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第20話 最悪の想定(魔族ヴェネア視点)

「なるほど……確かに黒騎士は脅威だ……だがそやつに私を打ち倒すことは出来ない……何故なら私を打ち倒せるのは神器を他おいてないのだからな……」


 偉大なる魔王様の言葉にハッとさせられる。

 確かに黒騎士は邪魔だが、やはり優先すべきは勇者と白銀の(エンシェント)ドラゴンなのだ。


「なぜうち滅ぼした筈の白銀の(エンシェント)ドラゴンの娘が今なお健在なのかは気になる……がそれもまた脱線に過ぎぬ。今度こそまた確実にうち滅ぼせば、かの龍神とてもう復活は叶うまい」


 どうやって白銀の(エンシェント)ドラゴンが命をつないだのかは判らないが、今度こそ必ず息の根を止める。

 すべては魔王様の御心のままに……。


 一度魔王城に帰還してよかった。私のやるべきことが明確に理解出来た。


 私は使役している魔物を最大限に活用して、白銀の(エンシェント)ドラゴンの娘と今最も邪魔な勇者、天弓の勇者の情報を探った。

 白銀の(エンシェント)ドラゴンの娘は聖なる森の近くにある教会に住んでいて、あの教会には結界が張ってあったため中の様子を遠巻きにしか見えなかったが、あの感じ……もしやあの小娘、自分が白銀の(エンシェント)ドラゴンの娘だと気づいていないのでは?

 なぜ周りの人間たちがあの娘にその事を話していないのかは気になるが、恐らくは間違いないだろう。

 だとすると好都合だ。いくらでも殺りようはある。


 問題は天弓の勇者だがあの男、調べた所都合のいい事にあの小娘に惚れているらしい。

 しかもその事を巡って黒騎士と対立しているのだから嗤える。


 これはチャンスだ。あの小娘を巡って黒騎士、天弓の勇者そしてあの小娘を拾った冒険者の女が全て対立している。

 

 私は早速冒険者の女の心を操り、白銀の(エンシェント)ドラゴンの娘を連れだす様に仕向けた。

 幸い冒険者の女は随分と心が弱っていたので実に操り易かった。


 そして勇者に手紙を出す。

 手紙は不測の事態に備えて二パターン用意していた。


 一つ目は予定通り冒険者の女が小娘を愛憎により殺害するパターン。これにより勇者は愛する小娘を殺された喪失により圧倒的な隙が出来るはず。

 二つ目は予想外の横やり、そう黒騎士が登場したパターン。これは黒騎士の妨害により小娘を殺しきれなかった場合、勇者を呼び出して黒騎士と仲違いをしてほしいケースだ。それによって隙が生まれ、小娘合わせて三人纏めて葬り去れる。


 そして予定通り冒険者の女は小娘に向かって訳も分からず攻撃を繰り出した訳だが、そこに横やりが入る。私が想定していた通り、黒騎士が現れ白銀の(エンシェント)ドラゴンの娘を守ったのだ。


 そして使い魔を使って勇者に手紙を渡し、私達も黒騎士の前に姿を現した。

 ここで黒騎士、白銀の(エンシェント)ドラゴンの娘、そしてすぐに到着するであろう勇者を纏めて葬り去るための完璧な計画……だったはずなのに!!


 なぜ!!なぜ黒騎士が解呪魔法を使えるのか!?なぜ……勇者と黒騎士が力を合わせて共に戦っているのか!!?

 お前たちはあれ程……あれ程嫌い合っていたではないか!!?


「へぇ?貴方と勇者……随分と仲がいいのね?意外だったわ……」


 内心の冷や汗を悟らせない様、余裕を作り黒騎士に尋ねる。

 こいつが白銀の(エンシェント)ドラゴンの娘を守るのは判る。なぜならこいつにとってあの小娘は我々魔族を狩る為の撒き餌だからだ。


 だがなぜ……冒険者の女を守っているのかは実は私には理解出来なかった。

 さっきはそれを最大限利用させてもらおうと思っていたが、今となってはそれも不可能に近い。

 

 勇者が木の上から魔物達を狙撃し、黒騎士が恐ろしい力で魔物達を蹂躙していく。

 殺すべき白銀の(エンシェント)ドラゴンの娘は勇者の腕の中にあり、直ぐにでも纏めて殺してしまいたいが黒騎士が邪魔でそれも出来ない!!


