第6話
「神父様!私達はもう此処を発つわ!!」
あの後、消えた少年の事をミリヤに話すと、ミリヤは血相を変えて神父様に詰め寄った。
神父様の話ではどうやら結界は作動していなかった様で、侵入者は感知できなかった様だ。
えー……こわー。
結局あの少年が何者なのか分からなかったな……。
その後ミリヤは直ぐにでも教会を発つと言っているが、正直俺としては教会の皆が心配だ。
あの少年が何者なのか、なぜ結界が感知しなかったのかを調べない事には教会も安全とは言えないはずだ。
そんな教会を放って俺達だけで行ってしまう事なんて俺には出来ない。
「ミリヤさん……」
「うう!!コウ……そんな顔しないで……」
そんな想いを籠めてミリヤを見つめる。
しばらくミリヤを見つめていると、ミリヤは折れたのか肩を竦めてため息をついた。
「はぁ……。まぁ私も後ろ髪引かれながら行きたくはないし……勇者が来るまではまだ時間があるから少し調べてから行きましょうか……」
「ミリヤさん!」
俺は感謝の意味も籠めてミリヤに抱き着く。
そんな俺をミリヤは、また深いため息をついて強く抱きしめた。
「すまないね……ミリヤ、コウ。お前達の門出の邪魔をしてしまって……」
「はぁ……。謝んないでよ神父様。別に神父様が悪いわけじゃないんだから……」
大きな体で小さくなっている神父様にミリヤは困ったようにため息をついた。
「先ほど結界を掛けてくれた魔術師に連絡を取った。すぐにでも来てくれるそうだ……」
そう!!
この世界電話は存在しないが、こうやって連絡を取れる手段があるのである!
それは水晶の様な球体で連絡を取り合うファンタジー連絡ツール。とても高価なので一家に一台と言うわけにはいかないが、国からの補助を貰っている教会では支給されているのだ。
最初それを見た時はいかにもファンタジーって感じで結構感動したものだ。
っと今はそれ所じゃなかった。
俺はミリヤから離れて、お手洗いに行くとミリヤに伝えるとそのままトイレに向かった。
衛生管理が意外としっかりしているこの世界?この国?ではトイレはちゃんと個室である。
魔法で水も流れて、ちゃんと下水道が通っている。魔法万能節。
じゃあなんで顔洗うのは井戸水なんだと思うかもしれないが、魔法で作られた水とかは基本的に飲んだりとかしてはいけないらしい。
理由はマナとかオドとかの関係らしいが、神父様の授業中半分寝てた俺はちゃんと理解出来なかった。
ともかく俺はトイレの個室に入り、自身にエネルギーを溜める。そして……
「ふむ……こんな阿保らしいことで変身する事になるとはな……」
黒騎士へと変身した。
早速自分の口から嫌みが漏れているが、何時もの事なのでどうしようもない。
黒騎士へと変身した俺は数々の便利な魔法を使う事が出来る。俺はこれを七つの秘密道具ならぬ秘密魔法と名付けた。
その中の一つにして最も重要な魔法!!それは……!!
「ふん。相変わらずこの間抜けヅラを見るとため息が出るな……」
そう!!分身魔法である!!
まず黒騎士の状態で分身して、その後分身だけが鎧を解除!
すると中から普段の俺が出てくるわけなのである!この魔法のお陰で俺は黒騎士だとばれるリスクをかなり軽減出来ていると思う。
分身は本体の俺が倒れるまでは消えないので(多分)、黒騎士である俺が死なない限りは消えることは無い。
当然分身自体の思考も俺と同じなので、違和感なく周りに溶け込むことが出来るのだ!
分身を解除するためには分身と合体する必要があるのと、分身作ってる時は何故か本体は鎧を解除できないのだけが少し不便だが……非常に優れた魔法なのである!!
