第13話
『湖の女神も随分と酷な事をする。……私を助けるためとはいえ、一つの器に二つの命を入れるとは……。すまない少年……いや我が娘よ。君はこれから多大なる苦労をするだろう。……強大な二つの命は君の中でせめぎ合い奪い合い、そしてそれを安定させるのはとても難しいだろう。』
……誰の声だろうか?
何か聞いたことあるような……
でも……この声を聴いていると落ち着く。
『愛しい愛しい我が娘よ。銀の命を持つものよ。……ありがとう。君のお陰で私は救われた。』
……行かないで………
『君に何一つ残していけない事は私の心残りだが、私はもう限界だ。……さようなら愛しい我が娘。愛しているよ……』
……いやだ!
置いて行かないで!!私を一人にしないで!!………お母さん!!!
◆
ガバっとベッドから飛び起きる。
なんか滅茶苦茶やばい夢を見た気がした……というより鮮明に覚えてるんだよ!!
普通こういった夢って覚えて無くないか!?
……どうやら俺は夢の中の声の主の娘だったようだ。
というか女神様から貰った銀の命の方が……みたいだが。
夢の内容から精査すると、どうやらあの人(?)の今際の際に俺は立ち会っているみたいなのだが、それが何時なのか……思い出せる。
なぜなら、あの声に聞き覚えがあるからだ。
あの声の主は多分だが白銀のドラゴンなのだろう。
なぜ俺が白銀のドラゴンを知っているのかというと教会での授業で神父様が、この世界の守り神の一柱でこの街の聖なる森に住むドラゴンこそ白銀のドラゴンだと教わったからだ。
その時俺は合点がいったのだ。
ミリヤ達は魔王に操られた白銀のドラゴンを助ける為に聖なる森に入り、そして力及ばず全滅しそうな所を俺が助けたのだと。
黒騎士が街に嫌われる理由その1がそこなのかなとも思ったが、白銀のドラゴンが殺されていることは街の人間には表向きには伏せられている様なので(なんか知ってる人も多いようだが)、よくわからなかった。
というか授業中神父様が意味ありげに俺をちらちら見てたのって、もしかして神父様達俺が白銀のドラゴンの娘だって知ってたからなのか!?
だとすると一年前に言われたミリヤの言葉にも合点がいく!!
『!!!───つまらない……?あの娘の親を殺しといてよくも……!!!』
という言葉だが、これずっと引っかかってたんだよね!
謎は全て解けた……!!
犯人は………俺だ!!!
もう頭の中がしっちゃかめっちゃかだ!!というか俺は何時の間にドラゴン語が分かる様になったんだろうか!?
まぁそれは置いといて、なぜ俺が分身した時に仲が悪いのか分かった!
分身すると俺は金の命と銀の命に分かれるのだろう。
最近輪をかけて黒騎士が銀の命に対して辛辣なのは、黒騎士に変身してすぐに半身と分かれるからだったわけだ。
そして分身した銀の命もまた黒騎士に対して敵意を持っていた。
それもその筈、だって親の仇だもん。多分だけど潜在的に金の命が親の仇だと分かっていたんだろう。
何で俺の中で俺同士がいがみ合ってんだよ!!と思っていたが、思ったよりちゃんと理由があったわけだ……。
うがーーーー!!めんどくせーーーー!!
俺にとっての親とは前世での親のことなのだが、正直親子関係はお世辞にもいいとは言えなかった。
親父は浮気して俺達を捨てたし、お袋はそのせいで心を病んでネグレクトするようになった。
俺の兄弟は兄貴と俺だけだったのだが、兄貴は高校に入学と同時に家を出た。
結構悲惨な生活を送っていた俺だったのだが、俺には友達が多かったし親友もいた。
だからあんまり辛くはなかったのだが、正直親に対しては何も期待とかしていなかったのだ。
俺は兄貴と違い頭が良くなかったので、中学を卒業したら働こうかなと思っていた矢先事故に巻き込まれたのである。
親の愛とやらが分からない俺だが、白銀のドラゴンは銀の命を愛してくれていたのだろう……多分。心に響いてくる言葉がとても暖かかったから。
この世界に転生して沢山の人達に大事にされて、大切な人たちが沢山出来た。
でもその大切な人たちが俺を大切にしてくれていた理由は、白銀のドラゴンの娘だから……なのだろうが……それは、ま、いっか!
むしろ得体のしれない俺になんでこんなに良くしてくれるかちょっと疑問だったのだが、そこにも合点がいって良かった!
むしろ問題なのは益々俺が黒騎士だと皆にバレてはいけなくなった事だ。
だって白銀のドラゴンの娘が白銀のドラゴンの仇だったんですーなんて言えるわけがない。
もはやこの秘密は墓まで持っていく事が決定してしまった!!
うーーーーん、困った。
俺が頭を悩ませていると、廊下の方がバタバタと騒がしくなるのが聞こえた。
というか俺、今どこにいるんだっけ?
なんでこんな知らない部屋で寝てるんだっけ?
そんな事をぐちゃぐちゃな頭で考えていると部屋の扉が勢いよく開けられた。
「コウ!!目が覚めたの!?大丈夫なの!?」
「おい貴様!そんなに大声を出すな……コウに迷惑だろうが。まだ寝ていたらどうする……!」
「はっ!!うるさいわよ!!コウと私は視えない強い絆で結ばれてるのよ!!コウが今どういう状態なのか見なくとも手に取るように分かるわ!!」
「ふん。コウがあんなに体調が悪かったのを気付かなかったくせによく言う。貴様とコウの絆など貴様の一方的な思い込みに過ぎんようだな……」
「はぁぁ!!?大体にしてあんたがこの街に来なきゃ、コウがこんな目に合う必要も無かったんでしょうが!!」
ぎゃあぎゃあと罵り合いながら部屋に入ってきたのは、ミリヤと……勇者様!!
やばい思い出した!!
俺は勇者と話している途中で目をぐるぐるさせて気絶したんだった!!
それってめっちゃ失礼じゃない!?ただでさえボッチなのかって失礼な事言った後に、今度は目の前で気絶するなんて喧嘩売ってるとしか思えないよ!!
「あ……あの!!」
「コウ!!やっぱり目が覚めてたのね!?良かったぁ……もう!心配したんだからね!!」
ミリヤはそう言うと、俺を思いっきり抱きしめた。
心配をかけて申し訳ないという気持ちでいっぱいになりつつ、俺は勇者に目を向けた。
勇者は俺を見てホッとしたように息を吐くと、優しい声色で俺に言った。
「少しは顔色が良くなった様だな……」
「あの……勇者様……」
「すまなかった……。コウ」
そう言って頭を下げる勇者に俺は慌てて声を上げた。
「悪いのは私です……!勇者様は悪くありません……」
「コウは悪くないわよ!」
「貴様は黙っていろ!……だがこいつの言う通り君は悪くない。どうやら君には無理をさせてしまった様だな……」
「いえ……!私が勝手に倒れただけです!……悪いのは私です!……ごめんなさい!!」
この勇者マジで人が出来すぎてる!!
客観的に見てもどう考えても俺が悪いのに、なんで勇者様が頭を下げているのだろうか!!?
こうして俺達は、市長たちが遅れて部屋に入ってくるまでの間、二人で頭を下げ合っていたのだった……。




