第47話 絶望(ミリヤ視点)
なぜ私は………すぐにコウの下へ急がなかったんだろう?
エイシャと共にまずはマリィの援助を……と、疑いもせずにのうのうとついて来てしまったのだろう?
「白銀のドラゴンの娘を殺すため……我が部下たちを向わせた。しかしもし万が一のアクシデントで白銀のドラゴンの娘の抹殺に失敗……例えば黒騎士とやらの介入とかな?したとしても、我が部下たちには一人残らず我の魔力を食わせている」
目の前の魔族が得意げに言葉を続ける。
「その魔力は奴らが死ねば我の力……魔力爆弾が発動する様になっている。つまり、誰がどうあがいても白銀のドラゴンの娘を殺す事に支障はない訳だ」
魔族はニヤリと嗤うと、嘲る様に私達に言った。
「此処に我がいる理由は高みの見物の為だ。だが、少々邪魔な仮初の聖女もついでに殺しておくかと思い姿を現した訳だが……ん?……くは!なんだ?戦意を喪失したのか!?」
マリィを見れば、私と同じように愕然として目を見開いていた。それは完全に戦意を喪失している様に見える。
「なんと情けない!!最後まで抗えよ!人間!!………まぁ貴様らの中で唯一戦意を喪失していない勇者も、もうじきその力を失う訳なのだがな……」
「なんだと?」
怒りの顔を隠そうともせず、エイシャは魔族に聞き返した。エイシャもコウがどうなっているのか心配の筈なのに……もしかしたらこいつの言う通り本当に死んでいるかも知れないのに……、彼の戦意は少しも衰えてはいない。
本当にエイシャは……勇者なんだな。でも……私は無理だ。コウを失ってまで魔族と戦う事なんで出来ない。
「ん?貴様らは知らんのか?勇者の神器の力は白銀のドラゴンが源だと」
「……!!?」
「ふは!そんな事も知らないでお前たちはのうのうと我らに歯向かっていたのか?無知程恐ろしいものはないな?」
「だまれ!!」
自分の守護霊に構えさせていた聖弓を自ら手に取り、エイシャは渾身の一撃を放つ。
エイシャから放たれた矢は衝撃波で大地を削りながら、凄まじい勢いで魔族へと打ち込まれる。
しかし……!
「技の切れ味が落ちているぞ?目に見えなくと動揺がある様だな。……勇者とは言えまだ若造か!」
エイシャの矢を難なく躱した魔族は、一跳びでエイシャとの間合いを詰めると右手をエイシャの腹に添える。そして……。
「魔力爆弾!」
「!!!」
言葉と共に魔族の右手は大爆発を起こし、エイシャを遥か彼方まで吹き飛ばした。
「エイシャ!!」
「何を惚けている?次はお前だぞ?小娘」
「!!?」
エイシャに気を取られた一瞬で、魔族は私の目の前に立っていた。
私は咄嗟に剣を構え、魔族へと突き立てる。しかし魔族はその刺突を難なく手で掴むと、先ほど爆発して無くなった筈の右腕を瞬時に回復させて、私の鳩尾へと叩き込んだ。
「あぐ!!?」
「ミリヤ様!!」
私の体はくの字に折れ曲がると、そのまま踏ん張りが効かずに吹き飛んだ。マリィの悲痛の叫びを耳にしながら、私は勢いそのままにゴロゴロと地面を転がる。
「他愛ない。所詮人類などこの程度か……。もういい。もう我が楽しむ要素も無いだろう……。貴様ら纏めてあの世へ逝くといい」
魔族はその言葉と共に、倒れ伏している私と、そんな私に駆け寄ろうとしているマリィの周りに無数の小さな魔力の塊を作り出す。そして……!
「消えろ」
次の瞬間無数の小さな魔力の塊は大爆発を起こした。
結局私は遥々王都まで来て、勇者の役に立つ事も、コウの助けになる事すら出来ずに死んでいくのだ。
絶望に飲み込まれながら……。
なんて……ふざけるな!!
「ほう?」
私はまだ死んではいない。マリィが私と自身、そして貴族令嬢の周りに結界を張ってくれているからだ。
さっきの魔族の腹パンで私の目も覚めた。
まだ絶望して諦めるには早すぎる!!
コウの安否は確かに解らない。しかし……この魔族は言っていた。何らかのアクシデントがあった時、あの大爆発が起きる……と。
つまりアクシデントがあったのだ。そしてそれは……恐らく黒騎士の登場!そして黒騎士があの程度で簡単に死ぬとは思えない!
黒騎士は口と態度が死ぬほど悪いが、なんだかんだ言っていつもコウを助けてくれていた。だから今回も恐らく……!!
私は気合を入れなおし立ち上がる。
剣はさっきの腹パンで吹き飛んで行ってしまったが、私にはまだ魔法がある!
前回魔族に操られた時一時的に上がった魔力だが、魔族の洗脳が解けた今でも魔力は上がったままなのだ。
私は掌で魔力をスパークさせる。まだマリィの強化魔法が掛かっており、それにより私の魔力は更に向上している!!
「まだ闘志が無くならないとは……少々貴様達を侮っていた様だな……」
「当たり前よ!!まだ何も終わっちゃいないわ!!そうよね!?マリィ!!」
「……その通りですわ!私達はまだ……まだ負けてはおりません!!」
空元気でも、虚勢でも……それでも私達は魔族を睨みつけ、堂々と宣言した。
そんな私達を魔族は嘲りの笑みを浮かべて口を開こうとした時、それを遮る様に声が響いた。
「お前か?しょぼくれた花火が得意な魔族は?」
「!!!」
この腹の底から腹立たしい気持ちになる、くぐもった低い声は……!!
「貴様は……!!」
「くくくく。随分とまぁ遊んでくれたな?お前の一人遊びのせいで俺は今非常に腹が立っている……。悪いが俺の鬱憤を晴らすのを手伝ってもらうぞ?魔族……!」
崩壊し瓦礫の山となった建屋の上で、黒騎士は魔族を見下す様に立ち、そう言い放ったのだった……!




