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真相の先にあるもの

吾妻補が意識を取り戻して1週間が経った。

肩の骨折などはあったが1ヵ月ほどで退院できるという話で誰もが安堵の息を吐き出した。


ただ、と六花は彼の後見人の事を思い出していた。

バッチを持っている人物の知り合いを教えて欲しいと…いや、究極言ってしまえば一覧が欲しいのだ。


きっとその中に犯人がいると六花は考えていた。

真守は同じバッチだがもし補の後見人である吾妻利雄が犯人だったらと思うと複雑な気持ちであった。


葵は2人の変な様子に意を決すると六花と真守をレストランの住人用フロアに呼び出して

「それで?」

2人は何を考えているんだ?

と問いかけた。

「輔の親父にあってから変じゃん」


六花は息を吐き出すと

「真守さんの養父さんを殺した犯人の事を考えて」

と告げた。


葵は目を見開いた。

「まさか」


真守は険しい表情で沈黙を守った。

が、六花は慌てて

「あ、あの人は犯人じゃないです」

とさっぱり告げた。


それに真守は驚いて

「え!?」

と告げた。


六花は笑むと

「私はそう考えてます」

と言い

「それより、バッチの持ち主の一覧をいただけたらと思って」

と呟いた。


真守は腰を浮かして

「六花ちゃん、何故…そう思うんだ?」

と聞いた。


六花は腕を組むと

「これは私の勘なんですけど」

と告げて

「あのバッチには犯人にとって何か特別な思い入れがあると思うんです」

もし確実にそうでないと知るとしたら

「徳島に詳しいかどうか…11年前に徳島へ行った記録があるかないかを調べれば確実だと思います」

と真守を見た。


葵は頷くと

「よし!調べよう」

名探偵の言葉を信じて

とドーンとテーブルを叩いて告げた。

が、六花はう~んと唸りつつ

「今更ですけど私…探偵じゃないですよね」

でも

と笑みを見せると

「推理小説研究者として…この結末がどんなミステリーの結末か手で掴んで見せます」

と告げた。


葵は「うっしゃ!」とガッツポーズをした。


真守も笑むと

「そうだな」

俺も養父の事件の真相を掴んで見せる

と答え

「バッチの一覧…一度冬里さんに聞いてみてもいいかもしれない」

と告げた。


葵は笑むと

「そうと決まれば膳は急げだな」

今回はマンション探偵チーム

「発動じゃん」

と告げた。


六花は頷いて

「伯父さんは補君のお父さんを知っていたからそこから聞きましょう」

と告げた。


2人は頷いた。

田中真守の養父である田中真先刑事局長暗殺事件解決への一歩を踏み出したのである。


推理小説研究者の探偵模倣


冬里七月は腕を組むと難しい顔をした。

「…まさか、そんなことになっていたとは」


六花と真守と葵は事情を七月に話をしてどうにかして一覧を貰えないかと掛け合ったのである。


だが、七月の返事は『NO』であった。


あのバッチは吾妻利雄が見舞いに来ていた時に七月が説明した通り、日本政財界紳士同盟の記章で日本でも50名くらいしか持っていないものであった。

つまり、日本を束ねる権力者上位50名のみのものだ。

そのバッチを真守の養父が持っていたというのも六花や葵にすれば『ほへー』とびっくりするようなことだが、反対に言えば権力者に立ち向かっていかなければならないという危険があるということでもある。


七月はそれを考えて反対したのである。

だが。

だが。


六花は七月に

「でも、真守さんの養父さんの犯人を見過ごせってことですか?」

とキュッと両手を膝の腕握りしめて告げた。


真守も葵もチラリと七月を見た。

七月の気持ちもわかる。


それこそ殺されるかもしれない。


真守は一つ息を吐き出すと

「六花ちゃん、バッチに意味があることが分かっただけでも凄いことなんだ」

本郷さんに話をして警察から調べてもらう

と告げた。


七月は安堵に息を吐き出して

「その方が良い」

警察に任せなさい

と告げた。


六花はカッと目を見開くと

「わかりました」

でも

「警察がもし権力に負けて動けなかったら一覧お願いします」

と告げた。


葵はがっと立ち上がり

「だよな!」

俺も頑張るぜ!

