第17話
「ミ……ミリヤさん……なんで……?」
腕の中で真っ青な顔をして、分身がカタカタと震えている。
まぁ気持ちは分かる。今の俺は黒騎士なので、ミリヤの蛮行に対してそこまで感情は動かない。
でもコウは違う。
コウにとってミリヤは本当に、本当に大切な人なのだ。
この世界で右も左も解らなかった俺を誰よりも助けてくれて、そして誰よりも……愛してくれた人なのだ。
肉親の愛など知らなかった俺に出来た初めての信頼できる人。
神父様やシスターの事ももちろん信頼してるし大好きだ。
だがミリヤは……何だろう無条件に全てを信頼できる唯一の人なのだ。
だから、勝手に何をしても許してくれると思い込んでいたのだ。何をしても俺の味方でいてくれだろうと勝手に……。
結果がこれだ。
……と言うわけでは無いだろう。だってどう考えてもおかしい。
「おい。お前が震えるのは勝手だが、分かっているのか?ここで震えてるだけでは何も解決しないと……。そもそも今のミリヤがおかしくなっているのは誰の目から見ても明白だろうが……。何者かに操られていると考えるのが普通だろうが……。それともお前はミリヤが本当に俺にこんな事するとでも思っているのか?」
「………はい……。そうですね……。ミリヤさんが……私にこんな事するはずありません!」
「……よし。ではピーピー泣いてないでさっさと震えを止めろ。煩わしくてかなわん」
「……一言多いよ……でも……ありがと……」
自分に感謝された。……でも黒騎士として不思議と悪い気はしない。
そもそも俺達は口に出さなくてもテレパシーで通信がとれる。
そんな事を忘れる程、内心俺も焦っていたのだろう。
しかしこれからどうするか……。
ここまで派手に暴れていては、そろそろ街の連中も気づきそうなのだがそんな気配は無い所を見ると、この森に誰かが結界を張ったと言う事だ。
なら話は早い。
ミリヤを速やかに制圧して、その誰かを見つけ出し、落とし前を付けさせる。
くくく。
この黒騎士からしたら容易い事よ……。
などと阿保な事を思いながらミリヤの攻撃を捌いていると、流石にミリヤも魔力が尽きたのか魔力による雷が止む。そして肩で息をしながら俺を睨みつけて、糞っ!っと悪態をついた。
よし。後は赤子の手を捻るよりも簡単な作業だ。
ミリヤを気絶させて、分身と合体してしまえば足手まといは居なくなるので格段にやりやすくなる。
そう思っていると、森の奥の方から一人の女が歩いてきた。
目を引くピンクの髪に奇抜なファッション。頭には角が二本生えており、背中には羽、そして腰のあたりから黒く長い尻尾が生えている。
こいつがミリヤを操っている魔族か……。
「へぇ……本当にすごいのね?……今の攻撃をいなすことが出来るなんて……」
「貴様が……」
「ふふふ。そうよ?私が彼女の心の隙間に入り込んだの……。でも、隙を見せる方が悪くなぁい?貴方だってそう思うでしょ?黒騎士さん……?」
「ほざけ。だがよくもまぁ俺の前に姿を現せたものだな?……その愚かな勇気だけは褒めよう」
「へぇ?すごい自信……。もしかして今まで倒してきた奴らのせいで、つけあがっちゃった?」
そう言うと魔族は翼を広げ圧倒的な魔力を放出する。
腕の中の分身がその魔力に蹴落とされ、震えあがるのが分かる。
うーーーん。
確かに今まで倒してきた魔族よりも結構強そうだけど、まぁ問題も無いだろう。
それより問題なのがまだミリヤが気絶していない事だ。
このままじゃ分身と合体が出来ない。
「我が名はヴィネア。魔王軍七十二の幹部の一人にして、魔王様直属の配下九天王に選ばれし者」
「ほう……?」
「私一人でもあなたを殺すなんて簡単なんだけど、今日はスペシャルゲストが二人もいるのよ?」
ヴェネアと名乗った魔族はそう言うと、指を鳴らす。
すると森の奥からぞろぞろと多くの魔物と魔族が姿を現した。……二人どころじゃねぇじゃねぇか!!
