表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/18

エピソード4:街を守る極道たち

タツヤとの邂逅以来、私は桐生院組の日常に、より深く触れるようになった。

組の事務所には、朝から晩まで、様々な人々が出入りしている。商店街の店主、近所の住民、時には子供たちまでが、組員たちに気軽に話しかけているのだ。彼らは、組員たちを恐れるどころか、むしろ信頼し、頼りにしているように見えた。


ある日の午後、タツヤが私に言った。

「お嬢、もしよろしければ、街のパトロールに同行なさいませんか? 組の者たちが、日頃どのように街と関わっているのか、見ていただくのも良いかと」

パトロール? 極道が? 私の頭の中には、前世のゲームで見たような、荒々しい抗争の場面が浮かんだ。しかし、タツヤの真剣な顔を見て、私は首を傾げた。

「ええ。桐生院組は、この街の商店街を守るのが役目ですから。組長が常々仰っているように、『義理と人情』を重んじ、困っている人がいれば手を差し伸べる。それが、桐生院組の流儀です」

タツヤの言葉に、私は興味を覚えた。前世の貴族社会では、貴族は民衆から搾取する側であり、守るという意識は希薄だった。しかし、この桐生院組は、商店街の店主からは多少恐れられつつも、頼りになる存在なのだという。私は、この新しい世界での「極道」という存在に、ますます惹かれていった。

「ぜひ、同行させてくださいまし。わたくし、この街の皆様と、もっと交流を深めたいのですわ」

私の言葉に、タツヤは嬉しそうに頷いた。


商店街は、活気に満ちていた。八百屋の威勢のいい声、魚屋の新鮮な魚を勧める声、駄菓子屋から漏れる子供たちの笑い声。色とりどりの商品が並び、香ばしい匂いが漂う。タツヤが歩くと、店主たちは皆、彼に挨拶をする。

「若頭、いつもご苦労様です!」

「五十嵐さん、この前の件は本当に助かりました!」

タツヤは、彼らの言葉に律儀に頭を下げ、笑顔で応じていた。その姿は、まるで商店街の顔役のようだ。

そして、私の姿を見ると、皆、驚いたように目を丸くし、すぐに深々と頭を下げる。

「お嬢、元気そうで何よりだよ。この前は心配したよ」

駄菓子屋のおばあちゃんが、優しい笑顔で私に話しかけてきた。その手には、私に差し出すための、小さな飴玉が握られている。

「ありがとうございます、おばあ様。もうすっかり元気になりましたわ」

私は、差し出された飴玉を受け取り、優雅に微笑んだ。すると、おばあちゃんはさらに顔を綻ばせた。

「いつもありがとうございます、お嬢様」

八百屋の若主人が、私に頭を下げる。彼の店先には、瑞々しい野菜が山と積まれている。

「いえ、わたくしは何も……」

私は、彼らの言葉に、どう返していいか分からず、ただ微笑むことしかできなかった。前世では、感謝されることなど、ほとんどなかったからだ。


「極道にも、こういう平和的な一面があるのですね……」

私は思わず、呟いた。私の隣を歩くタツヤに、素直な感想を漏らした。

「ええ。俺たちは、この街で生きていくために、この街を守るんですから。それに、組長は、この街を家族のように思っていますからね」

タツヤは、私の言葉に少し照れたように笑った。その言葉に、私は胸の奥に温かい光が灯るのを感じた。

前世の貴族社会では、貴族は民衆から搾取する側であり、守るという意識は希薄だった。しかし、この桐生院組は、地域に根ざし、街を守るという役割を担っている。それは、前世の私には想像もできなかったことだ。

「この街の人々は、皆様を心から信頼しているのですね。わたくし、感動いたしましたわ」

私の言葉に、タツヤは少し照れながらも、嬉しそうに頷いた。

「お嬢にそう言っていただけると、俺たちも報われます」

彼の言葉に、私は胸が熱くなった。

ここでなら、悪役ではない道を歩めるかもしれない。そんな希望が、確信へと変わっていく。

私は、この街と、この人たちを守りたい。そう、強く願った。

パトロールの途中、路地裏で不良グループがたむろしているのを見かけた。彼らは、商店街の店先にゴミを散らかし、大声で騒いでいる。

「おい、お前ら! ここで何してるんだ!」

タツヤが、低い声で不良グループに声をかけた。不良たちは、タツヤの姿を見ると、一瞬にして顔色を変えた。

「ひっ! 五十嵐の兄貴!」

彼らは、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。

「ふん。まったく、最近の若いもんは……」

タツヤは、呆れたように呟いた。

「タツヤさん、今の不良たちは……?」

私が尋ねると、タツヤは苦笑した。

「ああ、あいつらは、この辺りでちょこちょこ悪さをする連中です。でも、桐生院組の顔を見れば、大人しくなりますよ」

その言葉に、私は驚いた。暴力で支配するのではなく、信頼と威厳で街を守っているのだ。

「なるほど……これが、極道の流儀、ですのね」

私は、深く頷いた。

この街は、桐生院組によって守られている。

そして、私もまた、この街を守る一員になりたい。

私は、新たな決意を胸に、タツヤと共に商店街を歩き続けた。

夕暮れ時、商店街の明かりが灯り始める。

温かい光が、街全体を包み込む。

私は、この街の温かさを、心から愛おしいと感じた。

前世では、決して味わうことのできなかった、この温かさ。

私は、この温かさを守るために、何ができるだろうか。

私の心の中で、新たな目標が明確になっていく。

私は、この街の、そしてこの人々の、守護者になりたい。

そう、強く願った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