「真守さんだって本当に良いのかよ」

知らないままで

「犯人が権力で罪に問われなくてもさ!」

と告げた。


六花は真守を見ると

「私、真守さんの養父を殺した人は…待っているんだと思うんです」

明らかにされることを

と告げた。


それには真守も葵も七月も驚いて六花を見た。


六花は笑むと

「あのバッチ…もし取り替えなかったら私でも分らなかったと思います」

でもバッチを取り替えることに意味があったとしても

「取り替えるという行為は一億以上の容疑者をたった50人程度に絞る材料になります」

それでも犯人は変えたんです

と告げた。

「だから犯人は待っていると思います」


七月は息を吐き出すと

「だが、それでも…その明らかにするのが六花ちゃんでなくても良いだろ」

と言い

「教えることはできない」

と立ち上がり

「取り敢えず、頭を冷やして…後は警察に任せることだ」

と告げた。


六花も葵も真守も七月に半分追い出されるように家を出てマンションへと戻った。

七月は息を吐き出すと応接室のソファに座り直して天を仰いだ。

「…あー、俺らしくないな」

六花ちゃんが危険だと思った瞬間に大反対か


そう呟きつつ携帯を手にすると見禰君雄に電話を入れた。


真守は六花と葵に

「俺はこれから本郷さんに話をしてくる」

確かに政財界の大物を相手にしようとすると命に関わるからな

「七月さんの反対は当然だ」

だが六花ちゃんの言う通りに50名に絞られただけでも救いだ

と告げた。


六花は不服そうにしつつも頷き

「わかりました」

と両手を組み合わせると

「本郷さん達が動いてくれますように」

と祈るように告げた。


葵も頷いて

「俺も祈ってるから」

と告げた。

「輔の後見人の疑惑も晴れるからな」


真守は笑むと

「ありがとう、六花ちゃんに葵」

そうだな

と告げた。


六花は葵とも別れて自室へと戻った。

そして携帯を手にすると父親の六月に電話を入れた。

「もしもし、お父さん」


六月は書斎で携帯の応答に出ると

「どうした、元気がないな」

と告げた。


声で直ぐにわかってくれるのだ。


六花は口を尖らせながら

「実は真守さんの養父さんのバッチのことなんだけど」

と告げた。


六月は静かに笑むと

「日本の政財界のトップ50人がつけている記章か」

と答えた。


六花は驚いて

「え!?知ってるの?」

と聞いた。


六月は苦笑しながら

「知ってるも何も七月も持っている」

と答えた。


六花はカッと目を見開き

「伯父さんが!!」

と叫んだ。

「まさか、お父さんも」


六月は笑って

「俺は持ってないぞ」

と答えた。

「六花、七月は持っている人間の怖さを知っていてお前達に深入りを辞めるように忠告したんだ」

当然だろ

「警察や下手をすれば日本を動かせる人間だ」

お前のような小娘なんて一捻りで暗殺されて終わりだ


六花は小さく頷いた。

「うん」


六月は静かな声で

「それでも追求したいか?」

と聞いた。

「死ぬことになるかもしれないぞ」


六花は首を振ると

「私、死なない」

だってお父さんに一杯素敵な推理小説を紹介するから

「だけど真守さんの養父さんの死の裏に何があるのかを知りたい」

補君の後見人の人の疑惑も無くなるし

「真実を明らかにしたい」

と告げた。


六月は苦笑して

「六花は推理小説研究者じゃなくて探偵だな」

と言い

「わかった」

くれぐれも気を付けるんだ

「お前を愛しているよ」

だから危険な時は絶対に一人で飛び込まない

「七月に力を借りるんだ」

それを約束できるなら手を打とう

と告げた。


六花は大きく頷き

「約束する」

絶対に約束する

と告げた。


六月は「わかった」というと携帯を切り、七月へと電話を入れた。


七月は着信の名前を見ると息を吐き出し

「六花ちゃんの手回しだろ」

と告げた。


六月はそれに

「六花はお前によく似ている」

と告げた。

「俺が腹立たしいくらいにな」


七月はそれに口を尖らせて

「俺が言いたい言葉を取るな」

と答えた。


六月は笑むと

「お前が父の後を継ぐことを覚悟して花桜梨さんと一夜を過ごした」

そして六花が生まれた

「俺は花桜梨さんを責めることが出来なかった」

