第64話 最強の魔族(魔族ベリアル視点)
魔族の中でバエルを知らない者は誰もいないだろう……。
最強最悪、同じ魔族からをも恐れられる圧倒的武力を持ち合わせる魔族に生まれたバグ。
今の若い魔族達は彼の恐ろしさをそれ程まで知らないだろうが、私は前大戦からの生き残りなので彼をよく知っている。
人間達からしたら忘れ去りたいような悪夢。もしかしたらもう人間たちの伝承には残っていないかもしれない。
そう、前大戦で彼は……人間たちの勇者を最終的に三人も殺しているのだ。
忘れもしないあの光景……。
当時の私はまだ若く、自分の力を過信していた。人間などに自分たちが負けはしないだろうと。
しかしその過信は一瞬で打ち砕かれる。
人間達と魔族の最後の戦争の時。
私は人間の勇者……聖斧を持った勇者にその腕を飛ばされ、あわや命を落とす所だった。それまで人間を見下していた私は、人間の勇者に自分が負けるなどと微塵にも思っていなかった。
しかし、そんな私は勇者に手も足も出ずに敗北した……。
恐ろしかった。勇者というものが。
圧倒的だった。彼ら四人の力、そしてそれを支える聖女・白銀のドラゴンの力は……。
私はその時悟った。我々魔族は彼らに打ち倒される……と。
しかしその時……彼は現れた。
気だるげに彼らの前に現れたバエルに……まず白銀のドラゴンは酷く反応した。
油断をするな!!奴は他の魔族とは違う!!
そう白銀のドラゴンが言った瞬間……剣の勇者の首が宙を舞っていた。
誰もが……人間たちも、私達魔族達も驚き息を飲んだ瞬間……槍の勇者の断末魔が聞こえた。
まだ宙に飛んだ剣の勇者の首を目で追っていた私は……槍の勇者の心臓が、バエルに無造作に投げ捨てられるのを見た。
そして……生き残った二人の勇者が構えた瞬間……彼らの心臓はバエルの蜘蛛の足によって突き刺されていたのだ。
バエルは人型の魔族だが、四本の伸縮自在な蜘蛛の足をもつ。その足の先は非常に鋭利で、万物全てを貫くことが出来る。
結局一瞬で四人の勇者を葬ったバエルは……その後誰もが驚くことを口にする。
バエルは、死体になった勇者達を絶望的な顔で見ている白銀のドラゴンにこう言い放ったのだ。
「あんまりにもあっけなかったなぁ……?んん……わりぃがこいつら蘇生してやってくれねぇか?これじゃあ遊び足りねぇよ……。あ!安心しろよ。蘇生に時間が掛かるだろうが……まぁ、邪魔する奴ぁ俺が何とかしてやる」
驚く白銀のドラゴンと私達。
そんなバエルに抗議しようとした、魔族の将軍は……勇者の後を追う事になった。
誰も何も言えなかった。
恐らく……バエルの気分を害したものは、人間だろうと魔族だろうと滅びる。それが例え……白銀のドラゴンであっても……神々であったとしても……だ。
急いで白銀のドラゴンは勇者四人を蘇生した。そして……。
蘇生された四人の勇者は……剣の勇者と白銀のドラゴンに先を急がせ、残りの三人がバエルの足止めをする事にした。
そんな勇者達にバエルは特に異を唱えなかった。
むしろ残った三人の勇者達を称えてハンデすら与えたのだ。それは……勇者達が逃げない限りその場から動かない、後ろの蜘蛛足は使わない、今も使ってないが本来バエルは二本の魔剣を持っているのだが、もちろんそれも使わない、そして……自分の魔術も当然使わない、更に……片腕だけで相手するというものだった。
完全に格下に見られた勇者達だが、意外にもその提案に勇者達は感謝し、そして……見事数時間バエルを足止めして見せたのだ。
圧倒的ハンデがあったとしても、私はバエルと戦いたいなどと思わない。故に勇者達は本当に……勇気ある者達だと、私は人間を心から賞賛した。
そして……三人の勇者達の命が尽きる前に、残りの勇者と白銀のドラゴンは見事魔王を打ち倒したのだ。
その吉報を受け、バエルを足止めしていた勇者達は……安心したようにその命の灯を消した。
そんな勇者達をバエルは心から賞賛し、魔族達の敗北を宣言したのだ。
だが……人間たちもそれ以上の侵攻は出来なかった。
当然だ。目の前に勇者や白銀のドラゴンをも遥かに凌ぐ化け物がいるのだ。勇者を遊びながらなぶり殺しに出来る怪物がいるのだ。
結局痛み分けの様な結果となり、人間も魔族もそれ以上の戦いを避けた。
こうして長く続いた人魔戦争は終わりを告げたのだった……。
当然生き残りの魔族達はバエルを責めた。代わりにお前が魔王になれと言う者すらいた、だが……バエルは幼い魔王様の息子を立て、それに誰も文句は言わせなかったのだ……。
◆
「んん?なぁに現実逃避してんだぁ?お前?」
「んひぃ!!?」
やばい!!完全に回想で現実逃避してたわん!!?
てゆーか、そんなやばいバエルがなぜ今私の目の前に現れたの!!?
「え……と、私に何か……様かしら……?」
しどろもどろになりながら、何とかバエルに問いかける。
そんな私をバエルは見て、バエルはにやりと笑って答えた。
「そんなに怖がんなよ?……いやなに坊やがな?この街でおままごとに夢中になってるお前のケツを叩いてこいって言うもんでなぁ?」
「おままごと……!」
「普段ならどんだけおままごとやっててもいんだけど、この街にゃあなんだっけ?エン……なんたらドラゴンが来てんだろぉ?流石にそいつを放置できないとさ」
この街に白銀のドラゴンがいる事を、魔王様はもう察知されてるの!?
「ふっはは!坊やは臆病だからなぁ!親父さんを殺した勇者とドラゴンが随分と恐ろしいみたいでな?特にドラゴンの方は早めに処理したいみたいだぜぇ?それに……」
「それに?」
「なんでも黒騎士ってやつがドラゴンを守ってるそうじゃねぇか……」
黒騎士!
九天王のヴェネアちゃんやブベルちゃんを殺した謎の騎士!ついに魔王様も彼を放置できなくなったのねぇ……。
「俺の遊び相手に丁度いいんじゃねぇかってなぁ……。ま!勇者もいるみたいだし、俺もこの街で暫くぶらぶらさせてもらうぜぇ?」
「ええええ!!?」
「あん?」
「はい!!よろしくお願いします!!」
お……終わった!!私の幸せアイドルプロデュース生活が……!!
「ま!仲良くしようぜぇ?勇者やドラゴンの相手はお前に任せるし、この街でのお前の計画にゃ口を挟まねぇから……頑張れよぉ?」
恐ろしい笑みで嗤い、私に肩を組んでくるバエルの圧力に気絶しそうになりながらも私は考える。
こうなってしまった以上仕方がない。せめて白銀のドラゴンだけでも……仕留めなければ、恐らく魔王様は私を粛清するだろう……その為のバエルの派遣……。
私は気合を入れ直し、魔族としての責務を果たすため……白銀のドラゴン抹殺計画を急いで考える……。
でも……私の子達の夢の舞台……セントラルステージはどうしても守ってあげたい!!!
もう!!いったいどうしたらいーのー!!?




