第40話 想定外(聖女マリフィセント視点)
「聖女マリフィセントよ!!彼女こそ白銀のドラゴンであり、真の聖女であるファリス・リア・アイリアス様である」
聖女教会の大神父である、ルシアス神父の言葉が聖堂に木霊する。
今目の前で起こっている悍ましい出来事に、私は気絶してしまいそうになる。
「聖女マリフィセントよ!!これからは彼女を真の聖女とし、お前は彼女の補佐として聖女様をお支えするのだ!!」
ファリス嬢が、何かをして第一王子や国王陛下を操っているのでは?という疑問があったが、これで確信に変わる。
しかも……どうやら彼女は聖女教会までも手中に収めていた様だ。
最近あししげくコウ様達の元へ向かっていた私の隙をついたみたいだが、まぁ随分と手の早い事で……。ここまでくると感心してしまう。
「マリフィセント様……未熟者ですがどうかご指導の程、よろしくお願い致します」
ニコリと微笑んでファリス嬢が口を開く。
なるほど……彼女が第一王子たちに掛けていた呪文は魅了でしたか……しかも、彼女の呪文は今まで見たことも無いほど強力な魅了だ。
この私ですら気を抜けば彼女の術にかかってしまいそうなほどの威力を秘めている。これ程強力ならばたしかに国王陛下や、教会の上層部の連中を虜にしてしまう事は簡単でしょうね……。
しかし解らないのは、なぜ彼女がこれ程の力を得ているかだ。
もし彼女が魔族ならば、私なら一目見て偽装が解る。故に彼女は間違いなく只の人間なのだが、どうやってこの力を……。
「聖女マリフィセントよ!!真の聖女に答えよ!!お前がこれから彼女に仕え支えるのだ!!」
ファリス嬢の隣に立っている第一王子が口を開く。
魅了されているから仕方がない事なのかも知れないが、私は彼がコウ様を牢獄に閉じ込めた事を決して許しはしない。ファリス嬢共々必ず報いを受けさせる……!!
しかし……
「承知いたしました……。私、聖女マリフィセントは真の聖女であるファリス様に仕え、お支えする事を誓います」
にこりと笑って私は答えた。
この場は取り合えずこれで切り抜けよう。無駄に喧嘩を売って、この場で敵を増やすことは得策ではないからだ。
私の言葉にファリス嬢があからさまに安堵するのが解った。
恐らく先ほど勇者に魅了が効かなかった事を気に病んでいた様だ。
「私……マリフィセント様とお二人でお話がしたいです!レオン様!」
「そうなのか……?では……」
「マリフィセント様!どこか二人だけでお話出来る場所はありませんか?」
手を胸の前で握り私に懇願してくるファリス嬢に少しくらくらしてしまうが、私は平然を装って答えた。
「分かりました……。では私が祈るときに使っている部屋に行きましょう。あそこは聖女しか入室することは出来ませんので……」
聖女のみが入室を許されている部屋へとファリス嬢を案内する。
私のちょっとした皮肉にファリス嬢の肩が少し震えるのが解った。
私は心の中でため息をつき、ファリス嬢を聖女の間へと案内するのであった……。
◆
「マリフィセント様……この聖女の間には私達しか入って来れないのですね?」
「はい。それは間違いありませんわ。この部屋は正真正銘、聖女しか入室出来ません」
ファリス嬢が入室出来ているのだから聖女以外も入室可能なのでは?自分で言っておいて自分の言葉に突っ込みを入れてしまう。
「では……念のために、この部屋に結界など張れますか?出来れば言葉が漏れないものがいいのですが……」
これはこれは……。随分とあからさまな事を……。
彼女は此処で私を亡き者にするつもりなのだろうか?それとも出力を上げて私を魅了して意のままに操るつもり……?
どちらにせよ望むところです。
もし万が一戦闘になったとしても、私は負ける気など無いのだから。
「分かりました……。では……」
彼女が望むように、私は部屋に結界を張る。
これで正真正銘彼女と私の一騎打ちだ。
「これで外に私たちの声が漏れる事も、外から私の許可なく部屋に入ることも出来ませんわ?ファリス様」
「本当ですか?」
「本当です。たとえ勇者が突入してきたとしても……耐え抜いてみせますわ?」
「本当ですね……?」
何度も確認を取るファリス嬢に違和感を覚える。
そもそも私を魅了するのも、私を亡き者にするのも、彼女は周りの人間を意のままに操れるのだからそこまで気にする必要は無い筈なのだが……。
「私の女神に誓って……私たちの会話は誰にも聞かれる事はありませんし、この部屋には誰にも入る事は出来ません」
確信をもって私が言うと、ファリス嬢はようやく安堵したのか、大きく息を吐きだす。
そして……
「助けて下さい!!聖女様!!!」
ファリス嬢は大きな瞳に涙をいっぱいに溜めて私に懇願してきた。
……は?
「ファ……ファリス様……?」
「私……私……あの人に脅されて……!!第一王子様も……国王陛下も……私……!!」
「落ち着きになって?ファリス様……。いったい誰に脅されたと言うのですか?」
「リリーナ様を貶めるつもりなんて無かったんです!!しがない男爵家でしかない私がどうして王子様の恋人などになれるでしょうか!?そもそも私……お付き合いしていた男性もいましたのに!!」
頭を大きく振りながら彼女は恐怖に駆られ頭を掻きむしる。
想像だにしていなかった展開に、私の頭は思考を停止しそうになっていた。
「助けて下さい!!聖女様!!私の魅了が効かないのは貴女様と勇者様だけです!!このままじゃ……私とんでもない事を……!!ああああ、お許しくださいリリーナ様!!レオン様!!……国王陛下……!!!」
ついにファリス嬢は地面に這いつくばり、祈る様に首を垂れた。
私は混乱しながらも、ファリス嬢の肩を抱き安心させるように言った。
「大丈夫です。ファリス様。私が必ず貴女を救って見せます……。だから教えてください。いったい誰に脅されているのですか?」
私の言葉に少しだけ冷静さを取り戻したのか、ファリス嬢はしゃくりあげながら小さな声で言った。
「………私を脅しているのは……」
「はい……」
「脅しているのは………!!」
「………」
「……第二王子の………フェネクス様です!!!」




