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第68話 満たされない心(勇者ギーツ視点)

「貴方が私達を……アイドル皆を……全力で守ってください!!」


 目の前の少女の、決意を秘めた瞳が拙者を射抜く。

 嗚呼……本当に彼女も……今やアイドルなんだな……。


 そして思う……アイドルってのは何時も拙者の心を揺さぶる。拙者の魂をいつも鷲掴みにしてしまう!!



 生まれも育ちも海の上。


 親父が誰なのかは解るが、母親が誰なのかは解らない。大方親父が攫って孕ませた女の誰かが、適当に産み落としたのだろう。


 俺の親父は海賊船の船長で、この辺の海では有名な屑野郎だったらしい。なぜらしい、と言うかというと、俺が物心つく頃には船員に反旗を翻されてブチ殺されたらしい。


 ま!知りもしない親父なんてどうでもいいが、問題はそのせいで俺ぁ餓鬼の頃から船の連中に疎まれていた。必要以上に船員の当たりが強かったし、その時の船長は事あるごとに俺に暴力を振るっていた。


 そんな日々が何時までも続く……訳も無く俺が数えて六歳ぐらいになる頃に、俺ぁその時の船長と俺を疎んでいた船員たちを纏めて皆殺しにした。

 俺はその頃には誰よりも腕っぷしが強かったので、他の船員たちも俺に逆らう事は出来なかった。


 そんな訳で俺は僅か六歳ぐらいでその船の船長になった。


 そして……俺が十六ぐらいになる頃には、その海で俺に逆らう奴ぁいなくなった。


 俺は最強だった。

 海賊だろうが、海軍だろうが、海の怪物だろうが……よく分かんねぇ魔族?って連中だろうが、この俺に敵う奴ぁ居なかった。


 海の王様、最強の怪物……そんな二つ名が幾つもついた……が、俺の心は満たされなかった。

 どんだけ暴力を振るっても、どんだけ略奪しても、決して満たされる事の無い心。


 とうとう俺は海の上での生活に飽き……地上に降り立った。


 そこで傭兵みたいな仕事をしつつ、流れる様に国々を渡ったが……やはりどこに行っても満たされる事の無い心……乾いた魂に俺ぁ絶望していた。


 放浪の傭兵生活でいつの間にか手に入れた聖斧とやらを片手に、俺は益々強くなったが……それと比例する様に心の穴もどんどん広くなっていった。


 聖斧のせいで俺は勇者などと呼ばれるようになったが……まぁでもやることは変わらない。唯々傭兵として、戦争に参加、時には進軍してきた魔族共に特攻……それだけだ。


 他の三人の勇者共に会う機会が幾つかあったが……まぁ奴らは俺とは違う人種だった。皆正義感に燃え、人類の存亡の為に戦う戦士達……はっきり言って俺とは完全に違う。


 まぁそんな勇者達も一人を除いて他二人は変わっちまった訳だが……俺にゃ関係ねぇ。


 俺は恐らく死ぬまで変わらないだろう……そんな漠然とした絶望が俺の心を満たしていた。



 放浪の末、俺はエルセリオ王国の首都セントラリアに辿り着いてた。


 そこでも傭兵として魔物を狩る仕事をいつもの様にするだけ……そう思っていた。

 だが俺はそこで見てしまった……彼女達を。出会ってしまったのだ……俺の天使に。


 その日、俺がぶらぶらと街を散策していると音楽が聞こえてきた。そういやこの街では魔道具を使って、若い娘達が歌って踊るってのを耳にしていた俺は、また酔狂な事だと思いながらもついその野外会場に足を運んでしまった。


 そして……壇上で踊るアイドル達を見て……何故か涙が溢れてきた。

 年端も行かぬ若い少女達が……誰よりも懸命に、そして誰よりも輝くために皆に笑顔と幸せを届けている。自分の為に……そして、それを見ている人たちの為に。


 そんな彼女達を見て俺は……自分を恥じて泣いていたのだ。

 俺は何をしている?勇者などと呼ばれて持てはやされても……ああやって必死に、誰かに何かを届けようとしたことはあるのか?


 そんな想いで、涙を流しながら彼女達のライブを眺めていると……そんな俺に、一人の少女が声を掛けていた。


「おじさん……泣いてるの?」


 その少女は……綺麗な赤い瞳で俺を射抜く。


「大の大人がアイドルのライブ見て泣いてるなんて……情けないね?何か悲しいことでもあったの?」

「……へ!悲しいことなんてねぇよ!只……何となく感動しただけだぁよ」

「ふうん?おじさん嘘が下手だね?ま……いいや。何が悲しいのか知らないけど、そんなおじさんの涙をもっと感動の涙に僕が変えてあげるよ?」

「はぁ?」

「今日は泣き虫なおじさんの為に僕が歌ってあげる。だから……おじさんも僕の虜になってね?」


 何とも変な少女だ。

 かなりの美少女なのは認めるが、言動がどうにも可笑しい。


「あのなぁ……」

「おじさん名前は?」

「ああ?ったく。……俺ぁギーツだ……。お嬢ちゃんは?」

「僕はアヤネ。Flora(フローラ) Kiss(キッス)のセンター、アヤネ。今はまだ無名だけど、何れこの街で誰もが認めるトップオブトップアイドルになる女だよ!じゃ、おじさんちゃんと見ててね?泣き虫のおじさんに捧げる僕の歌を!」


 言いたい事だけ言って、少女は走り去って行った。


 なんなんだ?そう思いながらも俺は一応最後までその会場に残っていた訳だが……ついにさっきの少女のグループの出番となった。


「皆……今日は僕たちの為に集まってくれてありがとう。この会場で僕達を知っている人たちも、知らない人たちも……今日は最後まで楽しんでいってね?きっと……この僕に夢中にさせるから!」


 その時彼女と目が合った……そんな気がした。


 そして始まった彼女達の……彼女の、歌とパフォーマンスに俺は圧倒された。


 何という事だ……なんという事だ……!!!

 生まれてここまで感動したことがあったか?心が……魂が震えた事はあったか!!?


 彼女の一挙手一投足から目が離せない!!

 圧倒的な歌唱力とキレのあるダンス。そして時折見せる妖艶な表情と……俺を射抜く瞳!!


 彼女の言う通りだ、俺はいつの間にか感動の涙を流しながら、彼女から目を離せないでいた!!彼女の……虜になっていたのだ!!


 俺はその日生まれ変わった。


 彼女達Flora(フローラ) Kiss(キッス)の追っかけとなり、同じ志を持つ同志達と仲間になり、彼らから色々教わった……で、拙者が産まれたってわけ!

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