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第3話

 カラスがカァカァと鳴き声を上げる夕方、俺は教会の子供たちと一緒に歌を歌っていた。

 ちなみにこの歌の作詞作曲は俺である!


 ……うそです。


 元居た世界の童謡のカラスの歌を、此処の世界風にアレンジした曲だ。

 ある日俺が一人で口ずさんでいると、子供たちが興味を示したので教えてあげたのだ。 


 ……あれ?

 この曲のタイトルってカラスの歌だったっけ?なんか違う名前だったような………?


 そんなどうでもいいことを考えつつ皆で歌っていると、一緒に歌っていなかった子供達が近づいてきて、その先頭にいる奴が俺に問いかけてきた。


「おいコウ!お前、ギルドの受付クビになったんだって?」


 そいつの名前はランディ。

 教会に保護されている子供達のなかでも一番体格が良く、俺より年下(多分)なのにすでに俺より一回り体がデカい。

 何かと俺に絡んで来てはからかってくる、まさにジャイ〇ンみたいな奴だ。


「……だったらなに……?」

「ははは!やっぱりな!!お前みたいなノロマで喧嘩も弱くて、未だに言葉もたどたどしい奴がギルドの受付なんて出来る訳ねぇって思ってたぜ!!」


 ランディは大笑いしながら俺をからかってくる。

 本当にむかつく奴だが、俺は海よりも広い心を持っているし、何より大人なのでその言葉を華麗に受け流せるのである。


「お前みたいな奴は教会(ここ)で大人しくしといた方が身のためだぜ!!」


 更に言葉を続けるランディに呆れていると、さっきまで俺と一緒に歌っていた赤毛の女の子が口を開いた。

 

「ランディってば子供ね?コウが心配ならそう言えばいいのに」

「はぁ!!?な……なに言ってやがんだよジュディ!!俺は別にコウのこと心配してなんか……」

「よく言うわよ。コウがバイトしてるとき、心配だからって頻繁にギルドに行って覗いてるくせに」

「な……!!でたらめ言ってんじゃねぇ!!」


 ジュディは俺よりも少し小柄な少女なのだが滅茶苦茶に気が強く、ついでに腕っぷしもこの教会の孤児達の中で最強である。

 

 俺達は成人するとこの教会から出て行かなきゃいけない為、それからは一人で生きなければならない。

 

 だから神父様は俺達が一人で生きていける様に必要最低限の勉強、そして暴漢に襲われても大丈夫な様に体術などを教えてくれる。


 マーシャルアーツ(武芸)とでも言うのだろうか?

 何やら本格的な体術を習うのだが、そんな中で子供たちの模擬戦をした時に一番強いのがジュディなのである。次はランディだ。


 ……俺は、って?…………一番弱いよ!!


 ……あっ!ちなみにこの世界の成人は十八歳である。


 まぁとにかくそんなジュディをランディは面白く思っていない様で、二人はいつも喧嘩している。

 

 この二人、多分だけどこのままくっつきそうだな……。

 二人とも将来ミリヤの様な冒険者になりたいと言ってたので、二人仲良くチームでも組んで冒険者になりそうな気がする、年も近いし。


 とまぁその話は置いといて、この教会の子供たちはこの二人を中心にグループ分けされている。


 ジュディや俺や他の女の子と、気が弱い男の子が少数。

 残りの男の子たちは、ガキ大将のランディを中心とした悪ガキ軍団だ。


「ジュディ!!適当な事ばっか言ってるとはったおすぞ!!」

「はっ!!やってみなさいよ!!アンタなんかに出来るならね!!」


 売り言葉に買い言葉でヒートアップする二人を、周りの子供たちはハラハラと見守っているが、俺はそんな二人を微笑ましく見ていた。


 喧嘩するほど仲がいいとは、この事だろうか?

 

 なんか喧嘩の理由は俺だったような気もするが、そんなことはこの二人には些細な事だろう。

 なぜならどんな理由でもこの二人はいつも喧嘩しているからである。


「ね……ねぇコウちゃん。二人を止めなくていいのかな……」


 心配そうに俺の手を握り聞いてくるコリン。

 この教会の孤児達の中で一番小さい女の子で俺によくなついてくれている子だ。

 

 俺はコリンを安心させるため、コリンの頭を撫でながら言った。


「大丈夫。この二人が喧嘩するのは、仲がいい証拠だから……」


「「仲良くない!!!」」


 俺がコリンを安心させるために言った言葉に二人が同時に反応する。

 

 やっぱり仲いいなお前ら?



「皆ー。食事の用意が出来ましたよー!」


 そんなこんなでわちゃわちゃとしていると、礼拝堂の方から俺達を呼ぶ声が聞こえた。

 

 この教会のシスターで俺達の面倒を見てくれている、シスター・エルメスだ。

 妙齢な女性でいつも微笑みを絶やさない美しい人だが、結構厳しいし何より怒るとめっちゃ怖い。


 一度、ランディが喧嘩で他の男の子を森で突き飛ばしてその子が運悪く滑って転がってしまって行方不明になったことがあった。

 必死の捜索の末、何とかその子を見つけることが出来たのだがその時のシスターの怒り様がすごかった。


 神父様がランディを叱咤していたのだが、ランディは拗ねてしまっていた。そこにシスターが現れてランディを殴り飛ばしたのである。


 呆然とする俺達。

 殴り飛ばされたランディも何が起きたのか理解できずに呆然としていると、その後鬼の形相でランディを叱り飛ばすシスター。


 神父様がシスターをなだめるが意味もなく、何時も優しいシスターからは想像もできないような怒り様にランディ大泣き、周りの子供も大泣き、ついでに俺も釣られて泣いた。


 結局ミリヤがシスターを宥めてくれて事なきを得たのだが、あれから教会の子供たちの中で一つの誓が立った。


───シスター・エルメスは怒らすな……


 まぁそれからランディも暴力を振るう事が極端に少なくなり、嫌みぐらいしか言わなくなったので結果オーライなのだが、あの時の恐怖は俺達の遺伝子に刻まれているのである。


 俺達は急ぎ足でシスターに促されるまま教会の食堂に集まる。


 中では今日の当番の子供達と神父様が既に着席していた。

 俺達も着席すると、それを見て神父様が大きく頷く。


「さぁ。今日もこうして皆で食事が出来る事を感謝して祈ろう」


 こうしてお祈りをした後、俺達は皆で楽しく食事をするのだった……。



「コウ……。起きてる?」


 食事を終えお風呂に入り、ベッドに横になってうとうととしていると、聞き馴染んだ大好きな声が聞こえた。

 慌てて体を起こし声の主に抱き着く。


「ミリヤさん!お帰りなさい」

「ふふ、ただいま!コウ!」


 声の主は俺の恩人であり、義姉でもあるミリヤだった。

 この教会の孤児でもあったミリヤは当然もう教会を出ているのだが、最近は俺を心配して頻繁に教会で寝泊まりしているのである。


「ごめんね?なんか大変なことになってるのに傍にいなくて」

「いえ。全然大丈夫です」

「それでね、コウ。大切な話があるんだけど……」

「……?」


 その言葉に俺は一旦離れると、ミリヤと目を合わせる。

 というかなんか自然とミリヤに抱き着いたが、精神が肉体に引っ張られてるのか最近ミリヤにめっちゃ甘えてしまってる気がする。

 

 そんなことを思い少し赤くなってしまう。

 そんな俺の様子にミリヤは首を傾げた後、気を取り直して言葉を続けた。


「コウ。しばらく私とこの街を離れない?」

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