1-12 決戦『星スライム』1
『星屑の洞穴』はいつもと変わらぬ結晶の煌きで僕たちを出迎えた。青白い光が、岩肌を照らしている。しかし、僕の心臓はいつになく跳ねていた。ボスモンスターとの決戦だ。小刀はちゃんと持った。老人からもらった治癒のポーションもある。
「行くぞ、ブラクベン。」
『ギャハハハ!さっさとボス部屋まで行くぞ!』
左手の小刀をぎゅっと握って、『星屑の洞穴』に一歩踏み込んだ。
第一階層は、もう勝手知ったる場所だった。
通常スライムが数体。ブラクベンは『自立顕現』し、ぶちぶちとスライムを潰していった。僕とそっくりの影法師はしかし、僕ではありえない速度で移動しスライムたちを全滅させた。素材を拾う動きも手慣れたもので、腕を伸ばしてぽいぽいと背嚢へ放り込んだ。
階段を下りた先、すなわち第二階層は、第一階層より天井が高かった。
風の流れが複数ある。岩の裂け目が多く、影になっている場所が多い地形だ。
最初に出てきたのは、風スライムだった。
速い動きで距離を詰めてくる。影法師のブラクベンが左手から粘着スライムを射出した。床に展開した粘着層に風スライムが突っ込み、動きが鈍る。そこに高速のスライムを叩きつけた。風スライムが弾けて、魔力の粒子に変わった。
『弱い弱い!ギャハハハ!』
二体目は天井近くを滑るように動いていた。ブラクベンがスライムで腕を覆うと、それを叩きつけた。ジュウと音を立てて風スライムは一撃で弾けた。火炎スライムの素材から得た能力のようだ。
『オラァ!』
スライム二体が左右から挟み込んできた。ブラクベンが真上に向けて大量の粘着スライムを生成し、天井に貼り付けた。そこから液体状に変化させて一気に降り注がせる。もはや得意技となったそれは、二体の動きをまとめて封じた。その隙に近づき、小刀で仕留めた。素材を拾う。
『素材を寄越せェ!』
次は水スライムだ。
水を噴射してくる。スライムの能力が水に弱いのはわかっている。新たに手に入れた火炎スライムの能力も、相性的には悪そうだ。しかし、ブラクベンはそんなことを気にしない。ボコボコボコ、とブラクベンの腕が巨大化する。それは蒸気を放つほど熱を持っていた。
『水がなんだってんだよォ!』
それを、スライムたちに向かって振り下ろす。バチュン、と爆発音のような轟音が響き、蒸気が視界を覆う。霧のようなそれが晴れた後、残っていたのは水スライムの素材だった。
「流石。新しい能力も使いこなしているね。」
『当たり前だァ!』
少し進むと、第二階層の奥に続く道が見えてきた。
しかしその前に、岩陰から火炎スライムが姿を現した。
赤みがかった体が、じわりと熱を帯びている。近づくだけで空気が熱い。
「火炎スライムか。」
『面白ぇ。ギャハハハ!』
火炎スライムが火の塊を飛ばしてきた。横に跳んで躱す。岩壁に当たった火が広がり、洞穴の一角が明るくなった。速度は非常に遅いものの、当たればひとたまりもなさそうだ。
『この状態のオレサマじゃあいつは倒せねェ。オマエがやれよ!』
ブラクベンが液体状のスライムを床に薄く流す。水分を含んだ層が広がっていく。火炎スライムがその上に乗った瞬間、熱が奪われて動きが鈍る。これならば、僕でも倒せる。小刀を突き刺した。熱が伝わる。熱い。それでも堪えて、ぐっと奥に突き刺す。火炎スライムはぶるりと震えると、魔力の粒子となって散った。
『まだまだいるぞ!』
ブラクベンの補助のもと、残り二体も同じ手で仕留めた。左手は軽いやけどをしたようで、ひりひりと熱い。治癒のポーションを使うか。いや、やはりここぞというときに取っておこう。一本しかないのだ。大切に使わなければ。
『おい!新しい素材はあるか!?』
ブラクベンは餌を前にした犬のようにはしゃいでいる。確認すると、火炎スライムゼリー、火炎スライムの魔核、発熱粘液嚢、火炎スライム液があった。三体しか倒せていないが、しっかりと新しい素材を確保できていた。ブラクベンはひょいとつまむと、人間のようにばりばりと口から捕食した。
『うめぇ!』
「よかったよ。これで火炎スライムも倒せるようになったかな?」
『いけるぜ!次はオレサマにやらせろよ!』
僕を模したブラクベンがギャハハハと笑うと、その口に鋭い牙が見えた。
第二階層を抜けると、さらに奥へ続く下り坂があった。この先が、第三階層だろう。
第三階層は、これまでとまるで違った。
天井が高い。どのくらいあるか、見上げても端が見えないほどだ。岩肌に埋まった結晶が、青白い光を放っている。滝の音はなく、風もない。静かだった。
そして、いた。
大きかった。
これまで見たどのスライムとも比べ物にならない巨体が、第三階層の中央に鎮座していた。通常のスライムの五倍はある。黒い体の中で、取り込んだ結晶が無数に煌いている。近づくにつれ、その輝きがゆっくりと瞬いているのがわかった。まるで、生きた星空のようだった。
こいつが、星スライム。
「……でかい。」
『ギャハハハ! こいつの素材は喰い甲斐がありそうだ!』
ブラクベンが、僕の右腕に戻る。どさりと、ブラクベンが背負っていた背嚢が地面に落ちた。その音で、星スライムがこちらに気づいた。巨体がゆっくりと動く。地面が微かに揺れた。
【Tips】
スライム酒:すこしドロッとした、甘めのお酒。アルコール度数はちょっぴり高め。使用するスライム素材によって、味や度数、口当たりが変わる。