お前を責めることも出来なかった

「それは俺が重すぎる父の家系の責務から逃げたからだ」

お前は逃げなかった

と言い

「六花も誰に似たのか」

そういうどんな重責や高い壁でも逃げない強さと根気を持っている

「その上、優しい」

きっと花桜梨さんにだけ似ている訳じゃないだろ

と告げた。

「俺が言えるのはそれだけだ」


七月は息を吐き出すと

「お前こそ遺産も何もかも捨てて頼るものがない徳島で花桜梨さんと六花を愛し守ってくれた」

六花の優しさはお前の優しさだ

と言い

「わかった」

と答えた。


六月は携帯を切ると部屋から窓を見つめた。

「花桜梨…六花を守ってくれ」

愛してるよ


七月も携帯を切り

「本当に…六月だけには頭が上がらない」

と呟いた。


少しして見禰君雄は盛大に息を吐き出し

「冬里家は大馬鹿の集まりだな」

と日本政財界紳士同盟の名簿を七月の前に置いた。

「俺の父から聞いていたが十数億という遺産を蹴って徳島に引っ込んだ無欲バカの弟に親類縁者から猛撃を受けても冬里家を受け継いで正当な家系を繋いだバカ兄」

そのおかげで冬里家が今も現存しているってな


七月は力なく笑って

「俺も六月も一人の女性をただ守りたかっただけだ」

その為なら欲に駆られて暗殺を狙う馬鹿どもの攻撃など怖くなかった

「六花は…花桜梨さんによく似ている」

愛しくて仕方がない

と告げた。

「悪いな、それと久々にあれも動かしてくれ」

どんな状況でも六花を守れなければ六月に殴られる


見禰君雄は呆れたように

「わかった」

と答えた。


真守は本郷と行きつけの喫茶店の奥で会うと事情を説明した。

本郷はそれに

「調べました」

日本政財界紳士同盟のバッチですね

「ただ上にはそれ以上の詮索を止められて」

と苦々しく呟いた。


当然、政財界のトップ50人のことである上からの圧力である。


本郷はそれでも

「ですが俺は田中真先前刑事局長には色々大切な事を教わりました」

刑事の師でもあります

「大々的に動けなくても力になりたいと思っています」

と告げた。


真守は首を振ると

「いや、父のことで貴方が万一にでも警察をクビになっては俺が父に顔向けができない」

と告げた。


本郷は静かに笑み

「いえ、これは俺の刑事としての覚悟でもあります」

権力と圧力で犯罪を見過ごせばそれはもう刑事ではない

「俺はそう考えています」

なのでリストは俺では手に入れれませんが

「名前が分かれば」

と告げた。


真守は頭を下げて

「リストは手に入れます」

その時はお願いします

と告げて立ち上がった。


恐らく、七月は名簿を手に入れることが出来るだろう。

それは今日の態度で分かった。


真守は意を決すると店を出てマンションへと戻った。

そして、レストランの住人用のスペースに行き目を見開いた。


六花と葵が待っていたからである。


六花は真守に

「どうでした?」

と聞いた。


真守は真っ直ぐ2人を見ると

「冬里さんに頼む」

と告げた。

「六花ちゃんと葵くんはやはり危ないから」


その言葉に六花も葵も

「覚悟してます」

「覚悟決めてるぜ」

と同時に告げた。


葵は笑顔で

「途中で裏切りは無しだぜ」

と告げた。


六花も頷いて

「ですよ」

お父さんがきっと手を打ってくれてます

と笑顔で告げた。


3人は意を決するとマンションの正面の七月の家へと向かった。

七月は三人が来ると

「来ると思っていたよ」

といつもと変わりのない飄々とした態度で

「応接室にきて」

と応接室に招くとソファに座らせて名簿を置いた。

「これが50名のリストだ」

たーだーし

「無茶はダメだし」

単独行動もダメだからね

「本人にアタックする時は俺を通すこと」


それに3人は頷き礼を言うと名簿を手に立ち去った。

名簿には田中真先の名前もあり、冬里七月の名前も、そして、吾妻利雄の名前もあった。


葵はそれらを見て

「先ず、冬里さんは除外だね」

それから勿論真守さんの養父さんも

と告げた。


六花は頷いて

「被害者ですから」

と答えた。

「吾妻利雄さんから崩していきましょう」

きっと補君の元にまた来ると思います

「その時にさりげなく」


それに2人は頷いた。


葵はふと

「補にはどうする?」

言っとく?

