第18話 最強の守護者(勇者エイシャ視点)
今日は何とも充実した一日だった。
好きな女性と共に過ごす時間がこんなにも楽しい時間だとは、俺は思いもしていなかった。
兄のフェネクスが愛だの恋だの言っているのを内心馬鹿にしていたが、これは俺も兄の事が笑えないな……。
俺はあてがわれた宿の椅子に体を預けながら、今日という一日を噛みしめていた。
初めてあった時より着飾ったコウを見て、俺は一瞬時間も忘れて見惚れてしまった。
当然あの教会の時よりもちゃんとした衣装で出迎えてはくれるだろうと思ってはいたが、俺の想像など遥かに超える可愛らしさで出迎えてくれたコウを見て、俺の思考は完全に真っ白になったのだ。
何とか気を取り直して座った後のコウの発言も笑えた。
俺は確かに仲間が居ないが、それを気になったのかコウの口から零れ落ちた言葉に、俺は久々に大笑いをしてしまった。
その後気絶してしまったコウには本当に悪いことをしたと思う。恐らく緊張しすぎていたのだろう。
コウの姉を名乗る冒険者と口論になったりはしたが、コウの上目遣い攻撃を受けた時、俺が彼女を今度こそ連れ去らなかった事を褒めて欲しいぐらいだった。
その後、共に馬車で他愛もない話をしながらギルドの視察に行った時も本当に楽しかった。
思った以上に遅くなってしまった為、頻繁に魔族が現れると言う迷いの森に行くのは次の日という事になったが、今から明日が楽しみでならない。
そんな想いで椅子に座り目を閉じていると、突然窓の外から気配を感じた。
少し気を抜きすぎていたか?俺は剣を片手に、窓に近づく。
すると窓の外には蝙蝠の様な小さな魔物が数匹、部屋の窓を覗き込むように飛んでいた。
この程度の魔物仕留めてしまうのは簡単だが、魔物の一体が口に手紙を咥えているのを見つけた。
罠か……
俺は警戒しつつ窓を開け、魔物から手紙を受け取る。
魔物は俺が手紙を受け取ったのを確認すると、そのまま飛び去ってしまった。
あの程度の魔物、街の人間すら殺すことは出来ないだろう。
つまり純粋に俺へのメッセンジャーだった訳だ。
俺は受け取った手紙に、呪いやトラップがないか魔法で解析する。
そして解析の結果、どうやらそういった類のトラップがない事を確認すると俺は慎重に手紙を開いた。
俺の解析魔法をすり抜けて発動するタイプのトラップの可能性が無いとは断言できないからだ。
手紙を開くと、どうやら本当にトラップなどを仕掛けていない純粋な手紙の様だった。だが手紙の差出人の名前は書いてはいなかった。
『聖なる森で黒騎士が、銀髪の少女とその姉を襲っている。黒騎士は危険な男故、勇者様の力が必要不可欠。どうか彼女達を助けていただきたい』
俺はこの簡潔な手紙の内容を読んで、これは十中八九魔族の罠であると確信し、鼻で嗤った。
確かに俺はコウの事を好いているし、黒騎士の事は嫌っている。だからと言ってこの手紙を読んで飛び出していくほど愚か者ではない。
黒騎士はコウの事を撒き餌だと言った。
ならばその大切な撒き餌を自分の手で排除するなどしないだろう。そこだけは妙な信頼を持っていた。
問題は、ここ数日間の俺の動向を魔族が監視していた事だ。
俺がコウを好いていて、黒騎士を好く思っていないなど、俺の動向を監視していなければ判らない事だろう。
俺を監視していたのは恐らく先ほどの様な、取るに足らない魔物達なのだろう。俺の魔法感知に引っかからない程の弱い魔物。それを目や耳として利用できる能力を持った魔族が敵にいるという事だ。
本来ならば無視するべきだ。こんな罠だと丸わかりな手紙に踊らされるなど愚か者のする事だ。
しかし……やはり恋とは人を愚かにさせる。
もし万が一、本当にコウが聖なる森にいるのならば……そう思うと俺は居ても立っても居られなくなる。
「くそ……!!」
コウと出会う前の俺がもし今の俺を見ていたら、余りの愚かさに目を覆っていただろう。
先ほどまでの冷静な判断すらかなぐり捨て、俺は魔族の思惑通りに宿から飛び出していくのであった。
◆
完全に気配を消しながら聖なる森を走ると、突如強大な魔力と共に聖なる森に雷が奔った。
俺は木の上に飛び乗り、現場に急ぐ。
現場に着くとそこには、黒騎士を取り囲む魔族と魔物、そしてその中心には一際禍々しい魔力を放つ魔族が二体いる。そしてその傍らにコウの姉を名乗る冒険者……ミリヤが居た。
いったいこれはどういう状況なんだ?
