第65話 誘惑と決意(クルミ視点)
セントラリア・ルミナフェスを大成功に収めた私達は、その勢いが衰える事は無く次々とライブを成功させていた。
たった二カ月で私達は単独ライブでも、会場は満員になるほどの人気を博していた。
そして、その人気の秘訣はやはり……コウだった。
悔しいけど、私から見てもコウは天才だった。
普段はボケた感じの奴なのに、ライブが始まった時のあいつは目を見張った。決して必要以上に媚びる訳じゃないのに……誰もがあいつを目で追ってしまう。
まだ復活して二カ月しか経っていないのに、いつの間にかあいつはLumi♡Twinkleの顔……つまり絶対的なセンターになっていた。
他のメンバー達の中にも、コウの事を気に入らない奴はいると思う。当たり前だ、だってまだ入って三カ月ちょっとの奴が、いつの間にかグループの顔をしているのだ。でも、そのメンバー達すら口を噤む圧倒的な実力があいつにはあったのだ。
幸いうちのグループは悪質ないじめみたいな事をする人はいなかったし、そもそもコウ自身左程人との係に重きを置いていないのか、必要以上に皆と話すことも無かった。
かと言ってお高く留まってるのかというとそういうわけでもない。コウは誰に対しても優しく穏やかなので、そういった所でも皆コウを中々敵視出来なかったんだと思う。
ただ……コウの最大の欠点であるスタミナ不足は、一カ月程度の走り込みではどうにもなるものでは無かった。ライブが終わった直後は興奮からか元気なのだが、その後寮に帰ると泥の様に眠ってしまう。
しかも二~三曲程度しか体力が持たないので、セントラルステージで披露するのは二曲なのでいいのだが、その他のステージ……例えば単独ライブとかで、もっと多くの曲を披露しなければいけない時どうするつもりなのだろうか?
コウの目的はセントラルステージだけなのだろうが、ここまで来てセントラルステージが終わったら即引退なんて……許さないんだから!!
ともかく私達Lumi♡Twinkleは、このまま一気にセントラルステージまで駆け抜けるだけ!!……メンバー皆がそう思っていたし、当然私もそう思っていた……!
◆
「あなた……今のままで本当にいいのん??」
ある音楽フェスを終え、楽屋へ帰る途中で私は一人の男性に呼び止められた。
見た目はどう見ても綺麗な女性なのだが……声が……太い!!
だから多分この人は男性だ!!……それはそうとして怪しすぎる……なんだこの人……!
「ああ!警戒しないで!私は怪しい者じゃない……エーデル・アークの社長リアルよ?」
エーデル・アークって確かDevil's Winkをプロデュースしている……!!
Devil's Winkは有名なアイドルグループだ。前まではFlora Kissに次ぐ人気を誇るグループの一つだった筈だ!そう前までは!!
今では私達Lumi♡Twinkleに、人気で押され気味だけどね!!
Devil's Winkのセンター、アリヨクは真っ赤に燃えるような髪と、ちょっときつめの赤い瞳が特徴の美少女だ。
セントラリア・ルミナフェスはもちろん、何度か同じフェスで歌った事のある私達に……というかコウに、一方的にライバル宣言してたっけ……。
ともかくそのライバルグループの社長が、私に何の用なんだろうか……?
「だから警戒しないでって!私はただ……あなたが可哀そうで声を掛けたのよ」
「可哀そう……?」
いったい何を言っているのだろうか?
「あなたは才能があるわ!でも……あの娘、コウのせいでその才能を殺されているのよん」
「……は?」
「このままじゃあなたは永遠に二番手……。もしアイスちゃんが復活したらもう大変!コウとアイスちゃんのツートップは確定だもの!」
「何が……言いたいんですか……?」
「ふふ。あなた……Devil's Winkに入らない?」
つまり引き抜きか……この人の目的は。でも……多分だけどそれだけじゃないんだろうな……。
「あなたがDevil's Winkに加入すれば、人気爆発は間違いなし!!あなた才能があるもの……Devil's Winkのセンターの席を用意してあげる!!」
まったくもってこの人は何を言っているのだろうか?私がそこまで頭が悪く見えたのだろうか?
そもそも今いるLumi♡Twinkleをたったの数カ月で止めて他のグループに入ったアイドルを、ファンたちはどう思う?裏切り者?それとも……同じメンバーのコウに勝てなかったから逃げた臆病者……!?
そんな奴が他のグループのセンターなんて張れるもんか!!
「でも……その為にちょっとだけあなたにやって貰いたい事があるのよ」
「……頼みたい事?」
「ええ!!……えっと、この辺に……あ!あったわん!このお薬をねぇ……、コウに飲ませてほしい「あなたがイリヤを攫って薬漬けにしたんですか?」んな訳ないでしょ!!?」
今すぐ街の警備隊の人にこの人突き出したほうがいいんだろうか?
「ありがたいお誘いですけど、お断りします」
「……理由を聞いても?」
「理由?聞く必要あります?どう考えたって怪しいでしょ!貴方!なに考えてるんですか?」
「ン゛ン゛!!」
本当に無駄な時間を過ごした。
「……じゃあしょうがないわねぇ……。こんな手は使いたくは「クルミ?何してるの?」んひぃ!!」
私がなかなか楽屋へ来なかったことを不審に思ったのか、コウが私を迎えに来たみたいだ。
「っっちぃ!!邪魔が入ったわ!!いいことクルミちゃん!!今日の事……またちゃんと考えといてねん!!」
「お断りします」
「ぎぃぃ!!後悔する事になるんだからねぇん!!!」
捨て台詞を残して、リアルさんは脱兎のごとくその場から立ち去って行った。
「クルミ……?大丈夫?今の人は……」
「別グループの社長さんよ。……私にここ抜けて入らないかってさ」
「ええ!!?クルミ……抜けちゃうの……?」
不安そうな表情で私を見てくるコウに、自然と笑みがこぼれる。
「んな訳ないでしょ?別のグループ行ったって意味ないのよ!だって……」
「だって……?」
コトンと可愛らしく首を傾げるコウに、私は更に笑みを深くして言った。
「私はあんたと同じグループで……あんたを超えるんだからね!!……覚悟してなさいよ?何時までもセンターにいれると思わない事ね!!」
コウを指さし、私は宣言する!!
そうだ!!私は……コウに勝ちたい!!
今は確かにコウに負けてる!全てにおいて(体力以外)!!でも……それでもいずれはコウを超えて、私がトップアイドルになるんだ!!
そんな私の宣言に、コウは一瞬驚いた後……ふわりと笑って言った。
「うん。私も負けないよ……クルミ!」
「ふん!望むところよ!!」
私達はそう言って笑い合った。
コウは私のライバルで競争相手で……そして……本人には絶対に言いたくないが、友達だ!
そんなコウを貶めようとする人に、私は靡いたりはしない!!!
……あ!後で警備隊の人に、あの社長が薬持っててコウに飲ませようとしてた事……ちゃんと言わなきゃね!!




