エピソード12:仕組まれた罠
豪三郎のテレビ会見は、世論を味方につけるどころか、かえって「ヤクザは危険だ」という印象を強めてしまった。
彼の熱い訴えは、一部の心ある人々に届いたものの、大半のメディアは「極道が再開発に介入」というセンセーショナルな見出しで報じ、私たちの正当な主張はかき消されてしまった。真の黒幕は、この状況をさらに悪用してきたのだ。
「お嬢、神宮寺組長に、また圧力がかかっているようです」
タツヤが、険しい顔で報告してきた。
「今さら足抜けは許さない。あんたの娘もどうなるか分からんぞ」
そんな脅迫めいた言葉が、神宮寺組長に突きつけられたという。アカリは、父の身を案じながら、必死で動いていた。彼女の顔には、疲労と焦りの色が濃く浮かんでいる。
「アカリさん……」
私は、彼女の苦しみを思うと、胸が締め付けられる思いだった。前世では、私が彼女を苦しめていた。しかし、今、私たちは同じ敵と戦っている。
さらに、桐生院組が過去に引き起こした些細なトラブルが、マスコミにリークされた。それは、何年も前の、些細な揉め事だった。しかし、メディアはそれを大々的に報じ、「実は街を守ると言いながら利権を得ているのでは?」という印象操作を進めた。
「お嬢、これは……」
健太が、新聞記事を差し出してきた。そこには、桐生院組が過去に起こしたトラブルが、あたかも最近のことのように書かれている。
「卑劣な……!」
私は、怒りに震えた。彼らは、私たちの信用を地に落とそうとしているのだ。
桐生院組の信用は地に落ちていく。商店街の人々の中にも、私たちを疑うような視線を向ける者も現れ始めた。
追い詰められた私は、どうにかして真相を公にしようと奔走した。しかし、証拠集めが思うように進まない。黒幕は、巧妙に証拠を隠滅し、私たちを追い詰めていく。
タツヤもまた、焦りを隠せない様子で、何度も頭を抱えていた。
「何か手がかりがあれば……。このままでは、組の存続も危ういかもしれません」
彼の呟きが、事務所に重く響く。私たちは、まるで巨大な蜘蛛の巣に絡め取られたかのように、身動きが取れなくなっていた。
このままでは、この街も、私たちも、破滅してしまう。
私は、焦燥感に駆られながら、夜空を見上げた。あの、前世の断罪イベントの悪夢が、再び私の心を蝕み始めていた。
「リリアーナ……あなたは、また、何も守れないの……?」
心の奥底から、弱気な声が聞こえてくる。しかし、私は、その声を振り払った。
「いいえ! わたくしは、もう、あの頃の私ではありません!」
私は、強く、心の中で叫んだ。
その時、私のスマートフォンが鳴った。アカリからだ。
「レイナ。今、どこにいる? 会って話したいことがあるの」
アカリの声は、いつもより少しだけ、震えているように聞こえた。
「ええ、すぐに参りますわ」
私は、タツヤに事情を話し、事務所を後にした。
アカリとの待ち合わせ場所は、人通りの少ない公園だった。
アカリは、ベンチに座り、俯いていた。その肩は、小さく震えている。
「アカリさん……」
私が声をかけると、アカリは顔を上げた。その瞳は、涙で潤んでいた。
「レイナ……私、もう、どうしたらいいか分からないの。父は、この再開発を諦めようとしない。でも、このままでは、この街は……」
アカリの声は、途切れ途切れだった。
「分かりますわ、アカリさん。わたくしも、同じ気持ちですわ。しかし、私たちは、諦めるわけにはいきませんわ」
私は、アカリの隣に座り、その手を握った。
「この街と、この人たちを守るためなら、私はどんな困難にも立ち向かってみせる。たとえ、それが絶望的な状況であろうとも。あなたも、そうでしょう?」
私の言葉に、アカリは顔を上げた。その瞳には、再び強い光が宿っていた。
「ええ……そうよ。私は、ヒロインだもの。この街を、この人たちを、守ってみせるわ」
アカリの言葉に、私は静かに頷いた。
私たちは、互いの手を強く握りしめた。
この街の未来を賭けた、最後の戦いが、今、始まろうとしている。
私たちは、もう一人ではない。
前世の因縁を乗り越え、この街を守るために、私たちは共に戦う。
夜空には、満月が輝いていた。
その光は、私たちを、そしてこの街を、優しく照らしているようだった。