第19話 計算違い(魔族ヴェネア視点)
どうしてこうなった?どうしてこうなった!?どうして……こうなった!!?
想定外の出来事に、私の頭は完全に混乱していた。
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魔王様による白銀のドラゴンを完全に殺害する計画は、数十年前から始まっていた。
この世界の守り神の一柱にして、私達魔族にとって最も邪魔な存在である、白銀のドラゴン。
神々は基本的に現世に直接干渉は出来ないのだが、守り神でありながら現世に直接干渉できる存在がいる。その一つが白銀のドラゴンなのだ。
白銀のドラゴンは神々のあらゆる権利を得ており、あのドラゴンが存在している限り我々魔族は人間界への進撃がなかなか困難であった。
何故なら勇者が扱う四つの神器は白銀のドラゴンによってもたらされており、白銀のドラゴンが存在する限り四つの神器を持つ勇者を打ち倒す事は難しいからであった。
先代魔王様が討ち取られて数千年間、現魔王様は魔界にて長く力を蓄えられていた。
先代時代と違い、ありとあらゆる事態に対処出来るよう数多くの魔王幹部を揃え、それぞれの分野でエキスパートを育てられた。
私もその一人。
魔王様によって見いだされ、魔王様直々に育てて頂いた、諜報と催眠術のエキスパートだ。
勿論戦闘だって他の最高幹部にだって引けを取らなかったが、格下の魔物を操りその視覚などを共有する事の出来る能力を持つ私の仕事は主に諜報活動だ。
七十二の幹部が揃うと、魔王様はいよいよもって人間界へと進軍を始めた。
数十人の幹部達による人間界への総攻撃。当然人間界にそれを対処する力は無かった。
魔族の進軍から数年がたち、魔王様の読み通り四つの神器を持つ勇者が現れ次々と幹部達を打ち倒し始めた。
しかし最初の進軍はあくまで奴ら勇者を表舞台に引っ張ってくるための、いわばフェイクであった。
勇者が現れて数年がたち、私達魔族は進撃の手を緩めた。
最初の様な大軍での進撃を止め、少数での破壊工作に切り替えたのである。
人間界は平和となり、魔王様の読み通り勇者たちは堕落していった。
人を腐らすのは権力、金、そして女だ。
勇者たちは我々魔族では無く、人間によってその牙を抜かれていったのだ。
唯一想定外だったのが、弓の勇者だけは堕落しなった事だが、まあ一人だけならなんとかなる。
それに……私達にとって最も重要な任務、白銀のドラゴンの殺害。
白銀のドラゴンが生きている限り、今の勇者たちを殺してもまた新たな神器に選ばれし勇者達が現れる。
今の人間どもは、かのドラゴンを只の象徴としてしか扱っていなかった。
白銀のドラゴンは極力人間たちとの干渉を行っていなかった為、我々が少しずつ人間たちの伝承などを削除していったのである。
その為、白銀のドラゴンが死ねば神器を失う事を人間どもは知らなかったのだ。
私たちがこの時期に進軍を開始したのは何も七十二の幹部が揃ったからだけではない。
白銀のドラゴンは寿命が尽きるその前に、自身の分身として命の湖に我が子を産み落とす。そして完全に命が尽きるまでの数百年の間、次世代の白銀のドラゴンとしてその子を育てるのだが、その時ほとんどの力をその娘に明け渡すのだ。
私たちはその時を待っていたのだ。
そして白銀のドラゴンが丁度新たな命を産み落としたその時、私たちはドラゴンの抹殺計画を開始した。
魔を寄せ付けない聖なる森の結界を、あらかじめ結界のエキスパートが数年にわたり少しずつ侵食していき、そこを通って私たちは命の湖へとたどり着く。
案の定白銀のドラゴンは我が子を命の湖に産み落としており、その力の大半を失っていた。
「貴様ら……まさか……!?」
本来なら私たちが白銀のドラゴンに勝つなど、天地がひっくり返っても無理な話ではあるが、今ならばチャンスがある。
私たちはまず魔王様に預かっていた、闇の呪具により白銀のドラゴンの動きを封じる。そして……
「やめろ!!それだけは……やめてくれぇ!!」
湖に産み落とされた白銀のドラゴンの娘をその手にかけたのである。
快感だった……!!悲痛な叫びを上げるドラゴンも、産み落とされたばかりで何もわかっていない間抜けな赤子を手にかける瞬間も……!!
そもそもこいつらが魔王様に逆らうのがいけないのだ。神々は中立でなくてはならないのに、人間ばかりに力を与えるこいつらがいけないのだ!!!
その後、精神を取り乱した白銀のドラゴンを魔王様の呪具により操り暴走させる。
我が子を失った悲しみにより、無様にも自らの感情を制御できなくなった白銀のドラゴンを暴走させるのは実に簡単な作業だった。
後は白銀のドラゴンは人間たちの手によって討ち取られるだろう。
魔王様の呪いを解除出来る者など人間たちにはいないだろうし、我を失っていたとしても白銀のドラゴンは白銀のドラゴン。勇者でも無ければ討ち取ることなど不可能なのだ。
勇者の手によって打ち倒される白銀のドラゴン。魔王様の書いた最高のシナリオはいま感動のフィナーレを迎えようとしていた……筈だった。
謎の黒騎士が姿を現すまでは……。
実は私は暴走した白銀のドラゴンの攻撃を受けてしまい、戦線を離脱していたのだが、突如現れた黒騎士はその場にいた魔族、魔物を全て打ち倒してしまった。
そこには私の配下の幹部や、結界術のエキスパートである幹部すらいたというのに……!!
その後、黒騎士は暴走する白銀のドラゴンをも打ち倒した。
……想像以上の被害が出てしまったが、私たちの任務は無事成功を迎えたのである。
こうして白銀のドラゴンの力を失った人類はその手の神器すら失い、魔族に対する力を何一つ持たないまま、敗北の道を歩むのだ!!残った我々の脅威は謎の黒騎士だけ……そう思っていたのに……!!
私たちが違和感を感じたのは、白銀のドラゴンが討ち取られて数日がたった後であった。
おかしい……勇者の神器が消えない……!?
数日の内に消えるであろうと思っていた神器が一向に消える気配がないのだ。万が一数年は力が残っている可能性を考慮して一年待ったが、一向に消えるどころか益々力を増していっている様にも見える神器に私たちは困惑を隠せなかった。
私は調査の為また聖なる森へと足を運んで……そこで信じられない者を視た!!
忌々しい銀髪の小娘が街の冒険者の女と親し気に、手を繋ぎ歩いていたからだ!!
あれは……!?なぜ……!?
自分が見たものが信じられなかった。
なぜ白銀のドラゴンの娘が今もこうやってのうのうと生き永らえているのか!?
私自らの手で葬ったはずだ!!
その後、私は部下の魔王軍幹部を使い街を襲わせた。
街に勇者が到着する前に、白銀のドラゴンの娘を葬り去らなければならない……しかし、私は失念していた、一年前白銀のドラゴンを討ち取ったその男の事を。
黒騎士は瞬く間に私の部下率いる魔王軍を壊滅させた。それを隠れて見ていた私は確信する。
あれは脅威だ……もしかしたら勇者以上の化け物かもしれない……!!
新しい計画を立てる必要がある……。
白銀のドラゴンの娘と黒騎士をまとめて打ち倒すための計画が……!!




