第54話
勇者ギーツ。
聖斧マッキャベリに選ばれた元海賊の男性。
非常に大柄な体と屈強な腕力を持った大男で、かつてはたった一人で数千もの魔族相手に無双したこともあると言う伝説を持つ男。
しかし元海賊故に元々非常に素行が悪く、他の勇者達からも嫌悪されていたらしい。
なぜそんな男を仲間に引き入れようとエイシャが考えているかというと、単純に彼だけ変わらなかったからだそうだ。
他二名の勇者が権力などに溺れてしまった時も、ギーツだけはいい意味でも悪い意味でも変わらなかったらしい。
だからエイシャ的には他の二人よりはまし!という事だ。
その後マリィが聖女教会の情報網を使ってギーツの居場所を探り当てた所、どうやらギーツは今エルセリオ王国のセントラリアという首都にいるらしい。
俺達の居る国はリアム大陸の北方にあるラヴァダイ王国という国なんだけど、エルセリオ王国はリアム大陸の東側にある国らしい。
同じ大陸にあるので陸路から行けるのだが、当然時間もめっちゃかかる!!
エイシャは瞬間移動が使えるらしいのだが、誰かと一緒に飛ぶことは出来ないらしいので結局みんなと一緒に馬で行くことになった。
話し合いの結果、ギーツ勧誘係はエイシャとミリヤ、そして俺という事になった。
マリィも当然一緒に行きたがっていたが、前の事件で聖女教会の本拠地が爆破された時、第一王子のレオン様を守る為に大神父様が結界を張ったのだが、レオン様を守り切る為にかなりの力を使ったらしくその反動で今動けなくなってしまったらしい。
その為、今聖女教会の指導者二人が居なくなるわけにはいかないという事だ。
俺としても非常に残念なのだが、駄々をこねる訳にもいかないので仕方がない。
「セントラリアにも聖女教会はあります。そこから魔道具を使って私と連絡を取れますので……どうかお気をつけて……コウ様……!」
「はい……!マリィ様も無理はなさらないでくださいね……!」
涙ながらにそう言うマリィを、俺は強く抱きしめて大きく頷くことしか出来なかった。
「キー……」
「キーちゃんもごめんね?」
俺はキーちゃんの頭を撫でながら、キーちゃんに謝る。
なんでもセントラリアでは魔物をペットにするのは禁止になっているらしいので、マリィに預けて泣く泣くお留守番なのだ。
王様から、俺達の護衛として騎士団を何人か連れていくよう打診されたが、エイシャが断った。何でも今王都が大変な時に、これ以上人は割けないとのことらしい。
全くもってその通りなので、王様もそれ以上言及は出来なかったが、多分エイシャとしては足手まといは(俺以外)いらないという事なんだと思う。
何はともあれ善は急げである。
俺達は皆に見送られながら早速ギーツの居る、エルセリオ王国目指して出発したのである!!
◆
今回の旅は馬車では無く、馬二頭を使った旅になった。
単純に馬車よりスピードがあるのが理由で、流石に悠長に旅が出来る程俺達に時間があるわけではないのだ。いつまた次の魔族が街を襲うか解らないし、早く勇者達の力を合わせて魔王を打ち倒した方がいい筈だ!魔王何処にいるのか解んないらしいけど!!
俺はミリヤの駆る馬に相乗りし、馬に揺られている訳なのだが……やっぱりお尻が痛い!!あと股も!!
エイシャ達曰く、馬に乗るのに慣れていない俺は正しい姿勢で乗れていないらしく、馬の動きに合わせて腰を動かせていないのが原因らしいが……んなこと言われても困る!