あとスルーするところだったけど、魔王の幹部って七十二体もいるの?多すぎね?
うーんまずい。マジで分身が邪魔だ。
ここは黒騎士秘密魔法その四、加速〇置で此処にいる連中を一気に一掃したいところだが、一匹でも取り逃がすとそいつが分身やミリヤに危害を加える可能性がある。なぜならこの魔法は連続で使えないのだ。
まぁうだうだ考えてたって仕方がない。
ここはやっぱり加速〇置でミリヤだけ気絶させて、分身と合体しよう。
分身と合体さえ出来てしまえば、足手まといが居なくなる訳だから何とかなるだろ。
「コウを……コウをかえせぇ!!!」
「嗚呼……かわいそう……大丈夫だよ、ミリヤ?一緒にあの娘をとりもどそ?」
ほんとに可哀そうだよ!!
しゃーないやるか!!っと俺が気合を入れた時、ヴェネアの顔がにやりと歪んだ。
「嗚呼……。後ね?貴方が少しでも動けば……ミリヤは死ぬわ?」
「……ふん。こけおどしにもならないな?その女が死のうと俺には……」
「あはは!関係ないわけないでしょ?だって貴方がミリヤの事どうでもいいんだったら、既にどうとでも出来てたでしょ?でも防戦一方だったって事は……貴方もミリヤが大切なのかな?」
「……貴様」
「だから、少しも魔力を溜めないでね?貴方なにしでかしてくるか分からないし……ね?」
くそったれめぇ!!
こいつ俺より頭がいいな!!
……こうなりゃ次の手だ!!
俺が屈辱に震えていると、森の奥から他とか明らかに違う魔力を発した、大柄の魔族が姿を現した。
全身が真っ黒で目が四つあるライオンの様顔をしていて、両の手には大きな斧を携えている。
「くくく。こいつが黒騎士か?わが魔王軍にとっての最大脅威の一つかぁ!!?小娘抱えて縮こまってやがるぜぇ!!」
はーい。スペシャルゲスト様ごあんなーい。
……どーせこいつも何たら九人衆の一人なんだろ!!?もういいよ!!
さっさとあと一人も連れて来い!!って……んんん??
「俺の名は!!九天王が一人!!ブ「さて……じゃあ始めようか……?」……おいヴェネア!!」
「……!」
「もう一人のスペシャルゲストももうじき来るだろうし、その前に仕上げをしときたいしね?」
「おい!!まだ俺が名乗ってないぞ!!」
「……黒騎士ぃ!!コウを……返せぇ!!!」
あーあーもうめちゃくちゃだよ。
でもこいつらは気付いているのだろうか?
今しがた到着した、もう一人のスペシャルゲストに。
恐らくこいつらが呼んだのだろうが、どういうつもりかは知らないが俺にとっては好都合だ。
奴は気配を消せるのでまだ魔族達には気付かれてはいない。
でも……黒騎士は一度でも感知した気配を見逃したりはしないのだ!
「勇者!!この小娘を受け取れ!!」
「!!?」
その言葉と共に俺は秘密魔法その四、加速〇置を発動させる。
こうなりゃ勝負だ!!俺のクロック〇ップが早いか!!お前がミリヤを殺すのが早いか!!
俺だって只何もせずに佇んで歯ぎしりしてただけじゃない!!
お前がミリヤに何か仕掛けているのは分かっていたから、それを解析していたのだ!!
そしてたった今!!お前の呪いが解析出来た!!
俺は止まって見える時の中で分身を木の上で立っている勇者に向かって投げ渡し、一瞬でミリヤに近づく。
くらえ!!俺が白銀のドラゴンを殺しちまった後悔から生み出した黒騎士秘密魔法その五!!その名も解呪魔法だァ!!
次の瞬間、聖なる森を目も眩むほどの眩い光が満たすのであった。
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