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プロローグ

「はぁ……はぁ……!」 


 暗い森の中を男は全速力で走っていた。


 背後からは今にも男を襲わんとする魔物の唸り声が、背中に聞こえる。

 このまま闇雲に走ってもすぐに追いつかれて魔物の餌になるだろう。

 こんな事になるのなら、祖母の言う通りに今日狩りに行くのはやめて、家で大人しくしていればよかった。

 

 最近街の周りには以前よりも物騒な魔物や魔族達が徘徊している為、狩りに行くときはギルドに護衛をしてもらっていると仲間たちが話しているのは知っていたが、実際に遭遇した事のなかった男はその話を完全には信じていなかった。

 

 それ故、今日は森がざわめいている、危険だから森に入るのはやめろ。と言う祖母の言葉を無視して今日も狩りをするため一人で森に入ったのだ。


「ぐるるるる……!!」


 大型の狼のような魔物のうめき声がすぐ背後から聞こえた。

 もう魔物に追いつかれたのだ。


 もうだめだ……!!!


 次の瞬間には自分は魔物に無残に食い荒らされるだろう。

 恐怖と後悔で頭がいっぱいになって目をきつく瞑る男だったが、いつまで経っても魔物の牙による痛みが襲い掛かる事はなかった。


 ふと気づくと、魔物の気配も消えている。

 

 薄目を開け辺りを見回すと、そこには魔物たちの無残な死体がいくつも転がっていた。


「ひ……?ひぃぃ!!?」


 あまりの大惨事に腰を抜かす。

 そんな男に低くくぐもった声が届いた。


「くくく……。この程度の事で腰を抜かすような奴が、よくもまぁこの森を一人でうろうろ出来たな?」


 それは闇に溶ける漆黒のフルプレートの鎧を身に纏った騎士だった。


 男はその存在を聞いたことがあった。

 一年前から神出鬼没に街に現れては、魔族や魔物たちを狩る。


「あ……あんたは……確か……黒騎士……?」

「俺が何者かなんてお前には関係ない。腰を抜かしている所悪いが、さっさと此処から消えろ」


 黒騎士は、腰を抜かしてへたり込んでいる人間に対してあんまりな言葉を投げかける。


 その言葉に少しカチンときた男だったが、次の瞬間その怒りも一瞬でなりを潜める。

 

 何と黒騎士の後ろには、先ほど自分を襲った魔物とは比べ物にならない程の巨大な魔物達が牙を向き、黒騎士に今にも襲い掛からんと威嚇していたからだ。


 すると、その魔物達の間をゆっくりと歩いている影が見えた。そいつは四つの目をもち、額からは大きな角がある。

 歩くたびに周りの草花が枯れていき、足跡からは黒い湯気のようなものが立ち上っている。


 あれこそ魔物達を統べる邪悪の長、魔族だった。 

 

 魔族をその目に見ただけで、男は恐怖で体をガタガタと震わせた。

 あれに比べれば先ほどまで自分を追い回していた魔物達が可愛く見えてしまう。


 魔族はゆっくりと黒騎士を見定めると、口を開いた。

 

「貴方が我々の邪魔ばかりする、黒騎士ですか……。困ったものですねぇ。貴方のせいで我々の同胞の命が随分と奪われたそうじゃないですか」


 穏やかに話す魔族だが、その言葉一つ一つに憎悪を感じる。

 圧倒的な捕食者である魔族の言葉に、男は自分が話しかけられたわけでもないのに恐怖で失禁した。


「貴方は見つけ次第惨殺しろとのことですよ?私としては無益な殺生は好みませんが上の命令には逆らえません。申し訳ありませんが……がは!!!?」

「ぺらぺらとよく喋る……」


 魔族の言葉が終わるか終わらないかの間に、黒騎士のランスが魔族を貫いた。

 苦悶の表情を浮かべ黒騎士を睨みつける魔族だったが、次の瞬間跡形もなく爆発した。


 自分たちの長がやられたことで魔物達に動揺が走る。

 そんな魔物達の動揺を見逃さず、黒騎士はランスを縦横無尽に振り払う。


 一瞬の出来事だった。


 竜巻の様にランスが魔物達を振り払い、抵抗する暇もなくズタズタに粉砕される魔物達。

 男は呆然と、黒騎士の戦いを見ていた。 


 そしてあっという間にそこにいた魔物達は物言わぬ屍となり、森は静寂を取り戻す。

 

 黒騎士は惨殺した魔族と魔物達を一瞥すると、男に向かって口を開いた。


「森に入りたければ、護衛でもつけるんだな。まぁ……また無様に失禁したいのならば一人で入ることをおすすめするがね……」


 それだけ言い残し、黒騎士は森の中へと消えていった。


 男はしばらく呆然とその場に座り込んでいた。

 あまりの現実離れした出来事に、頭が動かなくなってしまっていた。


 何時までそうしていただろうか?

 

 呆然としていた男は背後から突然肩を優しく叩かれる。


「う……うわぁああ!!?」


 凍ってた思考が一気に覚醒して、男はその場から飛びのいた。

 

 そして慌てて振り向くと男は目を見開いた。

 そこには今まで見た事のないような美少女が立っていたのだ。


 銀色の長く美しい髪に宝石の様に青い瞳に整った顔立ち、白く透き通った肌は暗い森の筈なのに輝いて見える。


 少女は男の反応にびっくりしたのか少し固まっていたが、気を取り直し口を開いた。


「あの……大丈夫……ですか……?」


 透き通るような声で話しかけられ、また男はフリーズする。

 そんな男の反応に少女は少しびっくりして一瞬硬直するが、気を取り直して再度口を開く。


「あ……あの……「コウ!!みつかったの!?」……ミリヤさん」


 少女の言葉をかき消す様に、女の声がした。

 見れば森の奥から、活発そうなショートカットの赤毛の女性が走ってきた。

 赤毛の女性は街でも有名な冒険者であるミリヤであった。


「ミリヤさん。この人だと思います」

「もう!!コウが不思議な力持ってるのは知っているけど、あんまり一人で先に行かないで!!」

「う……ごめんなさい……」


 ミリヤは男に目もくれず、少女を強く抱きしめる。

 ミリヤに強く抱きしめられ、うぐっと声を上げる少女だが、そんなことは気にせずミリヤはさらに強く少女を抱きしめた。


 そんな光景を呆然と見ていた男だが、ふと抱きしめられている少女と目が合う。

 

 男と目が合った少女は申し訳なさそうに笑った。

 そんな少女を見て、男も苦笑いする。


 今日はひどい目に逢った日だ。

 だが元はと言えば自業自得だし、なによりピンチは黒騎士に助けて貰った。


 黒騎士。

 街でたまに話題に上がる存在だ。


 やれあいつは邪悪な存在だの、クズ野郎だのと評判の悪い黒騎士だが、実際会ってみると口こそ悪いもののちゃんと助けてくれたし、そんなに悪い奴には見えなかった。


 男はふと空を見上げる。

 どんよりとした暗い森に、いつの間にか光が差し込んでいた。



 リアム大陸の北方に位置する国、ラヴァダイ王国。

 そしてラヴァダイ王国の外れにある街、リヴァレン。


 その街に危機が迫った時に、神出鬼没に現れると言う謎の黒騎士。


 伝説の神龍をも殺すと言われる最強の騎士は悪魔か天使か。


 その正体を知る者は誰もいなかった……。

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