第15話 色ボケ勇者に鉄槌を(ミリヤ視点)
気に入らない……。
「ほう?つまりこの川はこのまま海へと繋がっている訳だな?」
「はい!聖なる森の山から落ちてこの街を伝って……海へ行ってます!」
は?
お前王子だからそんな当たり前の事聞かなくても分かるだろうが?
無駄にコウに労力かけさせるなよ?それとも無知の馬鹿王子なのか?
「あの店は何を売っているんだ?随分と派手な店だが……」
「あ……!あのお店はお菓子屋さんです!……行ってみますか?」
「……いや今度でいい。一緒に行ってくれるか?」
「あ……はい。あそこはケーキも美味しいので、きっと気に入ると……思いますよ?」
「それはいい!その時は俺が奢るよ……」
「え……?あ……ありがとうございます?」
は?
お前この街に何しに来たんだ?
デートでもしたいのなら、コウ以外の女引っかけてきて勝手に行ってなさいよ!!?
何気にコウにデートの約束取りつけてんじゃねぇわよ!!?
本当に!!気に入らない!!
この色ボケ勇者は!!!
◆
あの後私たちは馬車に乗り、市長の役所からギルドへ向かっている訳なのだが、馬車の中で勇者はひっきりなしにコウへ質問を繰り返していた。
可愛くて優しいコウは勇者の質問に逐一答えてあげているのだが、正直もう答える必要なんて無い気がする。何故ならこの勇者は唯々コウと話がしたいだけなのだから。
はぁ……。
こんな事になるのなら、コウを目いっぱいおめかしして出迎えさすんじゃなかった。
ついついフィラさんとマイカに流される形で、コウのお洒落を楽しんでいたわけだが、よくよく考えればこれは全て勇者の為なのだ。
コウは今、フリルをふんだんにあしらった淡い青色のドレスを身に纏っている。
どこかのお姫様と見間違える程似合っているのだが、これが勇者の為の衣装だと思うと途端に捕らわれのお姫様に思えてしまう。
この色ボケ勇者、コウを一目見ただけで目の色変えやがったのだ。
あの時ハッキリ分かった。こいつは敵だと。
あの後コウの爆弾発言があったり、コウが倒れたり、私が勇者に対して不適切な態度を取ったりとかでうやむやになったが、こいつ絶対にコウに惚れたのだ。間違いない。
まぁ気持ちは分かる。
だってコウは世界で一番かわいいし、愛らしいのだ。
そう考えるとやはりこの街に残ったのは大失敗だったと言える。
しかしそもそもこいつがコウを指名してきたのだって、先にこっそに教会に現れてコウを見初めていたからみたいだし、結局私たちは街を出ることなど出来なかったわけだ。
考えれば考える程、腹の立つ男だ。全てがこいつの掌で転がされているようで虫唾が走る。
「……リヤさん。ミリヤさん!」
「っつ!コウ?」
「ギルドに着きましたよ?」
考え事をしていると何時の間にかギルドに到着していた様だ。
コウが心配そうに私を覗き込んでいる。可愛い。
「ごめん、コウ!降りましょうか?」
「はい!」
私の返事に満足したのか、コウが馬車から降りようとした。
すると既に馬車から降りていた勇者がコウに手を差し伸べる。
コウは一瞬止まった後、私の方を見て迷ったが、意を決して勇者の手を取って馬車から降りたのだった。
確かにわざわざ勇者に差し伸べられた手を無視して降りるなんてそんな事したら、不敬な行為として周りから悪い印象になるだろう。……それを分かってわざわざ手を差し伸べたのだ!この腹黒王子野郎は!!
「言い忘れていたが、とても似合っているよ。その衣装」
「ありがとうございます……。ゆう……エイシャ様がお金を出してくださったみたいで……ありがとうございました」
「いや。君に無理を言って案内役をさせているんだ。それ位当然の事だ」
……マジでこの勇者、本当に腹が立つ!!
馬車から飛び降りて、コウを攫って駆け出さなかったことを褒めて欲しいぐらいだ!
「はぁぁ……」
ため息ばかりついてしまう。なんでこんなことになったのか……。
本当なら今頃コウと一緒に違う街で、新しい出会いとか発見とか、色々な楽しい事を共有して心から笑い合えていた筈だったのに……。
「どうぞ勇者様!ようこそ我がギルドへ!!」
ギルド長のゲンヤが、今まで見た事のないような笑顔を作り勇者を歓迎している。
勇者は少し頷くと、コウと手を取ったままギルドの本部へと入って行った。
私はそれを遠目に見ながらまたため息をついた。
先ほどの失敗を繰り返すわけにはいかないので、私は勇者に対してもう強く言う事は出来ない。
またコウにあんな事をさせるのは嫌だし、あの可愛いコウを勇者に見せるのも嫌だ。
───そんなに邪魔なら……消してしまえば良くない……?───
私の心の奥底で囁く誘惑の声。
何を言ってるのか……。そんな事が私如きに出来るなら、奴は勇者などと呼ばれてはいないだろう。
───大丈夫……。貴女なら出来るわ……だって、私が力を与えるもの……。私と一緒に勇者を倒そう?───
何時もの私なら、こんな怪しい悪魔の囁きに違和感しか感じなかっただろう。何処からか私を監視している誰かによる、精神攻撃だとすぐに理解できたはずだ。
だが……今の私はそれが判断できない程に心が弱っていたのだ。
自慢ではないが私はあまり心が強い方ではない。
いつも強気な態度で見てくれを補ってはいるが、自分で言うのもなんだが意外と繊細なのだ。
でも最近は、コウのお陰で私の心は非常に安定していた。
どんな仕事をしてもコウの為だと思えば頑張れたし、コウを抱きしめれば私の心は満たされていた。
だからそんなコウを誰かに奪われるなんて考えるだけでも吐き気がする。胃の奥からせりあがる憎悪が体中を駆け巡る。
それがどんな奴でも、アレックスでも教会のクソガキのランディでも……ましてや勇者でも……だ。
……そうか……私は……コウを愛しているのだ……。
妹としてとか家族としてとか以上に……一人の女性として……だ。
だからコウを奪われたくないのだ。
───だったら……私の手を取って?一緒にがんばろ?勇者を殺して……あの娘を独り占めしよ?───
そうだ……。
勇者を……〇そう……。
私が……私たちが………!!
「ミリヤ?大丈夫?」
マイカに声を掛けられハッとする。
私は今何を?
誰と話していた?
「…………マイカ?」
「ホントに大丈夫?なんか顔色悪いけど……」
「……大丈夫よ!あの勇者にむかついて気分悪いだけだから!」
「あはは!ミリヤ的にはコウちゃん独り占めする勇者様は面白くないかー」
「当たり前でしょ!!コウは私の……可愛い妹なのよ!?」
「ふ…あはは!ミリヤもそろそろ妹離れしないと!」
離れるわけがない。私たちは……ずっと一緒だ。
私はマイカと談笑しながら、右手の甲に見たことも無いような紋章が刻まれていることに気が付くことはなかったのだった……。