「くくく……。お前は俺と勇者が仲違いをするのを望んでいた様だが、当てが外れたなぁ?」

「……へぇ?」

「くくく……ふふ……ふ……ふははははははははははは!!!」

「……そんな馬鹿笑いして……何が面白いのかしら……?頭おかしいの?」

「これを嗤わずに居られるか!?策士策に溺れる所かこんなお粗末な作戦!!作戦にすらなっていない!!これを計画した阿呆が誰なのかは知らんが、そいつは相当おめでたい頭をしているみたいだなぁ!!?」

「……は?」

「おや?貴様だったのかね?それは失礼……いやなに、結局戦力を此処に集めて一網打尽にしたかったのもしれないが、逆に貴様たちがやられていては元も子もないだろう?」


 こいつ……!!私を馬鹿にしやがった!!

 怒りで頭が沸騰しそうだ!!たかが人間ごときにこの私が……私が……待て、こいつは本当に人間なのか?


 漆黒のランスを縦横無尽に振り回し、魔族や魔物達を紙切れの様に引き裂いていく圧倒的な力。

 私や私の部下の魔族の魔法攻撃を、いともたやすく弾いてしまう漆黒の大盾。

 どれをとっても規格外だ。その力は最早勇者をも上回ると言っても過言ではない……。

 こんな化け物が本当に人間なのか?


 そして何より……こいつは必ず白銀の(エンシェント)ドラゴンの娘の窮地に現れる。

 前回の街への魔族の進軍の時も、そして今回もピンポイントで窮地を救ったのだ。

 

 そこで私の頭の中に浮き出た最悪の想定。

 こいつはもしや……神々が白銀の(エンシェント)ドラゴンを守るために生み出したシステムの様な存在ではないのか?

 私達魔族が白銀の(エンシェント)ドラゴンを害した時に神々が生み出した新たなる防衛システムとして生み出された怪物……だとすると色々と辻褄が合う。

 先代白銀の(エンシェント)ドラゴンを殺害したのも、新しい白銀の(エンシェント)ドラゴンをまた生み出す為に必要なプロセスだったのかも……!!


 そしてそれが真実ならば……不味い!!こいつの牙は魔王様に届きかねない!!

 神々が作り出した神器と同じ性能をもしこいつが持っているとした、こいつは魔王様を害せる力を持っているという事になる!!


「黒騎士ぃ!!!」


 私が最悪を想定して一時フリーズしている時に私と同じ九天王の一人、ブベルが黒騎士に襲い掛かる。


「だめ!!待ってブベル!!!」


 もし私の考えが正しいなら、私達如きでは黒騎士には勝てない。

 ここは口惜しいが一時撤退をするしかない……!

 だが……!!


「ぐぎゃあああああああ!!?」


 ブベルは黒騎士の槍の一突きで跡形もなく爆散して命を散らした。

 何という力!!化け物が!!……強すぎる!!


「ふうむ……弱すぎる……。さて……お前で最後だな?」


 辺りを見回せば、もう残っている魔族は私一人だ。

 他の魔物も魔族も、いつの間にか勇者と黒騎士によって打ち倒されていた。


「では去らばだ……」

「……最後に一つ聞かせて……?」

「断る」


 普通は冥土の土産に一言教えてくれても良くないか?

 だがこの一瞬の会話で私は奥の手を発動出来た。

 

 あまり使いたくはない能力だが、私は自身の意識を低級の魔物に移すことが出来るのだ。

 元の力を取り戻すのにかなりの年月が必要だから本当に最終手段だが……今は致し方ない。


 次の瞬間私の体は黒騎士の槍によって貫かれていた。

 なるほど……黒騎士の槍は、相手を突き刺すと同時に莫大な魔力を流し込み、内側から一気に爆発させる様だ。まさに一撃必殺。

 これによりブベルも一撃で爆発四散したのだ。


 私は粉々になる体を客観的に観察しながら、黒騎士や勇者、そして白銀の(エンシェント)ドラゴンへの怨念を送る。


 ……お前達……次は絶対に皆殺しにしてやる!!!


 その怨念と共に私の意識はフェードアウトした……。

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