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第8話

 皆が寝静まった深夜、俺は黒騎士に変身して風よりも早く駆け抜けていた。

 

 これぞ黒騎士秘密魔法その四にして、俺が戦闘において最も最強だと断言できる魔法!!

 そう!加速〇置である!!クロッ〇アップ!!とも言う。

 周りがゆっくりと感じる程の加速で、一気に駆け抜ける俺を捕まえる事など何人にも不可能なのである!

 

 神父様が持っていた地図をこっそり拝借して、俺は今王都へと向かっていた。


 なぜかって?


 王都へ行ってあのイケメン野郎に文句言いに行くに決まってんだろ!!


 俺はあの後考えた。

 このくだらない勇者訪問を無しに出来る方法を!!


 そう!!それは!!

 お前がこの街に来ても既に黒騎士がいるから、むしろお前は邪魔だよ大作戦である!!


 ハーゲンの話では勇者は間違いなく王都にいるそうなので、今から殴り込みに行くのである。

 王都で勇者を探すことになるが、正直勇者はちやほやされてるだろうからすぐに見つかると思う。

 今夜だけでは終わらないかもしれないが、俺の魔力が尽きるまでは分身は問題なく稼働できるので大丈夫だ。


 最悪黒騎士がお尋ね者になるだろうが、構うものか!!

 煙の様に消える黒騎士は何人たりとも捕まえる事はできぬ!!


 王都に向かう途中に盗賊に襲われてる人とかを見つけ、ついでとばかりに盗賊を叩きのめしながら王都へ走る。


 ひたすら走ると目の前に大きな城壁が見えた。

 あれぞ王都の城壁だ!!俺はそのまま城壁を駆け上がりその頂上に立つ。


 そこから街を眺めてまず思った事は、深夜なのにまだ結構明るいと言う事だ。

 俺の街ではこの時間帯は皆寝静まって暗くなっているのだが、さすがは王都!眠らない街とでもいうのだろうか?

 

 すげーっと街を眺めていた俺だったが、ハッと我に返る。そうだ勇者を探さないと!!

 俺は気を取り直して勇者探しを開始しようと、街に索敵魔法を発動しようとした時、背後から声をかけられた。


「こんな夜中に人の街を眺めて監視か?黒騎士とやら……」


 そこに立っていたのは紛れもなくあの時の勇者だった。

 相変わらずのイケメンっぷりにちょっと引くのと、気配無く声をかけられ驚いたのを押し殺し、俺は勇者に言った。


「ほう?勇者殿は博識だな?辺境の地の得体も知れない者の事まで知っているとは……」

「くく……。お前はこの王都でもそこそこ有名だぞ?何せ俺達勇者以外で魔王軍の幹部を打ち倒したのはお前だけだからな……」


 まじか。

 俺って有名なのか!なんかちょっと嬉しい。


「ならば勇者殿。アンタならわかるはずだ……あの街に勇者はいらない……と」

「ふうん?まぁ正直な話、俺もそう思ってはいた。いくら魔族が頻繁にお前の街を襲おうとも、お前はその全てを退治してきた。だからそんな自衛出来る街があるのならわざわざ俺が出向く必要はないとな」


 おお!!

 こいつやっぱり話分かる奴じゃん!!

 

「ならば……」

「だが気が変わった。なに、お前の邪魔はせんよ。俺はあの街でちょっと欲しいものができてな?それさえ手に入ればあの街に様はない」


 いーやーなー予感がすーるー!!