俺が疑問で内心首を捻っていると、黒騎士が突然俺に向かって声を上げた。
「勇者!!この小娘を受け取れ!!」
「!!?」
その言葉に、俺を含めてそこにいた全ての物たちが驚愕する。
俺は完全に気配を消していたのに黒騎士に気付かれたことに驚き、魔族共は気配を消しての俺の到着に驚いていただろう。
黒騎士の言葉と共に、俺に向かってコウが勢いよく投げ込まれる。
俺は慌ててコウを抱き止めると、辺りが眩い光に覆われた。この波動は……まさか解呪魔法か!?
黒騎士の様な戦闘一辺倒にしか見えない戦士が、僧侶が習得している様な解呪魔法を使用できる事に驚きを隠せないのと同時に、俺は黒騎士を大きく誤解していたと理解する。
光が消えるのと同時に魔物達が一斉に黒騎士に襲い掛かる。
黒騎士はそれを一点に止まって対処していた。それは……黒騎士の足元で解呪魔法により倒れたミリヤを守る様に戦っていたのである。
やはり……俺は黒騎士を誤解していたのだ。
本当に奴が俺の思っていたコウを餌に魔物を狩るだけの人物だとすると、ミリヤを守る必要など何処にも無いのだ。そもそもそんな奴が解呪魔法など覚えるはずもない。
だから奴は……口はすこぶる悪いが、根は本当に理想的な戦士なのだろう。
弱きを助け、強きを挫く……皆が理想とする騎士なのだ。……本当に口は悪いが……。
腕の中のコウが、自分がいつの間にか俺の腕の中に居るのを驚いて目を見開くが、すぐに俺の服を掴んで懇願した。
「お願いします!勇者様!!ミリヤさんを……お姉ちゃんを助けて下さい!!」
涙を流しながら懇願するコウに俺は胸を締め付けられるが、直ぐ様気を取り直して頷く。
「大丈夫だ……。君も君の姉も、俺が………俺達が救って見せる」
恐らく敵の目的は、俺と黒騎士の険悪な関係による仲違いなのだろう。
俺を監視していたであろう奴らからしたら、俺と黒騎士が手を取り合い共に戦うなどとても思えなかった筈だ。
だからこそ強大だが足並みのそろわない俺達を一カ所に集めて、一網打尽にしようと目論んでいたのだろう。
だが………俺は黒騎士を信じる。信じる価値のある騎士だと認める。
俺はコウを腕に抱きながら、守護霊を召喚した。
俺の奥の手だ。ケンタウロスの様な俺の守護霊は、俺の聖弓を携えると黒騎士の周りにいる魔物達に向かって一気に弓を連射した。
「黒騎士よ!!助太刀するぞ!!コウの姉は任せろ!!その間にあの魔族共を倒せ!!」
「!!……ふっ、足手まといは任せた……!」
この期に及んで口の減らない黒騎士に苦笑いが漏れるが、不思議と嫌な気持ちにはならない。
敵は大勢いる。
俺の腕の中にはコウ、そして魔物に囲まれた気絶しているミリヤ。
強大な魔力を発する二体の魔族に、それに追従する魔族達。
客観的に見れば絶望的な状況だというのに、俺は全く負ける気がしなった。
むしろ奴らに同情すら感じる。なぜなら……
この世界において人間たちを守る最強の守護者が、今この場に二人も揃っているのだからだ……!!




