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第2話:猛犬注意の甘い夜

第1話での「ざまぁ」への反響、ありがとうございます! 第2話は、戦いを終えた二人のプライベートタイム。 玲香さんの「飼い主」としての本領発揮と、湊くんのワンコっぷりをお楽しみください。


 長谷川家での、ある意味で歴史に残るであろう挨拶を終え、私たちは帰路についた。


 私の運転する愛車――イタリア製の真紅のスポーツカーが、夜の首都高を滑るように走る。


 助手席の湊は、借りてきた猫……いや、叱られた子犬のように小さくなっている。  チラリと横目で確認すると、彼は私の視線に気づき、ビクッと肩を震わせた。


「……あの、玲香さん。怒ってる?」


 上目遣いで聞いてくるその表情。  計算なのか天然なのかは分からないが、私の嗜好を熟知した完璧な角度だ。


 だが、今夜ばかりは騙されない。


「怒ってるわよ。大激怒よ」


「だ、だよね……」


「家に帰ったら説教だから。覚悟しておきなさい」


 私はアクセルを少しだけ強く踏み込んだ。  エンジンが唸りを上げ、流れる夜景が加速する。


     ◇


 都内の一等地に聳え立つタワーマンション。  その最上階が私の自宅だ。


 広々としたリビングの、イタリア製の高級ソファ。  そこに座って足を組む私と、その前のフローリングで正座をする湊。


 完全なる「尋問」の構図である。


「さて、湊くん」


「は、はい!」


「あなた、今日のご両親の反応、ある程度予想できていたわよね?」


 私の冷ややかな問いかけに、湊は脂汗をかきながら視線を泳がせる。


「う、うん。まあ、父さんも母さんも、ちょっと家柄とかにうるさいところがあるから……」


「だったら、なぜ事前に私のことを説明しておかなかったの? 西園寺家のことも、私の役職のことも。先に言っておけば、あんな修羅場にはならなかったはずよ」


 そう、それが最大の問題だ。


 彼が事前に「彼女は次期社長で、実家は伯爵家だよ」と一言伝えておけば、向こうも最初から平身低頭だったはずなのだ。


 それを怠ったせいで、私はわざわざ「ざまぁ」などという品のない真似をする羽目になった。


 湊はモゴモゴと口ごもりながら、弁明を始める。


「いや、言おうとは思ったんだよ? でも、玲香さんといると楽しくて忘れちゃうっていうか……それに」


「それに?」


「僕が、玲香さんの家柄とか肩書きを自慢してるみたいで嫌だったんだ。僕は玲香さん自身のことが好きなわけだし、父さんたちにも、ありのままの玲香さんを見てほしくて……」


 湊は真っ直ぐな瞳で私を見つめた。  その瞳には一点の曇りもない。


 ……はぁ。  これだから、年下のイケメンはタチが悪い。


 私の脳裏に、彼と初めて出会った夜のことが蘇る。


     ◇


 出会いは一年前。  知人がセッティングした、私のための合コンだった。


 男性陣は、商社マンや起業家気取りの男たち。  彼らは私の着ている服や時計のブランドを一目で見抜き、ハイエナのように群がってきた。


『へえ、西園寺さんって言うんだ。仕事なにしてるの?』 『すごい時計だね、これ一千万くらいするやつでしょ?』


 値踏みするような視線。裏にある「逆玉」狙いの浅ましい下心。  私は早々に退屈し、帰ろうかと思っていた。


 そんな中、一人だけ端の席で、ひたすら唐揚げを食べている男の子がいた。


 それが湊だった。


 彼は私の時計にも、ブランドバッグにも興味を示さず、ただ「この唐揚げ、超うまいですよ!」と無邪気に笑いかけてきたのだ。


 そして何より、顔が良かった。


 国宝級の顔面偏差値を持つ彼が、ハムスターのように頬を膨らませている姿に、私は雷に打たれたような衝撃を受けた。


 ――欲しい。


 この可愛い生き物を、私の家に連れ帰って飼いたい。


 その後の私の行動は迅速だった。  他の有象無象の男たちを札束で黙らせ、湊を強引に二次会へ連れ出したのだ。


     ◇


 回想から戻り、私は目の前の湊を見る。  シュンとしている姿は、あの時と変わらず可愛いままだ。


 確かに彼は頼りない。  説明不足だし、抜けているし、稼ぎだって私には一生勝てないだろう。


 でも、今日の実家での一幕。  彼は迷うことなく「婿に行く」と宣言した。


 育ててくれた両親よりも、私を選んだのだ。  その事実だけで、十分すぎる合格点ではないか。


「……はぁ。もういいわ、足崩して」


「えっ、いいの? 許してくれるの?」


「今回だけよ。次は無いと思いなさい」


 私がソファの隣をポンポンと叩くと、湊は嬉しそうに飛びついてきた。  尻尾を振る幻影が見える勢いだ。


 そのまま私の肩に頭を擦り付けてくる。大型犬特有の甘え方だ。


「玲香さん、大好き。今日の玲香さん、本当にかっこよかったよ。机をバーンって叩いた時とか、将軍様みたいだった!」


「……将軍様って何よ。もっといい例えはないの?」


「へへ、ごめん。でも本当に惚れ直した。僕、一生玲香さんについていくからね」


 湊の手が、私の腰に回される。  さっきまでの頼りない子供のような雰囲気から一転、男の顔を覗かせる。


 このギャップに、私はどうしても弱い。


 仕事では常に気を張り、何百人もの部下を率いる鉄の女。  そんな私が唯一、鎧を脱いで心を許せるのがこの時間だ。


「……口だけは達者なんだから。言ったわね? 一生私についてくるって」


「うん、誓うよ。僕の飼い主は玲香さんだけだから」


 湊はそう言うと、私の唇に甘いキスを落とした。


 やれやれ。  結局、彼の手のひら(肉球?)の上で転がされているのは、私の方なのかもしれない。


 まあ、悪くない気分だけど。


 新婚生活は半年後からだが、私の『飼育生活』はもう始まっている。  私は湊の頭を優しく撫でながら、改めて心に誓った。


 この可愛い愛犬にちょっかいを出す外敵は、私が全力で排除してやろうと。


 ――だがその翌週、まさか私の職場で新たな敵が現れるとは、この時の私はまだ知らなかったのである。

玲香さんのスパダリ(?)っぷりと、湊くんのギャップ……いかがでしたでしょうか。 さて、幸せな夜も束の間。 第3話では、職場で湊くんに近づく「若さ自慢の勘違い女子」が登場します。 玲香さんのさらなる圧倒的無双シーンにご期待ください!

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