第16話
「つ……疲れたぁぁぁ……!」
俺は自分のベッドに倒れる様に飛び込み、そのまま枕に顔を埋めた。
今日はマジで疲れた。
初っ端の大失敗から始まり、ぶっ倒れて、その後持ち直して勇者に街の案内をしていた訳だが……なんか勇者様の俺への対応とエスコートが紳士過ぎて、俺が案内役って感じじゃ無くなかったか?
ううううう。
困った。……非常に困ったことになった。
何がそんなに困ったかと言うと、そんなエスコートを受けて俺自身、全然嫌では無かったという事だ。
それに街に何でも興味を示して俺に質問してくる勇者様との会話も、全然嫌じゃなかったしむしろ楽しかった。
男とあんなデートまがいな事しといて、俺自身楽しかったのだ!!
握られた手を振りほどこうとは思わなかったのだ!!……俺キモイ……。
……なんでこんな事になったのかは心当たりはある。
それは気絶した時に見た、ドラゴンとの最後の別れのせいだろう。
俺はこの女の体を呪いによる仮初の体だと認識していた。つまりまがい物。
でも俺は白銀のドラゴンの娘だと、はっきりドラゴンが言ったのだ。
この体は呪いによるまがい物ではなく、彼女の娘として新しく生まれ変わったのだと……。
そのせいで俺の中での女としての自意識がかなり高くなったのだと思う。
だからだろうか?勇者様からの女性扱いに違和感を感じる事無く素直に受け止めることが出来たのは。
でも……。
俺の中のもう一つの感情、……黒騎士がそれを全力で否定する。
気持ちが悪い。男のくせに女の様に振る舞い、娼婦の様に笑顔を作り男に媚びるウジ虫。
吐き気がするほど醜悪な毒婦。
速く死んだ方が世の中の為になる存在だ……と。
……ひどすぎね?
流石にここまで考えてはなくね?多分……。
あーもう!女神さまもなんで俺に二つも命を入れたのだろうか!?
どっちかひとつならまだしも、相反する二つの感情を俺の中で上手く整理する事が出来ない!!
などとうだうだ考えていると、俺はいつの間にかすやすやと寝息を立てるのだった……スヤァ。
◆
こんこんと扉がノックされる音がした。
のっそりとベットから体を起こし目を擦る。……今何時だ?
「コウ……起きてる……?」
この声は、ミリヤだ!
俺は急いでベットから降りると、部屋の扉を開けようとして……心の中の黒騎士が最大限の警戒音を鳴らしているのに気付いた。
早く俺に変身しろこの間抜け!っと黒騎士が怒鳴り散らしているのが分かる。
なしてよ……?
でも、この感覚確か前もあったな……。
あの時はこの警戒音を無視して間抜けにも攫われたので、今回は従っておくことにする。
俺は急いで黒騎士へと変身して、分身を作る。
本体の俺は霧状に変化させ、分身に部屋の扉を開けさせた。
「ミリヤさん……お待たせしました!」
「……ふふ。大丈夫よ、コウ。……寝てた?」
「あ……はい……寝てました……」
「今日は大変だったものね?……お疲れ、コウ」
「ミリヤさんもお疲れ様です。……あの……」
ミリヤは朗らかに笑いながら分身の頭を撫でる。
うーーん。別段変わった所も見当たら無いし、やっぱり杞憂だったのかな?
「うーん。コウが疲れてるんだったらいいんだけど、ちょっと一緒に散歩にでも行きたかったんだけど……どう?夜の散歩」
「行きたいです!」
「ふふ。コウは意外と夜の散歩好きだもんね?」
そうなのだ。
俺は意外と夜の散歩が好きだったりする。
勿論一人で夜に歩くなんて論外だが、ミリヤと一緒なら大丈夫だろう。
よく二人でゆっくりと、聖なる森とかを散歩するのだ。あそこ比較的魔物少ないし。
「じゃ!行きましょうか!気晴らしに!」
「はい!」
分身は嬉しそうにミリヤの手を繋ぎ、部屋から出て行った。
えー、いーなー。俺も行きたかったなー。
タイミング見てコッソリ合体して元に戻ろうかなー。
などと考えながら、霧状の体のままミリヤ達を追う。
ミリヤと分身は親しげに談笑しながら、何時もの散歩コースである聖なる森へと足を踏み入れていた。
「コウ……。あの勇者……どう思った……?」
「……?えっ……と、優しい方だな……と思いました?」
「そう……。でも私はあの勇者が信用できないわ……」
「え?……なんでですか……?」
ん?