「早く逝け。お前の顔を見ているとイライラしてくる」
「……わかりました」
なんでこんなに辛辣なの?こいつ……
いや俺自身なのだが、最近輪をかけて酷くなってる気がする……
「……嫌われ者の貴方と違って私は皆から好かれてるから……そんなに私の事が嫌いなの?」
「……は?おい……貴様……」
「……ふん……『ばっかじゃねーの?』」
最後に俺達にしか分からない日本語で俺を罵倒して、ベーっと舌を出し分身はミリヤたちの下へと駆けていった。
「クソガキが……ブチ殺すぞ……!!」
自分!!あれも自分!!
なんで俺同士で喧嘩してんの!?
ともかく俺は黒騎士を落ち着かせる。というか自分を落ち着かせる。
でもさっき分身に言われた事は結構グサリときたな。
確かに黒騎士である俺は、どんだけ街を守ってもギルドの人達を助けても、一向に認められることは無い。
むしろどんどん嫌われていく現状に嫌気もさしていた。
心の中でため息をつき、俺は気を取り直して行動を開始する。
黒騎士モードの俺の秘密魔法その二!!
それは体を黒い霧状に変化させることが出来る魔法である!!ドラキュラみたいに!!
この魔法も本当に便利で、神出鬼没に現れることが出来るだけではなく、少しの隙間とかからも移動できるので非常に有能な魔法だ。
俺は体を霧状にして上空に舞い上がり、教会の屋根の上で着地する。
そこから教会の敷地内全体を見据えて索敵を行う。この索敵こそ秘密魔法その三なのである。
非常に広い範囲を一気に確認することが出来、ソナーの様に微弱な魔力を発射し物体や魔力などを感知することが出来る。
この教会の敷地内ぐらいならものの数秒で感知できるのだが、数分間調べてみたが特に違和感があるところは見つからなかった。
つまりあの少年は幽霊だろうが魔物だろうが魔族だろうが、もうこの辺りにはいないということである。
だとしたら一体どこに行ってしまったんだろうか?
「ちっ……。余計な手間をかけさせてくれる……」
思わず愚痴が漏れる。
このままだと何時まで経っても俺達はこの街を離れる事は出来ないじゃないか。
いつまたあの少年が現れるか分からない以上、俺は心配でこの教会を離れる事ができないし、ミリヤだっていい思いはしないだろう。
だからと言って何時までもここでぐずぐずしてる訳にもいかない。俺達は勇者がこの街に現れる前に此処から出て行かなきゃいけない。
そうやってしばらく屋根の上で索敵を続けていた俺だが、教会の敷地外から教会へ向けて猛スピードで走ってくる二つの物体を見つけた。
この感じ、恐らく馬に乗った人間だがこんな朝から一体誰だろうか?
そう言えばさっき神父様がこの敷地内に結界を掛けてくれた魔術師が来てくれると話していたが、その人では無いだろう。
だってあの人は瞬間移動で………!!!
そうか瞬間移動!!
あの少年は瞬間移動で現れてそして消えていったんだ!!
「阿呆が……。その可能性などすぐにでも気づくべきだろうが……」
なんか自分にダメ出しされたが、だとするとやっぱりなぜ結界が反応しなかったのかが気になる。
……あ!
ちなみに黒騎士になぜ結界が反応しないのかというと、やっぱり黒騎士も俺だからみたいだ。
元々この教会にいる人たちが出入りしても結界は反応しないので、そういう事みたい。
とか考えていると、馬に乗った二人の人物が姿を現した。
あれは……一人はアレックスでもう一人はこの街の市長のハーゲンだ。
まだ若いながら敏腕な人で、市民からの信頼も厚いやり手市長である。
俺は取り合えず索敵はやめ、テレパシーで分身を呼び出し元の姿に戻ることにした。
だってどう考えてもこの二人が来るなんて只事じゃない。
嫌な予感を感じつつ俺は分身と合流すべくまた霧へと姿を変えるのであった……。
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