第93話 負け犬の戦い方(ダン視点)
色づいていた景色は驚くほど色が落ちる。
楽しかったソフィアとの生活を奪われた俺は、最早生ける屍だった。
ソフィアを奪われてから四日が過ぎ、俺の生活はまた一変した。
いや。元に戻ったのか?それとも……前より悪くなったのか……。
まあどっちでもいい。もうどうでもいい。
クロスの言われた通り、俺はゴミだ。ゴミはゴミらしく、負け犬は負け犬らしく、その辺で野垂れ死んじまえばいいのだ。
実は俺は……勇者クロスが何処に住んでいるのか知っている。何故なら有名だし、クロス自身隠しても無いからだ。
では何故俺はソフィアを救いに行かないのか……。
答えは簡単。行っても無駄死にするだけ。勝てるわけないし、万が一クロスに見つからない様にソフィアを見つけ出せたとしても……もし、そのままソフィアを救い出せたとしても……クロスはソフィアを絶対に逃がす事は無いだろう。
そしてまた、この場所でソフィアを奪われ、今度こそ俺は殺されるのだ。……恐らく今度はソフィアがなんと言おうと、無駄だろう。
それがはっきりと解る程、勇者クロスは……違うのだ。俺なんかとは。
だから……俺は……所詮ゴミ溜めの中のゴミは……何せず、只々死を待つだけの生ける屍ぐらいが丁度いいんだ……。
そんな想いで、何もせず過ごしていたのだが、その日は表通りが酷く騒がしかった。
正直マフィア達の抗争だろうと、初めは気にも留めなかったのだが……しばらくして違うという事が解った。
まあ……だから何だというのだろうか?俺には関係ない。関係ないのだ……。
っと、何時もの俺ならそう思って、無視していただろう。
だが……今日は何故か、無性に気になった。
だからこっそり隠れて見に行ってみた。そして見た……。
「だから……勇者クロスの居場所……教えろって言ってんのよ!!!」
怒りに燃える真っ赤な稲妻を……!
その稲妻は、短く切りそろえた赤髪の綺麗な女性だった。だが、そんな容姿よりも真っ先に目立つのが、その燃えるような瞳。
怒りの炎を宿した瞳は、見た者全てを焼き尽くすほどの怒りと、そして決意を秘めていた。
彼女は剣を手に、マフィアの構成員を叩き切りながら、時には迸る稲妻を発しながら、どんどん敵を打ち倒していく。
数十人に囲まれていた彼女はあっという間に、最後の一人を残してマフィアの構成員達を倒してしまったのだ。
「さあ……教えなさいよ。勇者クロスは……一体何処にいるの?」
「ひ……ひぃいいい!!?ま……待ってくれねぇちゃん……!!アンタに喧嘩売ったことは謝る……でも、簡単に言うわけには………!!」
「……あっそ。じゃあいいわ。このゴミ溜めには、他にもあいつのこと知ってる屑共はごまんといるんでしょ?じゃあ別に、あんたじゃ無くていいわ」
「まってくれ!!!アンタの腕っぷしなら、ラ・ローザ・ネーラでも幹部に招待されるかもしれねぇ!!俺が……俺が口を聞いてやるよ!!そしたら勇者クロスにもちゃぁんと……ひぎゃぁあああああ!!?」
そいつが言い終わる前に、彼女の雷がそいつを襲う。
「そんな遠回り……別にする必要ないでしょ?」
口先は冷静だが……彼女の怒りの炎は全く消えていないと、はっきり解る。
本来なら……関わらないのがいい。彼女は危険だ。
そう思ってまた、こっそりこの場から去っていただろう。でも……!!