「黒騎士。コウと言う名の銀髪の少女を知っているか?教会の孤児らしいのだが……」

「………ふん。どいつもこいつもあんな小娘に色気づきやがって……」

「なに……?」

「知っているとも。教えてやろうか?勇者殿。あの小娘はなぁ、なぜか魔族に狙われていてな?……知っているか?最初に魔族の幹部とやらがあの街を襲った理由はなんと、あの小娘を捕まえるためなんだと!」

「……」

「あんな役立たずの小娘のどこがいいのかは知らないが、やめておきたまえよ勇者殿。あんな小娘、百害あって一利なし!だ!撒き餌ぐらいにしか使いようがないから、俺が上手く使ってやっているんだ!」

「……貴様」

「だがしかし撒き餌が無くなるのはさすがに困るな?新しいのを探すのも面倒だし、悪いがあの小娘は諦めてくれ!……くくく……ははははは!!」


 なんでこんなに自分の悪口をスラスラと言えるのだろうか?

 黒騎士になってる時って、コウ()に対してイラつきと憎悪と嫉妬が半端ないんだよね。

 

 でも分かる。

 マジで女のコウ()って弱すぎて使えなさ過ぎて、イライラしてくるのだ。

 それに、どいつもこいつもあの役立たずをチヤホヤしているが、あれの本質を理解しているのだろうか?


 (黒騎士)は皆を守るためにあんなに粉骨砕身で戦っているのに、あいつはどうだ?

 誰かに寄生するしか能のない寄生虫。

 だと言うのに皆に好かれて、皆に~~~~~~~~ってあぶなーーーーい!!


 久々に長時間黒騎士に変身しているせいだろうか?

 思考がどんどんやばい方向に流れてる気がする!!


 このまま思考まで黒騎士になっちゃうと、俺はもう二度と変身を解くことは無いだろうと思う。

 このままじゃ本末転倒だ!!


 ともかくこの思考に流れないコツは黒騎士の時にあんまり喋らない事なのだが、黒騎士になると意外とおしゃべりになるので気を付けないと……。


「撒き餌だと……?」


 ひょ?


「貴様、彼女を撒き餌だと言ったのか?」


 ええ!?もしかして勇者さん怒ってるの?

 

「……はぁ……やれやれ。この程度で怒りを露にするとは……どうやら俺は随分と勇者殿を買い被っていたようだな……」

「もういい黒騎士。貴様と言う男が分かった。もう貴様と話す事はない」

「はぁ……。勇者殿ほどの男ならば女に苦労しないだろう?ならあんな小娘の事は……!!」


 言葉を言い終わる間もなく、俺は勇者に攻撃された。

 神速と言っても過言ではない速度で切り込んできた勇者だが、俺にとっては遅すぎだ。


「なに!?」

「……俺としては穏便に済ませたいわけだが、勇者殿……もう一度考え直してはくれないか?俺のテリトリーに入って来ないと誓ってほしいんだが……」


 俺は勇者の剣を片手で止めて勇者に問う。

 勇者は自身の攻撃を止められた事で一瞬フリーズしていたがすぐさま気を取り直し、剣を手から離すと一跳びで俺からかなりの距離を取った。


 これで確信したが、彼は剣及び斧の勇者ではないのだろう。

 牽制的な攻撃とはいえ、わざわざ聖剣などを持っているのに違う武器で攻撃する意味は無いので、彼は恐らく弓か槍の使い手なのだろう。

 だが必要以上に距離を取ったため、彼は弓が得物の勇者なんだろうな……。

 

「くくく……勇者殿。本気で俺と戦り合うつもりかね?……君もそこまで馬鹿では無いだろう?」

「……」


 佇む勇者に再度問いかける。

 やっぱり俺としては戦闘は最悪のケースとしたいので、此処で引いてあの街には手を出さないと約束して欲しいのだが……。

 

 少しの間睨み合っていると、勇者の後ろから兵士たちが何人か走ってくるのが見えた。

 思った以上に時間をかけすぎたか……。


「王子!!ご無事ですか!!?」


 …………王子ぃ!!?

 こいつ勇者で王子なのかよ!!?


 なんかちょっと雲行きが怪しくなってきた!!

 ここは一時撤退だ!!


「勇者殿……また逢おう。その時は好い返事を期待しているよ……」


 めっちゃ悪役っぽいセリフを残して俺は霧となり、その場から立ち去るのであった。

 

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