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エピソード7:再開発

神宮寺アカリとの再会は、私の心に大きな波紋を広げた。前世の因縁が、まさかこの現代日本で、しかも極道の世界で再び巡り合うとは。しかし、感傷に浸っている暇はない。商店街の未来がかかっているのだ。アカリとの話し合いの場は、再開発に関する二度目の説明会で設けられることになった。今回は、より多くの住民や関係者が集まる、大規模なものだという。


説明会当日、会場となった市民ホールは、前回にも増して熱気に包まれていた。住民たちの不安と期待、そして行政と大企業の思惑が入り混じり、独特の緊張感が漂っている。私は豪三郎とタツヤを伴い、会場の最前列に陣取った。壇上には、行政の担当者と、大企業の代表者、そして――神宮寺アカリの姿があった。彼女は、前回と同じく洗練されたスーツに身を包み、その表情は冷静沈着そのものだ。


説明会が始まり、行政の担当者が再開発の概要を説明する。しかし、その内容は、住民の生活を顧みない、一方的なものに聞こえた。そして、いよいよアカリの出番だ。彼女は、壇上に立つと、流暢な口調で再開発の利点を語り始めた。


「皆様、本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。私、神宮寺アカリは、この再開発が、この街の未来にとって、いかに重要であるかを、皆様にお伝えしたく参りました」

彼女の声は、ホール全体に響き渡る。その声には、確固たる自信と、人を惹きつける魅力があった。

「古い街並みは確かに魅力的です。しかし、経済的に立ち行かなくなっているのも事実。シャッター街が増え、若者が流出し、このままではこの街は衰退の一途を辿るでしょう。この再開発によって、新たな商業施設が建設され、大規模なビジネスが動き、雇用が創出されます。最新のインフラが整備され、交通の便も飛躍的に向上するでしょう。それは、この街に新たな活気をもたらし、皆様の生活をより豊かにするはずです」

アカリの言葉は、理路整然としており、聞く者を納得させる力があった。住民の中には、彼女の言葉に頷く者もいる。確かに、この商店街が抱える問題は、私も肌で感じていた。しかし、彼女の言葉には、決定的に欠けているものがある。


「そんな味気ない再開発で、街の人々の心は守れませんわ!」

私は、思わず声を上げた。私の声は、ホールに響き渡り、アカリの言葉を遮った。会場の空気が、一瞬にして凍りつく。

アカリは、私を冷たい視線で見つめた。その瞳には、わずかな苛立ちが宿っているように見えた。

「桐生院レイナさん。感情論で物事を語るのは、いかがなものかと思います。これは、この街の未来を左右する、重要なビジネスの話です」

「感情論ですって!? この街の人々の生活を、あなたは一体何だと思っておりますの! 確かに、経済的な発展は重要でしょう。しかし、この街には、長年培われてきた歴史と文化、そして人々の絆があります。駄菓子屋のおばあちゃんが、八百屋の若主人が、この街で築き上げてきた生活がありますのよ! それらを犠牲にしてまで、新たなビジネスを追求する必要があるのでしょうか!」

私の言葉に、会場の空気がざわめいた。住民たちは、私の言葉に共感するように、口々に声を上げ始めた。

「そうだ! 俺たちの生活をどうしてくれるんだ!」

「金儲けのことしか考えてないのか!」

アカリは、住民たちの声に動じることなく、冷静な表情を保っていた。

「皆様の生活を脅かすつもりはございません。立ち退き料も、十分に補償させていただきます。そして、新たな商業施設には、地元の商店も優先的に入居できるよう、配慮いたします」

彼女の言葉は、あくまでビジネスライクだ。住民の感情に寄り添うような言葉は、一切ない。

「そんな上辺だけの言葉で、この街の人々が納得するとお思いですの!? この街は、ただの建物や土地の集合体ではありませんわ! 人々の思い出が、歴史が、そして温かい絆が、この街には息づいているのです! それを、あなた方は、金銭で測ろうとしている!」

私は、アカリに詰め寄った。前世の断罪イベントを再現するかのように、激しい言い争いを繰り返した。しかし、アカリの言葉の端々から、私はある違和感を覚えた。彼女は、単なる利権のために再開発を推進しているわけではない。彼女もまた、“街の人々の幸せ”を考えているように見えたのだ。ただ、そのアプローチが、私とは全く違うだけなのだと。

「桐生院レイナさん。感情論では、何も解決しません。現実を見てください。この街は、このままでは立ち行かなくなる。私は、この街を救いたいのです」

アカリの言葉には、確かに真剣さが込められていた。彼女の瞳の奥には、この街を憂う気持ちが、確かに宿っている。

「救う、ですって? あなた方のやり方は、この街を破壊することに他なりませんわ!」

私は、アカリの言葉を真っ向から否定した。

豪三郎が、私の肩に手を置いた。

「レイナ、もうええ。アカリ嬢ちゃんも、この街を思ってのことやろう。だが、やり方が違うだけや」

豪三郎の言葉に、アカリは少しだけ表情を緩めた。

「桐生院組長。ご理解いただけて光栄です」

「いやいや、わしはまだ納得しとらんぞ。お前らのやり方では、この街の魂が死んでしまう。わしらは、この街の魂を守りたいんや」

豪三郎の言葉に、住民たちは再び沸き立った。

「そうだ! 魂を守れ!」

「桐生院組長、頼む!」

会場は、賛成派と反対派の意見が飛び交い、収拾がつかなくなっていた。結局、この時点では完全に平行線のまま。私は前世の因縁もあってアカリを直視できず、罪悪感から避けたい気持ちも強い。しかし、この街の住人たちを思うと、黙ってはいられない。かくして、私たち二人の“表向きの対立”は、鮮明になった。

説明会は、結局、何の結論も出ないまま、お開きとなった。私は、アカリの背中を見つめながら、静かに呟いた。

「神宮寺アカリ……あなたと、この街の未来を賭けて、戦いますわ」

私の心の中で、新たな決意が固まった。

この街の魂を守るために、私は、悪役令嬢としての全てを賭けて、戦う。

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