出るだろう。ミリオに造ってくれと頼んでいる人を何人も見た。ならば、僕のもとに星降りのキュケオーンの注文が来るかもしれない。素材屋としては稼ぎ時だ。仕入れておきたいのも山々だが……。


「明日ね。」


『けっ。』


 今暴走されるのは、とても困る。ブラクベンはつまらなさそうに背嚢を受け取って、窓から外へ出た。


 振り返りざま、ブラクベンは不敵に笑った。


 紋章の赤が、夜の闇に燃えるように輝いた。


『明日、だな。ギャハハハハ!』


 影法師は、星明りの中に消えていった。

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