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第2話

「あ……あの……。勇者って……」


 おずおずと俺が二人に質問すると、マイカとオーバはハッとしたように俺を見る。


「あ……ごめんコウちゃん!!コウちゃんは勇者様のこと知らないよね!?」

「わりぃコウちゃん!!こっちで勝手に盛り上がっちまった!!」


 二人は俺に謝ると、勇者の事について説明してくれた。

 

 何でも勇者とは神々がこの地上にもたらした聖なる武具に選ばれた存在らしい。

 この地上には4人の勇者がいてそれぞれ伝説の剣、弓、槍、そして斧に選ばれ、各々でチームを組み、魔王討伐の為旅に出ているそうだ。

 各国の国王達はそんな勇者達の為に、国を挙げて支援を行っているそうだ。

 

 その甲斐もあってか勇者達の活躍は凄まじく、魔王軍の幹部たちを次々と打ち倒しているそうだ。


 へー、かっこよ。っと話を聞いていた俺だったが、ここでまた疑問が生まれる。

 そんな勇者がこの街に来るのならば、歓迎こそすれども嫌う理由はないと思うのだが……。


 そんな事を思いながら話を聞いていると、オーバは渋い顔をして話を続けた。


 なんでも勇者がやってきた街では、国の命令でギルドに所属する冒険者含む職員達は勇者の協力者として全力で彼らの手助けをしなければいけないらしい。

 勇者滞在中のギルドへの依頼は全てストップし、冒険者への依頼は全て勇者達からの指示で行う。

 その勇者からの指示を断った場合、最悪冒険者としての地位を剥奪されるケースもあるらしい。


 故に冒険者たちは勇者からのどんな指示にも従わざるを得ないし、それはギルドの職員たちも同じで、逆らった場合良ければクビ、悪ければ投獄される事もあるそうだ。


 そんな話を聞いて俺は、驚きのあまり開いた口が塞がらなかった。

 

 いくら何でも横暴が過ぎるだろう!?


「連中はそれをいいことに、あらゆる街でギルドの受付嬢を愛人にしちゃ楽しんでるって噂もある!」

「うう……。でもそれすら国の命令だからって逆らえないんだよね……」

「くそが!!国のお偉いさんがたもその現状を見て見ぬふりだとよ!!あいつらしか魔王軍にかなわねぇからってなぁ!!」

「はぁ……嫌になっちゃうね……、ってそうだ!!それなら速くコウちゃんを隠さないと!!」

「……え?私を……?」


 いきなり話の矢印が俺に向いて驚く俺を余所に、オーバは口を開く。


「そうだ!!俺ぁアレックスに頼まれてコウちゃんにこの事伝える様に言われて来たんだ!!」

「アレックスさんに……?」

「ああ!!今朝からミリヤがデカイ山でいないからこの事まだ知らねぇだろうからってな!!───コウちゃん!!とりえず今だけギルドのバイト辞めててくれねぇか!?マイカちゃんは完全に職員だから簡単に辞めたりはできねぇが、コウちゃんはあくまでバイトだからな!」


 突然バイト辞めろって言われちゃった。


 ……まぁ今の話的にオーバの言いたいことは理解出来る。

 自分で言うのもなんだが、女になった俺の容姿はかなり良いのだ。

 それ故に勇者たちが来た時に面倒ごとになるのを避ける為に、一時的にバイトを辞めてくれと言うのだろう。


 正直容姿は好かろうが、まだ十五~六程度にしか見えない小娘相手に勇者の食指が動くかどうかは分からないが、皆に余計な心配をかけたくはない。

 俺としてはマイカの方がよほど心配なのだが……。


 そんな俺の思いを察してか、マイカが笑いながら口を開いた。


「あはは!私なら大丈夫だよ、コウちゃん!思いっきりひどいメイクしてお迎えするから!!」


 そう言ってウインクをするマイカに一抹の不安を感じつつも、俺に出来る事はないので俺は目を伏せコクリと頷いた。


「わかり……ました……。バイト……辞めます……」

「うう……。コウちゃんごめんね……。勇者様達がいなくなったらまたすぐにでもバイトしてね!!」

「わりぃなぁ……コウちゃん。でもこればっかりは仕方ねぇよ。やつらがコウちゃんを見て何をしでかすのかわかんねぇからなぁ……。でも奴らも一般人には手出し出来ねぇ!!……ギルドマスター(おやっさん)にはマイカちゃんから言っといてくれねぇか?俺ぁコウちゃんを教会に送り届けてくるから」

「うん!まかせて!……でもミリヤにもこの事伝えないとね……」

「それなら大丈夫だ!アレックスがミリヤに伝える為にそっちに走ったからな。だから代わりに俺が此処にきたんだよ」


 そう言って俺を安心させるようにサムズアップするオーバ。

 

 そうだ。

 ギルドの冒険者が勇者に逆らえないのならば、ミリヤは大丈夫だろうか?


「ミリヤにも暫く身を隠す様にアレックスが言うってよ。それにもし勇者がミリヤを手籠めにしようとしたら、ミリヤの奴が大人しく従うとも思えねぇしな。間違いなく噛みついちまうから、あいつは身を隠した方がいい」

「……オーバさん……」

「あいつは大丈夫さ、コウちゃん!!腐ってもこのギルドの二大巨頭だからな!!それよりも自分の心配をした方がいいぜ?とりあえず俺と一緒に教会に戻ろう?」

「わかりました。……マイカさん……また……」


 俺はペコリとマイカに頭を下げる。

 そんな俺をマイカは今生の別れというわけでもないのに、目に涙をいっぱいにためて抱きしめた。


「コウちゃん……!!絶対にまたギルドのバイトしてね……!!コウちゃんがいないと私も皆もすごく寂しいからね……!!」

「マイカさん……!」


 そう言って涙を流すマイカにもつられて、俺の瞳からも涙が出てくる。

 この体になって感情の起伏が激しくなってる気がするし、それを隠すことが滅茶苦茶難しいのだ。


 俺もマイカにぎゅっと抱き着き、二人で暫く涙を流す。

 そんな俺達を見て、オーバもまた涙を流していた。


「くそ……!!自分が情けねぇぜ!!コウちゃんを守るためとはいえ、こんな方法しか出来ねぇなんてよぉ……!!」


 冷静に考えてみればいったんバイト辞めて、暫く大人しくしとくだけなのだから全然大したことではないのだが、この時の俺達はそんなことを冷静に判断することなど出来ず、ただひたすら抱き合って涙を流す事しか出来ないのであった……!!

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