第79話 聖女の力(聖女マリフィセント視点)
ギーツとエイシャがベリアルとの死闘を開始する数分前……。
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私とミリヤさんは、カノンさんの案内を受けて今全力で走っていた。
コウ様がライブ中盤で、一時的に胸を抑える仕草をした時から少し嫌な予感はしていたのだ。その後何事も無かったかのように踊られているコウ様を見て安心していたが……その結果最悪な事になった。
カノンさんの話では、コウ様は演奏が終了したあとすぐに体調を崩され……吐血されたらしい!
何という事でしょう!!あの時……嫌な予感がした時に、無理をしてでも止めて入れば……!!
後悔先に立たずとはよく言ったもので、今更悔やんでも遅いのだが……悔やんでも悔やみきれない……。
「ミリヤ!!マリフィセント!!」
私達が急いでいると、後ろから声を掛けられる。この声は……!
「エイシャ!?アンタ今まで何処行ってたのよ!!」
「勇者様……!!」
私達が振り返ると、想像通り勇者エイシャが息を切らせて私達に近づいて来た。本当にこの男は何処で何をしていたのだろうか?
私はてっきり陰ながらコウ様をお守りしていたのかと思っていたが、コウ様の現状を考えると、どうやら違う様だ……!!
「すまん!その話は後だ!!……コウは!?」
「今病室に向かっています……!容体は……あまり宜しく無いようですが……」
「っく!!……そうか……。……解った、急ぐぞ!」
「だから今急いでんのよ!!」
勇者エイシャを加え、私達はコウ様の病室へと急ぐ。
「皆さん!!この部屋です!!」
しばらく走ると、カノンさんが声を荒げながら言った。どうやらこの病室にコウ様が寝かされている様だ!私達は急いで病室に入る!
中ではコウ様が、胸を抑えて苦しそうに呻いていた。
「コウ!!」
「コウ様!!」
「……コウ……!!」
「キーー!!」
「み……ぐう……み……なさん……?」
私達(私の肩に乗っているキーちゃん含む)が声を掛けると、コウ様は薄目を開いて苦しそうに私達に声を掛ける。
私は直ぐ様コウ様の体を調べた。彼女が今、何に侵されているのか……それを知る為に。
そして……コウ様は今、強力な毒によって体を蝕まれていることが解った。しかもこれは只の毒じゃない。
医学や様々な科学の分野に通じている私ですら知らない、未知の毒だったのだ!
「この毒は……!!?」
思わず私は声を上げる。すると勇者エイシャが口を開いた。
「魔族だ……。コウは魔族に毒を撃ちこまれたのだろう……!」
「魔族ですって!!?なんで……なんでこんなとこに!!?人間の暗殺者とかじゃないの!!?」
ミリヤさんが取り乱しながら声を上げるが……確かにその通りだ。なぜライブ会場に魔族が……?
でも……今はその話は置いておこう。何なぜ魔族がこの会場に居たかなど関係ない。事実魔族はこの場に居て……コウ様を殺そうとした事実が目の前にあるのだから!
私は目を閉じ力を集中させる。
今私が成さねばならない事は……全力でコウ様を救う事だ!!
「……マリフィセント……コウを……救えるか……?」
「必ず救って見せます。ですから今は、話しかけないで下さい……!」
「……解った。コウを頼む……。俺は……行くべき所がある……!」
勇者エイシャはその言葉だけ残し、その場から消えて行った。
恐らく……コウ様を傷つけた魔族を倒しに行く為、行ってしまったのだろう。
「ったく!!なんなのよ!!勝手な奴ね!!」
「ミリヤさん……!落ち着いて……!」
憤るミリヤをカノンさんが落ち着けているが……私は今それを気にするほどの余裕は無かった。
今まで見たことも無い新種の毒。それも魔力で超強化されている猛毒……!!
はっきり言ってコウ様の命を救う事が出来るかは五分五分だ……!
というのも、コウ様が毒を浴びてから長い時間激しい運動を行われたせいで、毒が既に全身に行き届いているからだ。
体中を蝕んでいる毒を、全て摘出する事はもう不可能。故に聖なる力を持ってコウ様の全身を癒す必要があるのだが……この毒、聖なる力にかなり耐性があり、浄化する事も簡単では無いのだ。
恐らく敵の魔族は、コウ様が白銀のドラゴンだと知っていて、聖なる力に非常に耐性があるこの毒を作り出したのだろう。コウ様自身、余り自己回復が得意では無いのを差し引いても、コウ様だって一応は己を癒す事が出来るのだ。
その癒しを優に上回る力が、この毒にはあるのだ……!!
しかし……私はそこいらの癒し手とは違います……!!仮初でも、黒髪でも……私は聖女です!!!
必ず癒して見せる……!!お救いして見せる……!!
私の聖母を救えなくて……何が聖女か!!!
私は今まで培ってきた、持てる力全てを振り絞って聖なる癒しの力を使う!!
毒が癒しの力に耐性があるのなら……その耐性を大きく上回る力で毒を浄化しきって見せる!!!
「ミリヤさん!カノンさん!申し訳ありませんが、少し部屋を出て貰えますか!?今から私の力を全開にしてコウ様を癒します……!ですがお二人と……キーちゃんが居れば、私の力の衝撃を受けて怪我をしてしまうかもしれません!!」
「ちょ!!?怪我!!?コウを癒すのに!!?」
「はい!!この毒は非常に聖なる力に耐性があるので、それを打ち倒す為に聖なる力を全開にしますわ!!そして毒を撃ち消した時……その余波で恐らく強大な衝撃が発生するでしょう!!ですから……!!」
私はミリヤさんのキーちゃんを手渡し、言葉を続ける。
「この部屋に誰も近づかせないで下さい!!よろしくお願いします……ミリヤさん!!」
「……解ったわ!!この部屋には誰も近づかせたりしない!!だから……コウをよろしくね!!マリィ!!」
「はい!!」
「キー……」
私の言葉に納得してくれたミリヤさんは、キーちゃんを抱いて、カノンさんに言った。
「カノンさん……悪いけど……」
「ええ。聖女様……コウをお願いします……!」
その言葉と共に二人は廊下に出てくれた。
二人が部屋を出たことを確認した私は……全身を集中させる。
そして……!!
コウ様の毒を浄化する為、全ての力を使って聖なる癒しの力を発動させる!!
「う……ぐぅう!!」
「っつ!!コウ様……あと少しの辛抱です……!!耐えてくださいませ……!!」
私の聖なる力によって、毒がコウ様の胎内で暴れ始めたのだろう。コウ様が先程より苦しそうに呻かれるが……ここで力を抑える訳にはいかない……!
「あああ!!ぐううう!!!」
「コウ様……!!」
苦しそうにもがくコウ様に、自然と涙が出てくる。恐らく私の想像を絶する痛みが全身を走っているはずだ……!
「申し訳ありません……!コウ様……!」
「ま……リぃさ……ま……。あ……あやまら……ぐううう!!?……はあああ。ない……で……!お……おねが……い……!」
「コウ様……!!!」
私が泣いていることに気が付いたのか、苦しそうに呻きながらも、コウ様が私の手を握ってくれる。
「ぜん……ぶ……あぐう!……わたし……の……せいだか……ら!だか……ら!!」
「コウ様!!!」
その言葉を受けて私は更に力を更に強める!!コウ様を……お救いするために全ての力を使い切る!!
「耐えて下さいませ!!コウ様!!!」
「あああああああああ!!!」
次の瞬間病室に、目もくらむ様な眩い光と……それに合わせて病室の全ての窓ガラスが吹き飛ぶ程の衝撃波が奔るのであった……!