「なあ!!俺は……俺は勇者クロスの居場所知ってるぜ!!」
何故か俺の体は勝手に動いていた。
それは何故か……。
「……へえ?じゃあ、案内してよ」
鋭い視線が俺を射抜く。正直恐ろしくて足が震えそうになるが……俺は気合でそれを持ち直し、何とか彼女に答える。
「ああ!!でも……ここじゃあなんだから、俺の根城に案内するよ!」
「……いいわよ?案内して」
どう見ても怪しい俺の提案を、彼女はあっさりと承諾する。
恐らく……たとえ俺の根城にゴロツキ集めて彼女を一斉に襲っても、返り討ちにするだけの自信と、それを裏付ける確かな実力が彼女にはあるのだろう。
「キーーー!!」
「……大丈夫よ、キーちゃん。たとえこいつが私を騙してたとしても……その時はその時でしょ?」
「キー……」
彼女の肩にいつの間にか止まっていた、蝙蝠の様な魔物?に笑顔で、しかし俺に聞こえる様に言う彼女に、俺は恐ろしさと……頼もしさを感じていた。
俺は確かに負け犬だ。ゴミ溜めの中の野良犬だ。
でも、負け犬には負け犬の戦い方がある!!
俺一人じゃ絶対に無理だ……。でも、彼女なら?彼女ならもしかしたら……勇者クロスに一泡吹かす事が出来るんじゃないのか!?
ソフィアを奪われてからずっと死んだように生きていた俺に、まだこんな意思が残っていたなんて……俺自身思ってもみなかったのであった……!
◆
「なるほどね……。つまりあんたはその、一緒に住んでたエルフの子、ソフィアをクロスに奪われたのね……」
神妙な顔で俺の話を聞いてくれた彼女は、ポツリとそう零した。
あの後俺の根城に戻った後、俺は彼女の信頼を得る為に、俺の起きた全ての事を彼女に話した。
意外にも彼女は黙って俺の話を聞いてくれた。
始めは興味が無さそうに聞いていた彼女だが、ソフィアの話になった時、そしてソフィアを奪われたと聞いた時、初めて俺に同情的な視線を向けてくれた。
その時俺は思った。
なぜ彼女が勇者クロスを探しているのか、それはもしかしたら……。
「なぁ……えっと……」
「ミリヤよ」
「ミリヤさん。あんたももしかして……大切な人をクロスに奪われたんじゃないのか?」
俺は確信をもって聞いたが、恐らく彼女……ミリヤさんは答えてくれないと思った。たとえ俺の身の上話をしたって、彼女が俺にそれを言う必要は無いからだ。
でも……それで俺は、彼女に聞いてしまった。それは……恐らく俺が、彼女に勝手に仲間意識をもってしまったからだと思う。
「………ええ。そうよ……」
「……え?」
「……は?あんたが聞いたんでしょ?なんであんたが驚いてんのよ。……ったく。……私も、クロスに奪われたのよ……。私の……命よりも大切な妹をね……」
正直驚いた。
俺みたいなこの街のゴロツキに、まさか答えてくれるなんて……!
「勘違いしないでよ?別にあんたの事、信じたわけじゃないわ。……でも、例えあんたが嘘ついてたとしても、私はクロスの元に行かなきゃいけないの!妹を……取り戻す為に……!」
「もちろんだ!俺の事なんて信じてくれなくていい!!ただ俺も……ソフィアを取り戻したいだけだから……!!協力しよう!ミリヤさん!!」
「………っふ。ええ、もちろんよ。ただ……もし裏切ったら……!」
「ああ!!俺を八つ裂きにしてくれてかまわねぇよ!!だってソフィアが居ない生活なんて……死んでるも同然だからな!!」
俺は勢いよく立ち上がり、ミリヤさんに手を差し伸べる。
「よろしくな!!ミリヤさん!!」
「……ええ。よろしくね?……えっと」
「ダンだ!俺はダン!」
「……解った。よろしくね?ダン……!」
ミリヤさんは差し伸べた俺の手を取って、力強く握ってくれる。
ようやく……ようやく光が見えてきた!!
待っててくれソフィア……!!必ず君を……必ず助け出して見せるから……!!
俺もミリヤさんの手を更に強く握り、決意に闘志を燃やすのであった……!!!




