エピソード14:捨て身の作戦
アカリとの共闘を決意した私たちは、すぐに作戦会議に取り掛かった。
桐生院組の事務所に、アカリとタツヤ、そして私。三人の顔は、真剣そのものだ。
「タツヤさん、アカリさん。これまでの調査で得られた証拠資料を、もう一度確認しましょう」
私は、テーブルに広げられた資料の山を指差した。そこには、政治家や企業が仕組んだ不正の数々が、克明に記されている。裏金、脅迫、そして、巧妙に隠蔽された金の流れ。
「これだけの証拠があれば、奴らを追い詰めることができますわ!」
私は、資料を手に、興奮を隠せない。しかし、アカリは冷静だ。
「ええ。でも、ただ証拠を突きつけるだけじゃ、彼らは逃げ道を考えるでしょう。彼らは、世論を味方につけるのが得意だわ。私たちを『ヤクザ』というレッテルを貼って、悪者に仕立て上げようとするでしょうね」
アカリの言葉に、私は頷いた。豪三郎のテレビ会見が、まさにその証拠だ。
「ならば、世論を味方につけるしかありませんわ! 地元メディアや住民を集め、再開発の問題点を堂々と論じる場を作り出すのです! そして、彼らの不正を、白日の下に晒すのです!」
私の提案に、タツヤとアカリは顔を見合わせた。
「それは、あまりにも危険では……。相手は、何をしてくるか分かりません」
タツヤが、心配そうに眉をひそめる。
「ええ、捨て身の作戦ですわ。しかし、この状況を打開するには、これしかありません!」
私は、強い決意を込めて言い放った。アカリは、私の目を見て、静かに頷いた。
「分かったわ。私も、あなたに協力する。この街の未来のために」
タツヤもまた、覚悟を決めたように頷いた。
「承知いたしました。お嬢の覚悟、しかと受け止めました。俺も、命を賭けて、お嬢をお守りいたします」
私たちは、作戦の詳細を詰めていった。アカリは、その冷静な頭脳で、公開交渉のシナリオを完璧に組み立てていく。私は、前世で培った交渉術と、極道のお嬢としての度胸で、彼らを追い詰める役割を担う。タツヤは、組員たちを率いて、会場の警備と、万が一の事態に備える。
そして、決行の日。
私は、華麗な真紅のドレス姿で会場に現れた。隣には、シックな黒のスーツ姿のアカリ。二人が並ぶと、まるでかつての“ヒロインと悪役令嬢”のような華やかさが際立つ。会場の視線が、一斉に私たちに集まる。
「あれが、桐生院組のお嬢と、神宮寺組の令嬢か……」
「まさか、二人が手を組むとは……」
ざわめきが、会場に広がる。
政治家たちは、私たちの登場に戸惑いを隠せない様子だ。企業社長は、私たちを見て「馬鹿な真似を……」と失笑する。
しかし、私は堂々と、彼らを見据えた。
「皆様、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。わたくし、桐生院レイナは、この再開発の真実を、皆様にお伝えするために参りました」
私の声は、ホール全体に響き渡る。その声には、揺るぎない決意が込められている。
「これから、あなた方の不正の数々を列挙させていただきますわ!」
私の宣言に、会場の空気が一変する。アカリは、冷静な口調で、ブラックな金の流れや恫喝の手口などの証拠を次々に提示していく。スクリーンには、証拠となる書類や、録音された音声が映し出される。
「これは、〇〇政治家が、△△企業から受け取った裏金の証拠です。そして、これは、立ち退きを拒否した住民に対し、脅迫を行った際の音声データです」
アカリの声は、淡々としているが、その内容は、会場に衝撃を与えた。住民たちは、怒りの声を上げ、政治家たちを非難する。
「おい、観念しろよ。こっちは全部掴んでんだ」
タツヤもまた、鋭い眼光で企業幹部たちを睨みつけた。彼の背後には、桐生院組の組員たちが、静かに控えている。その威圧感に、企業幹部たちは顔面蒼白になっていく。
私たちの捨て身の作戦は、始まったばかりだ。しかし、私は確信していた。
この戦いは、必ず、私たちの勝利で終わる、と。
私は、アカリと顔を見合わせた。彼女もまた、私と同じように、この戦いの勝利を確信しているようだ。
私たちは、この街の未来を賭けて、戦い続ける。
そして、その戦いは、きっと、私たちに新たな未来をもたらすだろう。
私は、強く、心に誓った。