第7話
こっそりと分身と合流して元の姿に戻り、何食わぬ顔でみんなが集まっている礼拝堂に入ろうと音を立てない様にゆっくりと入ったのに、礼拝堂に入った瞬間皆が俺に注目していた。
えええええ!?
なんだ!?なんで皆俺を見てんだ!!?
「コウ!!どこに行ってたの!?やっぱりすぐに此処を発つわよ!!」
混乱している俺を余所に、ミリヤが声を荒らげながら俺に近づいてくる。
なんでこんなに怒ってるんだろうか……。
「ミリヤ!!流石に勝手なことは許さないよ!!」
何時も優しいアレックスが、珍しく声を荒げる。
ミリヤと違いあまり聞いたことのないアレックスの声色に、俺は身を竦めてしまった。
そんな俺を見てアレックスはハッとして、優しい声色で俺に言った。
「ごめんね……コウちゃん。怒鳴ってしまって……」
「あ……あの……」
「これから話す事はコウちゃんにも関係があることだから、ちゃんと聞いてくれるかい?」
「ふざけないでよ!!コウには何も関係ないわ!!」
アレックスとミリヤは友達というわけではないが、二人ともギルドの中心的人物として活動していて、決して険悪な関係ではなかったはずだ。
こんなにミリヤがアレックスに対して怒っているのはこの二年間一度も見たことがない。
「いや、ミリヤ。君も分かっているはずだ。これは只逃げただけじゃもうどうしようもない事は」
「く……くそったれ!知った事じゃないわよ!!……なんで!!?なんでなのよ!!?」
ミリヤがここまで取り乱すのは見たことがない。
俺は居ても立っても居られず、ミリヤの側に駆け寄る。
「ミ……ミリヤさん……。ごめんなさい……」
「……っつ!コウは何も悪くないわ……!何も悪くないのよ……」
ミリヤは俺を抱きしめ、とうとう涙を流してしまった。
一体全体なにがあったというのだろうか?
ミリヤの背中をさすりながら俺は滅茶苦茶嫌な予感に冷や汗を流していた。
そもそもミリヤが取り乱すのは大体が俺が原因なのだ。誘拐された時とかみたいに。
だから今回の事も間違えなく俺が原因なんだろうが、一体何があったのかがさっぱり分からない。
そんな俺を神父様は憐みの目で見ながらゆっくりと口を開いた。
「コウ……。今朝、市長の所に王宮から連絡があってね……。此度勇者様がこの街にいらっしゃるが、その案内役と世話係をコウに頼みたいと……」
………………なぞは全て解けた。
俺の頭には、あの色黒イケメン野郎が浮かんでいた。
はいはいはいはい、あいつ勇者だったのね?
なーにが悪い奴じゃない気がするだよ!!俺の感もマジで当てになんねぇな!!?
あー!!やっぱり俺が全面的に悪いじゃん!!名前教えちゃったもん!!そのせいで名指しジャン!?
俺が顔面真っ青にして混乱していると、市長のハーゲンが自慢の銀縁眼鏡をクイっとして俺に話しかけた。
「昨日付けでギルドのバイトを辞め、一般市民となった君には当然拒否権がある。だがこの教会は国の寄付によって成り立っている。つまり君が断るとどうなるか分かるかな……?」
「殺すわよハーゲン……!!愛しの奥さんに二度と会えない様にされたくなかったら、コウを脅すんじゃないわよ……!!」
「いや本当に怖いからやめて?涙流しながらそんな憎しみこもった目で睨まれたらマジで怖いからね……?」
「じゃあアンタも汚い口閉じなさいよ……!さもなくば……!!」
「ミリヤ!!!」
ミリヤが憎悪の目でハーゲンを睨みつけ、今にも飛び掛かろうとしていると、それまで口を噤んでいたシスター・エルメスが声を上げる。
その怒声にミリヤが、ついでに俺もビクリとする。
「あなたの気持ちは分かりますが、あまりにも目に余るわ。ここでハーゲンさんを責めて何になるの?少し頭を冷やしなさいな」
「シスター……!」
シスターの叱咤にミリヤが項垂れてしまう。
そんなミリヤの背中を優しくさすりながら、俺は頭の中をぐるぐるとさせていた。
正直今回誰が悪いかと言うと、勝手に此処に来た勇者とそんな勇者にアホ面晒して名前を教えてしまった俺だ。
いや、どっちかと言うと俺の方が悪さのウェイトが重い。
なぜならあの時俺が自分の名前を名乗らなければ、名指しで指名出来ないだろうから特徴だけを伝える事になったはずだ。
そしたらミリヤと、勇者が来るより前にこの街を出て行っとけば、後は神父様や市長たちがそんな人は知らないしいないと突っぱねる事だってできた筈だ。
くうう!!
自分の浅はかさが憎い……!!
でも後悔先に立たず!!やっちまったもんはしょうがない!!
俺は腹を決め、市長や神父様に言った。
「……分かりました。私、勇者様の案内役やります……!」
「コウ……!!!」
ミリヤの悲痛な叫びが胸を締め付けるが、心を鬼にする。
そんな俺達を痛ましげに見ていた神父様が、ゆっくりと口を開いた。
「すまない……。コウにこんな事をさせたくはなかったのだが……」
「いいえ神父様。私の……じご……私のせいです」
自業自得って、こっちでどう言うんだろ?
そーいや黒騎士になったらなぜか難しい言葉とかスラスラ口から出るんだよなー。
マジであの兜の中どうなってんだろ?コワイ。
ともかく俺は腹を決めた!!
ミリヤには本当に、本当に申し訳ないが、こればっかりはどうしようもない!
「ハーゲンさん、アレックスさん。私、頑張りますから連絡お願いします」
「いやーよかった!!君が断っていたらどうやって君とそのコワイお姉さんを説得しようかと頭を悩ませていたんだよ!!受けてくれて本当によかった!!」
「コウちゃん……本当にごめんね……。でもコウちゃんは俺が守るから……安心してね」
真逆の反応をしながらも、ハーゲンとアレックスは大きく頷いた。
「ミリヤさん……」
「…………分かった。コウが決めたのなら私がとやかく言う筋合いはないわ……」
「ミリヤさん……」
「でも!!当然私も一緒に勇者の案内役するからね!!コウ一人にそんな辛い事させられないわ!!」
「ミリヤさん!」
俺は感極まってミリヤに抱き着く。
本当にミリヤはいつも俺がやりたいと思っていることを優先させてくれるし、助けてくれる。
正直ミリヤにまで迷惑をかけたくはないが、俺一人では心細いのも本音だ。
二人で強く抱き合いながら俺はあの腹黒浅黒イケメン野郎に恨みを募らせていた。
あいつさえ教会に来なければ!!ミリヤにも神父様にもシスターにも!!こんなにつらい思いをさせなくて済んだのに……!!
コノ恨ミ晴ラサデオクベキカ……!!