二人の話題が勇者の話になった時、ミリヤから不穏な気配を感じた。
するとミリヤは立ち止まり、分身を見つめて言った。
「コウ……。明日からの勇者の案内。もうコウが来なくてもいいわ」
「……え?」
「明日からは私一人で勇者の案内をするわ……。コウは教会で大人しくしててね?」
「あ……あの……」
……んんん?
いくら俺が心配だからって、勇者が指名してきたのは俺なのだから、それをすっぽかすわけにはいかないんだけどなー。
分身も思考は同じはずなので、ミリヤの言葉に戸惑っている様だ。
「ねぇコウ……。これはね、お願いじゃないの……」
「ミ……ミリヤ……さん……?」
「コウなら分かってくれるわよね?……私の気持ち」
「あ……えと……でも……!」
ミリヤの雰囲気が変わる。彼女から魔力が高まり、どう見ても臨戦態勢に入っている様に見える。
……これは雲行きが怪しすぎるな?
「……はぁ………コウがどうしても嫌がるのなら……私にも考えがあるわ……」
「な……なにを……」
ミリヤが腰から剣を抜き、そして分身に向かって構えた。
剣先からバチバチと火花がスパークし、今にも襲い掛かってきそうだ。
突然のミリヤの行動に、分身は愕然として涙を流し、ふるふると首を振りながら後ろに後ずさる。
……正直分身していてよかったと思う。
どう考えても何時もじゃあり得ない光景に、普段の俺じゃあ多分分身と同じ行動をとっていただろう。
「ごめんね……コウ。でもね?これもコウの為なのよ……?」
「ミ……ミリヤ……さん……」
「っち!!阿呆が!!どう考えても普通じゃないだろうが!!」
これ以上は見てられない。
俺は霧状にしていた体を実体化し、ミリヤと分身の間に割って入った。
「!!!……お前は……黒騎士!!?」
「ほう……。その間抜け娘と随分と仲の良い様に見えたのだが……姉妹喧嘩にしては随分と度が過ぎていないか?」
「アンタには関係ないわ!!コウから離れなさいよ!!」
「おいおい?今しがたこのクソガキに攻撃しようとしてたのはお前だろう?いくら存在が煩わしいクソガキでも、流石に目の前で殺されそうになったら……俺とて手を出さざるを得ないぞ?」
「私がコウに酷い事するわけないでしょ!!?コウには……少し眠っていてもらうだけよ!!!」
「ははははは!!客観的に自分の行動を顧みて見給えよ!!お前……こんな小娘を眠らすのにそんなに魔力が必要かね!?」
「!!?」
ミリヤは自分が思った以上に魔力を溜めている事にようやく気が付いたのだろう。
何があったのかは知らないが、これで矛を収めてくれればいいが、やはりそうはいかないだろうな……。
ミリヤは俺を睨みつけると、更に巨大な魔力を溜め始めた。
剣先を魔法の杖の様に携え、俺に狙いを定める。
……おかしい。ミリヤはあんなに魔力を持っていなかったはずだ!
「あんたも……あんたも邪魔なのよ……黒騎士……!!どいつもこいつも……!!私とコウの……邪魔をしないでよぉ!!!」
「ミリヤさん!!!」
あ!!馬鹿前に出るな!!このクソガキ!!
ミリヤは分身が叫んだのを一瞬目で捕らえて……涙を流しながら魔力を解き放った。
俺は盾を召喚し、分身を抱き寄せてミリヤの攻撃から身を守る。
分身である俺がもし殺されてしまった場合、俺の勘が正しければ恐らく銀の命はもう二度と復活する事は出来ないだろう。
金の命としては万々歳な結果にも思えるが、何だかんだいがみ合っても半身は半身だ。
放っておくことなど出来ない。
ミリヤの魔力は激しい雷となり、聖なる森を焼き尽くす。
俺はそれを盾でいなしながら、さてどうしたものかと頭を悩ませるのであった……。




