第七節:剣と共に眠る地
ユリウスがまず向かったのは、レオの故郷だった。
かつて緑に覆われた戦士の村、いまは人気もなく、風が吹くたびに枯れ葉が舞い上がるばかりだった。
門も家も壊れかけていて、長く人の手が入っていないのがわかる。
それでも、村の中心――かつて剣の道場があった場所には、綺麗に整えられた一角が残されていた。
そこに一振りの剣が、土に突き刺さるように立っていた。
「……レオ……」
ユリウスはゆっくりとその剣に近づき、しゃがみ込む。風に草が揺れ、遠くから小さな鐘の音が聞こえるような気がした。
「やっぱりここに帰ってきてたんだな」
かつての旅の中で、レオはこう語ったことがある。
『俺の剣は、どこで折れても構わない。けど、心だけは、この村に置いてきたままだ』
ユリウスはそっと、剣の柄に手を添える。すると、微かに暖かさが戻るような錯覚がした。
不意に――耳元に、声が届いた。
『お前は、ちゃんと帰れよ。誰がいなくなっても、それだけは守ってくれ』
それは、あの日最後に交わした言葉だった。
ふと目を上げると、剣の奥に一輪の白い花が咲いていた。誰が植えたのかも分からない。
だが、それはまるでレオの心が、形を変えて残っているかのようだった。
ユリウスは立ち上がると、静かに一礼した。
「ありがとう。お前の剣は、ここにちゃんとある」
彼が村を離れるとき、背後の風が一度だけ強く吹き、剣にかかった小さな木の葉をさらっていった。まるで、それが『見送り』のように。
――そして、彼の旅は続く。
次はヘスティの故郷へ。
未だ炎のように記憶に灯る、あの鮮烈な魔法の光を辿って――。