エピソード13:前世と現世の決断
豪三郎のテレビ会見の失敗、そして桐生院組の信用失墜。さらに、神宮寺組長への圧力と、アカリの苦悩。状況は、まさに絶望的だった。私は、焦燥感に駆られながら、夜空を見上げた。あの、前世の断罪イベントの悪夢が、再び私の心を蝕み始めていた。しかし、私はもう、あの頃の私ではない。この街と、この人たちを守るためなら、私はどんな困難にも立ち向かってみせる。たとえ、それが絶望的な状況であろうとも。
そんな追い詰められた状況の中、私はアカリに連絡を取った。
「神宮寺アカリさん。お話がありますわ。今すぐ、お会いしたいのです」
アカリは、私の突然の連絡に驚いたようだったが、すぐに会うことを承諾してくれた。私たちは、人目を避けるように、街外れの、ひっそりとした喫茶店で会うことになった。店内は薄暗く、私たちの会話が誰かに聞かれる心配はない。
「……何かしら、桐生院レイナさん。こんな時間に、わざわざ呼び出すなんて」
アカリは、警戒したような表情で私を見つめる。その瞳には、疲労の色が濃く浮かんでいた。
私は、意を決して、口を開いた。
「私は、前世で“悪役令嬢”でした。強引な手口で人を追い詰めたり、嘘の噂を広めたり、そんなことばかりしてきました。あなたを、散々苦しめましたわ」
アカリの目が、大きく見開かれる。彼女の表情には、驚きと、そして、わずかな動揺が浮かんでいた。
「しかし、今の私は、もうあの頃の私ではありません。この街の人々を守りたい。その思いは、偽りではありませんわ。わたくしは、この街の温かさに触れ、この街の人々の笑顔に触れ、初めて、本当に守りたいものを見つけましたの」
私は、アカリの目を真っ直ぐに見つめた。私の言葉は、偽りではない。この街の人々のために、私は全てを賭ける覚悟だ。
「あなたがヒロインだったように、私も誰かを幸せに導くことができるはず……そう信じたいのですわ。前世であなたを苦しめた罪を、今世で償いたい。そして、この街を、この人たちを、守りたいのです」
私の言葉に、アカリは驚きを隠せないようだった。彼女の瞳には、困惑と、そして、わずかな希望の光が宿っているように見えた。
そして、ゆっくりと、口を開いた。
「あの頃の私は、あなたに翻弄されっぱなしだった。常にあなたの影に怯え、あなたの悪行に苦しめられてきた。でも今は、私もこの街と家族を守りたい。父は、この再開発が神宮寺組の未来のためだと信じているようだけど、私は……このままでは、この街は、本当に変わってしまう。父のやり方が、本当に正しいのか、私には分からない」
アカリの言葉に、私は胸が締め付けられる思いだった。彼女もまた、私と同じように、葛藤を抱えているのだ。
「アカリさん。あなたは、もう一人ではありませんわ。わたくしがいますわ。そして、桐生院組の皆がいますわ。私たちは、この街を守るために、共に戦うことができますわ」
私は、アカリの手をそっと握った。アカリは、私の手を見て、そして、私の顔を見た。その瞳には、もう、警戒の色はなかった。
「ならば協力しましょう。一度は敵同士だったけど、今は同じ道を行くわ。この街の未来のために、私たち、力を合わせましょう」
アカリが、私に手を差し伸べた。私は、その手を強く握り返した。
固い握手。それは、前世のわだかまりを乗り越え、新たな絆を築いた証だった。
私たちは、互いに小さく微笑んだ。その笑顔には、この街を守るという、強い決意が宿っていた。
「ありがとう、レイナ。あなたと話せて、本当に良かった」
アカリの声は、優しかった。
「いいえ、アカリさん。わたくしの方こそ、あなたと話せて、本当に良かった。これで、わたくしは、もう迷いませんわ」
私たちは、この街と、この人たちを守るために、最強のタッグを組むことを、誓った。
喫茶店を出ると、夜空には満月が輝いていた。その光は、私たちを、そしてこの街を、優しく照らしているようだった。
私たちは、この街の未来を賭けた、最後の戦いに挑む。
そして、その戦いは、きっと、私たちに新たな未来をもたらすだろう。
私は、強く、心に誓った。
この街を、必ず守り抜いてみせる。
それが、私の、新しい人生の使命なのだから。