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エピソード10:前世の因縁

商店街襲撃事件は、私たちと神宮寺アカリの間に、奇妙な共闘関係を生み出した。

路地裏で不良グループを追い払った後、私たちは自然と顔を見合わせた。互いに不器用な性格のせいで、言葉では素直に協力を申し出られない。しかし、「不正を暴く」という一点で、私たちは同じ方向を向いていた。


「……まさか、あなたと共闘することになるとはね」

アカリが、静かに呟いた。その声には、皮肉と、そして、どこか諦めのような響きが混じっていた。

「わたくしも、まさか前世の因縁が、このような形で巡り合うとは思いませんでしたわ」

私は、正直な気持ちを口にした。前世では、アカリは私の全てを奪った相手だ。しかし、今、彼女の隣に立つと、不思議と敵意は感じなかった。

「で、どうするつもり? このまま、あの政治家と企業に好き放題させるわけにはいかないでしょう?」

アカリが、私を真っ直ぐに見つめた。その瞳には、この街を守ろうとする、強い意志が宿っている。

「当然ですわ。わたくしは、この街と、この街に住む人々の生活を守るため、極道として戦いますわ! あなたも、同じ思いなのでしょう?」

私の問いかけに、アカリは少しだけ目を伏せた。

「ええ。私も、この街を大切に思っているわ。父は、この再開発が神宮寺組の未来のためだと信じているようだけど、私は……」

アカリの言葉に、私は胸が締め付けられる思いだった。彼女もまた、私と同じように、葛藤を抱えているのだ。

「タツヤさんから、あなた方の情報網が、政治家や企業が絡む金の流れを掴んでいると聞きましたわ。その情報を、わたくしに提供していただけませんか?」

私は、アカリに協力を求めた。

アカリは、一瞬躊躇したようだったが、やがて頷いた。

「分かったわ。ただし、条件がある。この件が終わったら、あなたと私で、改めて決着をつける。前世の因縁に、終止符を打つわ」

アカリの言葉に、私は力強く頷いた。

「望むところですわ! わたくしは、もう、前世の悪役令嬢ではありません。今のわたくしは、桐生院レイナ。あなたに、負けるつもりはありませんわ!」

私の言葉に、アカリはフッと笑った。その笑顔は、どこか寂しげで、しかし、同時に、決意に満ちていた。


翌日から、私たちは本格的な共闘を開始した。アカリは、その冷静なリサーチ力で、政治家や企業が絡む金の流れを掴んでいった。彼女は、タブレットを操作しながら、複雑な資金の流れを瞬時に解析し、私に説明する。

「この企業は、ダミー会社を使って、政治家への裏金を流しているわ。そして、その資金源は、この商店街の立ち退き料の一部よ。彼らは、この再開発で得た利益を、さらに別の事業に投資し、勢力を拡大しようと画策している」

その手腕に、私は感嘆の息を漏らした。前世のヒロインは、ただ可憐なだけではなかった。彼女は、私と同じくらい、いや、それ以上に、頭が切れる女だった。

「なるほど……これは、かなり悪質ですわね。しかし、これだけの証拠があれば、奴らを追い詰めることができますわ!」

私は、資料を手に、興奮を隠せない。

一方、私は“悪役令嬢”仕込みの交渉術と“極道お嬢”としての度胸で、企業幹部に接触した。

「あなた方のような卑劣なやり口は、この桐生院レイナが許しませんわ! 存分に泣き喚くがいいですわ、あなたが犯してきた罪の数々を白状してもらいます!」

私は、前世で培った高飛車な口調で、彼らを追い詰めていく。企業幹部たちは、私の迫力に気圧され、顔面蒼白になっていく。中には、恐怖のあまり、震え出す者もいた。

「お、お嬢様……どうか、ご容赦を……」

彼らの懇願に、私は冷たい視線を向けた。

「ご容赦ですって? あなた方が、この街の人々に与えた苦痛を思えば、これくらい、どうということはありませんわ!」

私たちの作戦は、案外うまく進んでいた。金に汚い社長たちから、次々と口を割らせていく。

私の啖呵を切る姿に、アカリは密かに「やるわね……」と感心しているのが分かった。彼女の口元には、微かな笑みが浮かんでいた。

しかし、同時に、アカリの胸には、複雑な想いが芽生えていた。

“悪役令嬢だったリリアーナが、まるでヒロインのように誰かを救おうとしている”

その違和感が、彼女の心をざわつかせる。

「私がヒロインだった前世は一体何だったの?」

アカリの視線が、私を捉える。

その瞳には、困惑と、そして、ほんの少しの羨望が宿っているように見えた。

「アカリさん。何か、気になることでも?」

私が尋ねると、アカリはハッとしたように視線を逸らした。

「いえ、何でもないわ。ただ……あなたを見ていると、前世のことが、まるで夢だったように思えるの」

アカリの言葉に、私は静かに微笑んだ。

「わたくしも、同じですわ。前世のわたくしは、愚かで、傲慢で、そして、とても孤独でしたわ」

私の言葉に、アカリは驚いたように私を見た。

「孤独……?」

「ええ。わたくしは、常に完璧であることを求められ、自分の感情を押し殺して生きてきました。誰にも本音を打ち明けることができず、ただひたすら、ゲームのシナリオに縛られていましたわ」

私の言葉に、アカリは静かに耳を傾けていた。

「しかし、この世界では、わたくしには、お父様がいて、タツヤさんがいて、そして、組の皆がいます。彼らは、わたくしの全てを受け入れてくれる。だから、わたくしは、もう孤独ではありませんわ」

私は、アカリの目を真っ直ぐに見つめた。

「アカリさん。あなたも、孤独なのでしょう? 神宮寺組の次期組長として、あなたは、常に完璧であることを求められている。そして、誰にも本音を打ち明けることができない」

私の言葉に、アカリの瞳が大きく揺れた。彼女の表情には、動揺と、そして、わずかな安堵が浮かんでいた。

「……どうして、あなたがそんなことを知っているの?」

アカリの声は、震えていた。

「分かりますわ。わたくしは、あなたと同じ、悪役令嬢でしたから」

私は、アカリの手をそっと握った。

アカリは、私の手を見て、そして、私の顔を見た。

その瞳には、もう、警戒の色はなかった。

私たちは、前世のわだかまりを抱えながらも, 現世で新たな絆を築き始めていた。それは、互いのプライドを傷つけ合うような、歪んだ絆ではなかった。この街を守るという、共通の目的のために、手を取り合う、確かな絆だった。

「レイナ……」

アカリの声は、優しかった。

「アカリさん。私たちは、もう一人ではありませんわ。この街と、この人々のために、共に戦いましょう」

私の言葉に、アカリは力強く頷いた。

「ええ。共に戦いましょう。この街の未来のために」

私たちは、互いに微笑み合った。

この瞬間、前世の因縁は、完全に過去のものとなった。

私たちは、この街の未来を切り開くための、真のパートナーとなったのだ。

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