第37話
「お兄様!!?何をおっしゃっていますの!!?リリーナ様は我が国にとって無くてはならない、アンスウィルム家の公爵令嬢ですのよ!!?それを差し置いてどこの馬の骨とも知らない女性を……!!?」
あ!エレナが話に入って来ないと思っていたら、レオン様の所に行ってたのか。
血相を変えてレオン様に詰め寄るエレナだが、レオン様はそれを涼しい顔で流す。
「ふん。ファリスは真の聖女だ。爵位など関係ない……。それに俺は真実の愛を見つけたのだ」
「レオン様……!!」
真実の愛ってなんやねん。
フィリスさんも顔赤らめて感動してるけど、周りの反応見えてるんだろうか?そんな事してる場合じゃない気もするけど……。
「お兄様!!」
「……エレナ様……ありがとうございます……。ですが……もういいのです」
「リリーナ様!?」
「小娘にうつつを抜かすだけではなく、この様な大切な場で辱められてわたくし……レオン様にほとほと愛想がつきましたわ……!」
俯き、絞り出すように言葉を話すリリーナ様。
誰がどう見ても悪いのはレオン様なのだが……当の本人のレオン様は満足げに大きく頷く。
「リリーナ……。貴様には問いたださねばならない事が山ほどある……。真の聖女であるフィリスをいたずらに傷つけた罪……!!獄中でたっぷりと反省してもらおう!!」
獄中!!!?
この人リリーナ様を捕まえるつもりなのか!!?この場で!!?頭大丈夫!!?
絶対おかしいって!!マジで一回しか顔合わせて無かったけど、こんな事する人じゃないと思うけど!!?
「第一王子ってあんな人だったっけ?もっとまともな人だと思ってたけど……」
俺と同意見なのか、ミリヤが首を傾げる。ですよねー。
「いえ……。あのようなお方では無かった筈ですが……」
マリィも訝しげに首を捻り、レオン様を鋭い視線で睨む。
ううむ。マリィは俺達よりもレオン様と関わりが深いだろうから、間違いないんだろうけど……やっぱり今のレオン様に違和感があるようだ。
「更に、罰せねばならない者がいるな?」
レオン劇場である。
もうだれ一人レオン様について行けない。
「それは……真の聖女であり、白銀のドラゴンであるファリスを差し置いて、自ら白銀のドラゴンを名乗り、あたかも自分が真の聖女であるように皆を騙した悪女……コウ!!貴様だ!!」
はーい。俺でしたーー。
………えええええええええ!!!?
まっていろいろ突っ込ませて!!?
まず俺自ら白銀のドラゴンなんて名乗ったことない!!あと真の聖女とも!!
確かに俺の親(?)は白銀のドラゴンだったから、俺がドラゴンの娘であることは間違いないんだろうけど、それを皆に自慢げに言った事ないけど!!?
それと……真の聖女はマリィだ!!!断じて俺じゃない!!
心の中の黒騎士が手を叩いて爆笑してる!!それ見た事かと!!お前どっちの味方だ!!?
「はぁ!!?コウに何てこと言うのよこの馬鹿王子!!」
「今の言葉を聞き流せませんわ?レオン様……訂正なさって……!」
レオン様の言葉にミリヤとマリィが食って掛かる。ミリヤさん!!かっとなってすぐ罵倒するのやめた方がいいよ!!馬鹿王子はないよ!!馬鹿王子は!!
しかしレオン様はそれをまた涼しい顔で流した。
「聖女マリフィセント……お前はこれから持てる技術を全てファリスに伝えるのだ。真の聖女であるファリスに生涯仕えよ」
「お断りします。生涯お仕えするお方はもう決めております故……!」
「ふん。お前の意見など聞いておらん……。それより衛兵!!リリーナとこの悪女コウを「おい貴様……」うあぁあ!?」
次の瞬間騒めいていた会場が、冷や水を浴びせられたようにシーンとなる。
俺の隣に立っているエイシャの一言で、会場全体が凍り付いた様になった。
「貴様の見るに堪えない三文芝居などどうでもいいが……よもや貴様ごときがコウを捕らえるつもりか………?」
「エ……エイ……シャ……!」
「ここからは慎重に言葉を選べ……これ以上戯けた言動をするのなら、……我が兄とて容赦はせんぞ?レオン……」
殺気というのだろうか?
静かだが圧倒的な殺気が会場に浴びせられる。
殺気を浴びせられた当事者でない人たちも、顔を青くしてガタガタと震える。中には気絶している人もいるぐらいだ。
かく言う俺も……ちびりそうになった……。隣で殺気出すのやめて貰っていいですかね?
「エイ……シャ……兄に向って……お前……!?」
「普段の貴様ならばこのような阿呆な事はしなかった筈だ。……答えろレオン。なぜリリーナ嬢を蔑すますような事をし、そのような小娘を抱え込みコウを侮辱した?……ましてや二人を捕らえるなど………言語道断!!答えろ!!レオン!!」
カッと目を見開き言葉を荒げるエイシャ。だからやめろ!!殺気出すな!!ちびっちゃうだろ!!俺が!!!
問いかけられたレオン様は、蛇に睨まれたカエルの様にカタカタと震えて固まっている。
そりゃエイシャの殺気を浴びせられてる張本人なんだ。怖くて動けないだろ……。
取り合えず話が進まなさそうなので、エイシャの殺気を止めるため口を開こうとして……レオン様の前にファリスが飛び出した。
「やめてくださいエイシャ様!!私が……私が悪いんです!!」
甘くとろけるような可愛らしい声。涙をいっぱいに溜めた瞳は、吸い込まれそうになるほど綺麗な青色だ。
震えながら懸命にレオンを守ろうとする健気な姿は、見る者の心を鷲掴みにする。
なるほど……これはレオン様惚れてもしょうがないな!!女(?)の俺だって惚れそうだ!!
「どけ。俺はレオンと話しているんだ。邪魔立てするなら貴様とて容赦はせん」
血も涙もないの?この人。
こんな可愛い娘が懸命に、震えながら愛する人を守ろうとする姿に、何か思う所無いの?
そんなエイシャの反応に、ファリスさんが驚愕する。
「え!!?」
「……貴様……まさか……「これは一体どういうことだ?何が起っているのだ?」……父上……」
エイシャの言葉を遮る様に、王様が言葉を発した。
今会場に足を運んだであろう王様は、会場のこのありさまを見て目を見開き呆然としているのだった。




