第56話
ミリヤが盗賊から救い出した謎の少女クルミ。
結局彼女の事については名前以外よく解らなかった。
ひとまず彼女が何者なのかは置いておいて、エイシャはクルミを国境付近の街に預けて先に進むつもりだったみたいだが、それにクルミが猛反対した。
何でも微かな記憶の中で、自分の出身地はセントラリアだったような気がすると言う。だから旅の目的地がセントラリアなら連れ行ってくれと懇願してきたのだ。
なんで隣の国の娘が国境超えてこの国で盗賊に捕まってるのかは解らないが、俺達の目的地もセントラリアなのだし、連れて行ってもいいのでは?とミリヤが説得してようやくエイシャも渋々ながら納得した。
こうしてクルミを含め俺達四人は、山を越え谷を越えそして……国境を越え、ようやく目的地であるエルセリオ王国の首都セントラリアに到着したのであった!
あっさり言ったけどほんとーーーに大変だった!!
まず何度も言うがお尻とお股が限界だった。
そして………旅のメンバーにクルミが入った事でクルミはミリヤの馬に、そして俺はエイシャの馬に乗るはめになったのだ!!勘弁してほしい!!
何を血迷ったのか、あの夜エイシャとダンスを踊ってからというもの、俺は今まで以上にエイシャを意識してる気がする!!
あれ以来エイシャからその事をからかって来ることは無くなったけど、俺自身自分がどうしたいのかよくわからなくなってる!!
だから自分の気持ちに整理がつくまではエイシャに極力近づかない様にしてたのだが……。状況が状況だけに仕方がない。なぜなら流石にクルミを、初対面の男性の馬に相乗りさせる訳にはいかないからだ。
結局俺は渋々とエイシャの馬に乗ることになったのだが……何度も言うけど、お尻とかが限界でそれを意識する暇なんてなかったのが不幸中の幸いだったよ………。
あと何か知んないけど俺はクルミに嫌われている様で、すっごいツンツンとした対応される。まだそれほどまともに会話とかしてないけど、あからさまに俺を避けてるのが解る!
というか避けられてる所かほんとに本人の口で、
「私……アンタの事好きじゃないの。悪いけど話しかけないでくれない?」
「ええ……」
と、はっきり言われた。もちろんエイシャやミリヤが居ない時に!
うーーん。なんか嫌われるような事したかな?
何はともあれ俺達は無事(?)セントラリアに到着した訳だし、ここでクルミともお別れだと思っていたのだが、なんとクルミはもう少し自分も同行したいと言ってきた。
何でも自分は記憶がないので、この街で一人にされると困る。役所に連れていかれても、知らない人ばかりで怖いので、暫く落ち着くまで同行してもいいかと言ってきたのだ。
やはりエイシャは渋っていたが、心優しいミリヤはそれを快諾し、取り合えず役所でクルミの身元を調べてもらいつつ、クルミ自身は俺達に同行する事になったのだ。
そして目的の勇者ギーツの探索をようやく開始した訳なのだが……ここで大問題が起こることになる……。
◆
「あ……あの……あのクズ野郎がぁああ!!!」
エイシャの心の底からの憎悪の声が、店内に木霊する。エイシャの隣に立っていた店のオーナーもその声色に恐れ戦き腰を抜かしてしまった。かく言う俺とクルミも余りの恐ろしさに、仲が良くないのを忘れて二人で抱き合い震えていた。
エイシャとはそこそこの付き合いになるが、これほどまでに取り乱したエイシャを見たのは初めてだった。
それ程までに目の前の光景は、エイシャにとっては耐えがたい事なのだろう……。
それもその筈、ここはこの街でも高級な武具を取り扱う店なのだが、店の中央の壁にこれでもかと目立つように立てかけられている一本の斧。
なんとそれは………聖斧マッキャベリに間違いないのである!!
……いやいやいや。なんでこんなとこに聖斧があんの?と疑問に思うかも知れない。
順を追って説明すると、この街の聖女教会へ行って勇者ギーツの情報を集める→なんでも勇者ギーツはつい最近とある武具店を出入りしていたらしい→ならばそこへ行けば勇者ギーツの新たな情報を得る事が出来るだろう!→店に入ると壁に立てかけてある聖斧を見つける→なんとこの聖斧、勇者ギーツがつい最近この店に売り捌いたものらしい!!→それを聞いたエイシャがブチ切れる←今ココ。
えええええ……。何やってんのギーツって人。
あろうことか聖斧を手放すとか、普通に考えたらありえない。
何かのっぴきならない理由でもあるのだろうか?
怒り狂うエイシャをまとまず置いておき、ミリヤがオーナーに尋ねた。
「なんで聖斧を売りにきたの?理由は聞いてる?」
「ええ……。もちろん聞き及んでいますが……」
ミリヤの問いかけにオーナーが歯切れ悪く頷く。
「顧客のプライベートな情報をみだりに言い触らせないのは解るけど、こっちも今それ所じゃないのも解ってるわよね?」
「……はい……もちろんです……けど……」
「お願い。流石にこれは無いわ……。教えて頂戴……」
「……はぁ……そう言われましても……」
ミリヤが問い詰めるが、それでも脂汗を流しながらもオーナーは口を開くことはない。
よほどギーツに強く言われたのか、それとも本当に店として言う訳にはいかないのか……。
そんなオーナーに痺れを切らしたエイシャが、オーナーの前に立つとドスを聞かせた声で言った。
「よく聞け。俺達は今、人々の暮らしを守る為に魔族達と戦っている……」
「……は……はいぃ」
「そして聖斧を売った阿呆もまた、その人類の守護者だった訳だ……!!」
「ひいいぃ……!」
「その守護者の象徴たる聖斧を売るなど……言語道断なんだ!!!どんな大層な理由だとしてもだ!!!言え!!今すぐに……理由を言え!!!」
「エイシャ!!」
あまりに殺意にオーナーが途中で気絶しちゃった……。ミリヤが慌てて止めに入るが無駄だった様だ。
ついでに俺とクルミも気絶しそうです。
しかしオーナーが気絶したことで、理由を知る人間がここには……。
そんな事を思っていたその時!!店の扉をバーーーンと開いて奴が入って来た!!!
二メートルはあるんじゃないかっていう大柄な男!!顔は傷だらけで歴戦の猛者感が半端ない!!
まさか……この男こそ……!!
「貴様は……!!!」
「推し活でござる!!!!」
「……は?」
「拙者が聖斧を売り払った理由……それは……!!!推し活でござるぅ!!!!」
………………ホワッツ?




