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第11話

 大!失!敗!


 はぁーーーー。涙が出ちゃう。


 あの後逃げる教会に帰った俺は、へとへとになってすぐに寝てしまった。

 さすがにあの距離の往復は結構きつかったし、何より交渉失敗どころか相手をめっちゃ怒らせてしまったせいで次の交渉が絶望的な様な気がして精神的にも参ってしまった。


 でもやっぱり自業自得なんだろうなぁ……。

 

 なーんであんなこと言ったんだろ?

 マジで黒騎士になると口が悪いだけじゃなくて思ってもない事をペラペラと喋ってるような気がする。

 変身解除して思い返してみても、後悔しかないことが多いのだ。


 勇者は(コウ)の事を気にかけてくれてたみたいだから、その(コウ)の悪口言ったら気分がよくないと分かるだろ!馬鹿なの!?それでうまく交渉できるつもりだったの!?単細胞なの!?

 なーにが「勇者殿……また逢おう。その時は好い返事を期待しているよ……」だよ!?無理に決まってんじゃん!?


 などと後悔しても先に立たず……だ。

 

 しばらく枕に顔を埋めてうーうー唸っていた俺だが、何時までも後悔しても仕方がない。

 しゃーないしゃーない、切り替えてこ!


 取り合えず勇者との交渉はもう無しだ。

 次も絶対に上手くいかない。これはマジで。


 もうあきらめて腹をくくろう。

 ミリヤには本当に本当にホントーに申し訳ないが、勇者の案内役を頑張ろうと思う。

 

 昨夜も会って思ったが、勇者はそこまで嫌な奴には思えなかった。

 少なくともギルドの人達が言うほどクズ野郎には思えないのだ。だってなんか(コウ)が罵倒されたら怒ってくれてたし、普通にクズ野郎ならあの場であそこまで怒りを露にするだろうか?

 

 それに勇者は王子様のようなので、多分だけど素行もそんなに悪くはないんじゃないだろうか?知らんけど。

 

 などとうだうだ考えていると、俺の部屋の扉がノックされた。


「コウー。起きてるー?ジュディだけど。コウにお客さんよー」

「お客さん……?」


 俺は気だるげにベッドから降りると、扉を開けた。


「ジュディ……おはよう」

「おはよ!コウ!アンタにしては珍しく遅いのね?」

「……昨日なかなか寝付けなくて……」

「ああ……。まぁ無理もないか……」

「え……と。お客さんって……」

「あ!そうだった!」


 ジュディはポンと手を叩くと、人差し指を上げて俺に言った。


「市長の奥さんとね!マイカさんが来てるのよ……ってコウ!!何逃げようとしてんの!?」

「だって!ヤな予感しかしないよ……!」

「ふううん?あんた気付いてるのね?でも無駄よ!絶対に逃がすなって言われてんだからね!!」


 ぜってぇ碌な事じゃねぇ!

 十中八九勇者の案内の為のおめかしとかに決まってる!!


 市長の奥さんもマイカも、普段俺の服装に対してかなり印象が悪いのだ。

 俺はギルドの受付をしている時はさすがに制服だが、それ以外の時はシンプルなシャツとズボンとかを好んで着ている。

 たまにミリヤが買ってくれたシンプルなワンピースとかも着るが、あんまりスカートは好きじゃない。

 ミリヤもあまりおしゃれに興味が無いので派手な服とかを買って来ないからいいのだが、マイカ達は違う。

 隙あらば俺にヒラヒラのフリルをふんだんにあしらった派手なドレスとかを着せようとするのだ。


 俺はそれが嫌でいつも逃げているのだが、今回の彼女たちは大義名分を得ているのだろう。

 彼女達に捕まれば俺は今回逃げることが出来ないだろう。なぜなら相手は王子で勇者様。

 俺が拒否しても強制で可愛らしいドレスとかを着させられるのだ!!

 

 だがしかし!!

 勇者がこの街に来るまでにその衣装の事を知らぬ存ぜぬで過ごせば!俺は当日にそんな衣装を着る羽目にはならない筈だ!!


「……ちなみに。ここでもし逃げたら、二人で勝手に決めるって言ってたわよ?あんたの体型なんてあの二人には丸わかりみたいだしね」

「……すぐいくね……」


 やっぱり俺、あの勇者嫌いだ。


 とぼとぼと歩きながら俺は心の中で勇者への憎悪を募らせるのであった……。



「きゃああ!!かわいい!!可愛いよコウちゃぁあん!!」←マイカ

「うふふふふ!!こんな機会なかなか無いんだから!!今日は思いっきりおめかししましょうね!?コウちゃん!!」←市長の奥さんのフィラさん

「あばばば!!コウ!!なんて可愛いの!!?天使!!?天使なの!!?」←ミリヤ


 はーい。

 私は只の着せ替え人形でーす。


 くそったれめぇ!

 マジで小一時間ぐらい同じ店で着せ替えさせられてんだけど?

 何かしんないけど下着まで可愛いのにさせられた!下着まで変える必要あるの!?

 てゆーかフィラさん!一体何着買うの?あとアクセサリーとかもめっちゃ買ってるけどお金大丈夫!?ここ結構高いけどさっきからめちゃくちゃいろいろ買ってない!?


 心配になってきて付き添いのメイドさんに目をやると、メイドさんは笑って答えてくれた。


「大丈夫ですよ?コウちゃん。今回のコウちゃんのお洋服のお金はなんと!全て勇者様が支払って下さるそうです!」

「……はえ?」

「うふふ。今回お越しになる勇者様は天弓の君と呼ばれる方なんですけど、なんと!!あの方はこの国の王子様なのです!」


 知ってます。


「良かったですねぇ。他の勇者様ならいざ知らず、あの方は民の為に戦って下さっていて、街での横暴なんて絶対にされない紳士な方なんですよ!」

「……はぁ……」

「それでね!今回わざわざ案内役を指定したことを詫びて、コウちゃんの衣装とかのお金は全部!!自分が払って下さるって連絡が来たんですって!!」


 余計なことを。

 あやつマジで次会うときどうしてくれようか?


「最初は怒りでピリピリしてたミリヤさんも相手が天弓の君と知って安心されたみたいですね!……もう!それにしても市長も人が悪いですよね!?お越しになるのが天弓の君だと分かってるのなら先に言ってくれれば、こんなに話がこじれなかったのに!」

 

 ね!コウちゃん!

 と言われましても俺としては、今奴に対する好感度は地の底です。


 でもまぁ良かったのかな?

 あれだけ怒っていたミリヤが安心してくれて。

 それだけで、この街に来る勇者があのイケメン野郎で良かったと思う事にしよう。


「それにしても……」

「??」

「コウちゃんが見初められたらどうしましょう!!……というより!!王子さまはコウちゃんのこと知ってて指名したのだったら!!コウちゃんもしかして……もしかすると、かもですよー!!?」


 キャーっと頬に両手を当て、いやんいやんと体をひねるメイドさんを、俺は死んだ魚のような目で見ながら祈った。

 

 あのイケメン勇者様の好みが俺ではありませんように……と……。

 なんか指名されてる時点でもう嫌な予感しかしないのだが、俺は心から祈らずにはいられなかった……。


「さぁコウちゃん!!次はこれ着てみようか!!」

「うふふ!その次はこのドレスにしましょうね!?」

「コウ!!これコウに似合うと思うの!!後で着てみてくれる!?」

 

 うわーい。

 ミリヤが元気になってよかったなー。


 俺は心の中で滝の様な涙を流しながら、引き続き着せ替え人形へとなるのだった。


 俺の受難はまだまだ続く………。

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