心配するエイシャとミリヤに大丈夫だと笑顔で答えたが、ホントは全然だいじょばないのである。お尻痛いよー(泣)。
そんなこんなで休息をとりつつ、エルセリオ王国を目指す俺達だったが、当然何事も無く旅が出来る訳では無かった。途中宿がある街まで辿り着ければ上々なのだが、当然そうもいかず野宿しなければならない時もある。
そんな時恐ろしいのが野生動物、魔物、そして……。
◆
「ほおお!上玉じゃねぇか!!」
「くへへ!!兄貴!!今夜は本当に豊作ですねぇ!!」
「兄貴ぃ!!さっさと殺っちまおうぜぇ!!女はどっちを捕まえるんだァ!!?」
「ばっきゃろう!!両方捕まえるにぃ!!!決まってんだろうがぁ!!!!」
はーい。絶賛今盗賊に襲われ中でーす。
そう。夜の森で恐ろしいのは当然、人間……つまり盗賊です。
どうやら連中は昼間から俺達を張っていたみたいで、俺達が夜休息の為に腰を下ろした瞬間に囲むように現れた現れたのだ。
「男は殺せぇ!!だがこいつ身なりがいいからな!!金目のものは全て奪えよぉ!!女は生かして連れてくぞ!!」
「いやっほーーーう!!!」
何ともテンションの高い盗賊だ。
こっちはお尻とお股が痛くて痛くてテンションだだ下がりだというのに……。
「……はぁ……。ミリヤ……相手してやれ……」
「はぁ……。仕方ないわね……」
さすがの長旅でエイシャとミリヤも若干疲れているのか、盗賊を前にしてめっちゃテンションが低い。かく言う俺も、黒騎士に変身するタイミングが無いのだから何時もならもうちょっと怯えるのだが、体の痛み(お尻&お股他関節の節々)と疲れで怯えるのも億劫だ。
「ぐひゃひゃ!!ねぇちゃんが相手してくれんのかぁ!?」
「……稲妻」
盗賊の言葉を無視してミリヤは剣を抜くと、その切っ先を盗賊達に向ける。
そして剣の切っ先から眩い稲妻が、盗賊達を襲った。
「ぐぎゃあああああ!!?」
「あばばばば!!?」
「ひぎゃあああああ!!!?」
突然の稲妻に盗賊達は反応できずに、哀れ盗賊達はものの数秒で黒焦げになった。
ミリヤは転がっている黒焦げの盗賊達に、止めを刺すべく剣を振り上げる。
「ひ……うああ……やめてくれぇ……俺達の負けだ……許して……くれぇ……」
「は?……あんたたちが襲った人たちが命乞いした時、あんた達はどうしたのよ?」
ミリヤは言葉と同時に剣を振り下ろす。
流石に黒騎士になっていない俺にとって、目の前の人の死は結構きついものがあるので、目を背けようとして、エイシャにそっと目を塞がれた。
「見るな……コウ……」
「……はい」
盗賊達の断末魔が響く森の中、俺は耳も自分の手で塞ぎ、時間がたつのをじっと待っているのだった。
◆
「コウ……ほんとにごめんね?大丈夫?」
「大丈夫です!お姉ちゃんもお疲れ様でした!」
ミリヤが盗賊達を始末した後、俺達は疲れを癒すためテントを張り、汗と血を流すため近くの川で水浴びをしていた。
ミリヤが申し訳なさそうに何度も俺に謝ってくるが、あれは仕方がない事なのでミリヤが謝る事じゃない。でもミリヤとしては俺に嫌なものを見せたのが心苦しいんだろうなー。
俺はちょっと意気消沈しているミリヤに抱き着くと、優しく微笑んで言った。
「お姉ちゃんかっこよかったです!助けてくれて……ほんとにありがとうございます」
「コウ……!!」
ミリヤも俺を強く抱きしめ、頬ずりしてくる。
うん!ミリヤもこれでちょっとは元気出たかな?
「ありがとね!コウ!」
「こちらこそです」
二人でふふふっと笑い合うと、俺達は水浴びを再開した。
さて……これでミリヤは大丈夫だろうが……実はもっと問題が起きてしまった。
「それにしても……あの子、一体どこの娘なのかしら……」
そう、さっきの盗賊達が攫ってきたであろう女の子を一人保護したのだが、その女の子が目を覚まさない為、一体どこから連れ去れたのか解らないのだ。
………後に解るのだが、その少女こそ後に俺とアイドルグループを組み、共に切磋琢磨するライバルになる少女なのだが…………そんな事、今の俺に知る由は無かったのである。




