第30話 言い訳(勇者エイシャ視点)
家族達にはコウはまだ、俺の婚約者ではないと確かに説明した。
だがそれは俺の照れ隠しだと思われていた様で、誰一人として信じてはいなかった様だ。
確かに今までの俺に浮ついた話などは一切なかった。
聖女教会の現聖女であるマリフィセントにアプローチを掛けられてはいたが、あの腹黒の目的はあくまで俺の地位と勇者としての力であって、断じて俺自身ではないと断言できる。
他にも貴族のご令嬢達に何度も言い寄られはしたが、彼女達も欲しいのはあくまで俺の権力だろう。
中には本当に俺を好いてくれている女性もいるのかもしれないが、俺はどうにも貴族という種族を信用する事が出来なかった。
他の勇者達が貴族たちによって堕落したのも原因の一つだろうが、何より打算と駆け引きの世界である貴族の世界に辟易していたのだ。
その点コウとミリヤはいい。
彼女たちの言動は、いちいち裏を考える必要が無い。ミリヤは言わずもがなコウも口数こそ少ないが、意外に何を考えているのか表情で分かる。
故に………父上達との話を終え、その後呼び止めたコウが非常に不機嫌であるのが、手に取るように解った。
新しい装備を貰うミリヤには騎士と共に先に行ってもらい、俺は書斎から少し離れた人通りの少ない廊下でコウと対峙していた。
「…………どうしました?……勇者様……」
「ぐ!!いや……すまなかった……コウ。家族には君は婚約者ではないと説明したのだが……」
ジト目で俺を見つめるコウ。
正直そんな顔も可愛いので困るのだが、彼女が怒っているのは明白なので大人しく謝る。
コウが胸に抱いている蝙蝠型の魔物が、心無し呆れるような目で俺を見ている。
こいつ……!
そもそもこの王宮に魔物を連れてくるなど、それこそあり得ない事なのだ。
コウが可愛がっているペットの魔物故、俺が先に王宮の者達に伝えてやったからこの魔物がのうのうと今無事で居れるわけなのに、その目はなんだ?今からでも駆除してやろうか?
まぁそんな事をすればコウが悲しむから出来はしないがな……!
今はともかく……
「だが……君には不快な想いをさせてしまった……。すまない」
正直な事を言うと、俺の婚約者と紹介されてこんなに不機嫌になるのは俺の心に多大なるダメージがあるが、彼女としても納得していない事を周りの人間に勝手に話を進められるのは不本意だろう。
だからこそ俺は誠心誠意謝るしかないのだ。
「……いえ……。私もごめんなさい……。態度……悪かったです……」
俺の気持ちが伝わったのか、コウは眉をハの字にして謝ってきた。
「君が謝る事は何一つない、全て俺の責任だ。後で陛下達にはまた俺から説明しておく……」
「はい……。お願いします」
コウはほっとしたように息をつくと、今度は俺に優しく微笑んだ。
「じゃあこれで……この話はおしまい……です!」
とりあえずコウの怒りは収まってくれた様だ。
しかしここにきて俺は、彼女にどうしても聞いておきたいことが出来た。
また彼女を不快にさせてしまうかも知れないが、これだけはどうしても聞いておきたい……!
「コウ……」
「はい?」
「君は……俺の婚約者と紹介されたのが……そんなに嫌だったか?」
「……え?」
俺は今まで発したことも無いような情けない声が出ていたと思う。
ここで彼女が「はい、不快でした」と声に出さずとも表情で出せば、俺は立ち直れないかもしれない。
俺はコウを見るのが少し怖くなり、横を向いて言葉を続けた。
「君が本当に嫌だったのなら……もう二度とこんな事はさせないと誓う。家族達にも二度と君が婚約者だなどと言わせない……。だが……」
「………」
「俺は君が家族に婚約者だと、ちゃんと紹介できるようになりたい。何故なら俺は……君が……「まって!!」!?」
俺が最後まで言い終わる前にコウに遮られてしまった。
……これは……終わったか……。
俺は失恋のショックを顔には出さず、内心でため息をつく。
だが俺は諦めた訳じゃない。これからも彼女との関わりを続けていけば、コウが心を開いてくれるかもしれない。
大体にして焦りすぎていたのだ。もっとじっくりと彼女との間を詰めなければ……。
そう思いながら俺はコウに向きなおる。
そしてそこには…………
顔を真っ赤にして俯いているコウがいた。
「コウ……?」
「エイシャ様の……エイシャ様の……ばかぁ!!!」
赤い顔をばっと上げ、俺を罵倒するとコウは脱兎のごとく走り去って行った。
あれは……
「ひゅーーーー!見てたよ!エイシャ!!いやーーー、流石は俺の弟!!青春してるねーーー!!」
「お兄様お兄様!!やっぱりコウはお兄様の恋人だったのですね?ふふふ、わたくしちゃぁんと分かっておりましたわ!!」
「……やかましい」
背後から現れた、覗き見していた喧しい奴ら(フェネクスとエレナ)を適当にあしらいつつ、俺はさっきのコウの態度を思い出していた。
コウは間違いなく恥ずかしがっていた。あの可愛い反応を見て間違いないだろう!
婚約者と言われるのは嫌なのかも知れないが、俺の事は憎からずと思っていてくれるのだろう……!
希望はある。これからもコウが嫌がらない範疇でアプローチを続ければきっと彼女も……!
と此処まで考えて、俺はコウが一人で走り去って行ったのを思い出した。
コウはこの城の作りなど解らないだろうから、このままでは迷子になってしまうのではないか!?
俺は慌ててコウの後を追うのであった……。