と聞いた。


六花と真守は顔を見合わせて腕を組んだ。

難しいところである。


後見人を疑ってはいないが、だが容疑者の一人として調べようとしていると知るとショックを受けるかもしれないのだ。


六花はカッと目を見開き

「取り敢えず出たこと勝負で!」

と告げた。


…。

…。


アバウトだ。と葵と真守は同時に心で突っ込んだ。

だが、取り敢えずは封印だと2人は決めた。


3人は夕食を終えると部屋へと戻り、翌日から大学へ行きながら真守は補の元へと向かった。


補は身体を起こしても大丈夫な状態にまで回復しており

「早くマンションに戻りたい」

とボヤキ、マネージャーの唐沢が持ってくる花束や手紙などを読んでいた。


六花と葵も講義を終えると補の元へ姿を見せた。

補は3人が揃うと

「それで?」

と告げた。

「俺に何か聞きたいことあるんでしょ?」

みんな様子おかしすぎだし

「真守さんの養父さんの事件もそっちのけだし」


六花は補の横に座り

「あの、補君がICUで眠っている時に後見人の吾妻利雄さんって人がお見舞いに来ていたんだけど」

徳島に詳しかったり良く行く人だったか聞きたくて

と告げた。


補は首をかしげて

「んー、多分俺と同じ程度だと思うけど」

普通の観光客程度だと思う

と言い

「何故?」

徳島ってことは真守さんの養父さんの事件と関係があるの?

と聞いた。


葵が頷いて

「実は真守さんの親父さんは殺された後にバッチを取り替えられたらしいんだが、そのバッチと同じものをお前の後見人さんが持っていたんだ」

冬里さんも持っていたし

「日本で50名くらいしか持っていないものなんだって」

それで

と告げた。


補は少し考えて

「そうなんだ」

と言い

「言ってくれて助かったよ」

と告げて

「聞いてみる」

と告げた。


それに六花は驚いて

「で、でも」

と告げた。


補は笑って

「あの人は殺しをしない人だよ」

とても優しい人だから

と言い

「それに真守さんのお父さんとのトラブルもなかったと思うし接点だってないと思う」

と告げた。

「俺もあの人が3人に疑われているのは辛いから」


六花は頷いて

「わかった」

ごめんね、ありがとう

と答えた。


その時、扉が開き当の本人が姿を見せた。

補は吾妻利雄を見ると

「あの、俺が怪我して意識がなかった時にも来てくれたって聞いて」

ご心配をおかけしてすみません

「ありがとうございます」

と告げた。


利雄は首を振ると

「いや、無事で良かった」

と微笑み

「由利子も心配していた」

と告げた。


補は笑むと

「伯母さんにもすみませんと伝えてください」

と言い

「あの、吾妻さんは徳島とかは詳しいですか?」

と聞いた。

「昔住んでいたことがあるとか」


利雄は不思議そうに

「いや」

仕事で行くことはあるけどね

と言い

「そう言えばお友達が徳島だったね」

何かあったのかい?

と聞いた。


補は少し考えて

「11年前に徳島で」

と告げた。


利雄はチラリと真守を見ると

「なるほど」

田中真先刑事部長の暗殺事件か

と告げた。


補は頷いた。

「そう」


六花も葵も真守も心配そうに2人を見た。

補の面倒を見てくれている人なのだ。


もし仲が拗れたら。


六花が「あの」と唇を開こうとしたら利雄が

「理由を聞いても良いかな?」

と聞いた。


それに補はさっぱりと

「吾妻さんが俺を見舞いに来ていた時にしていたバッチ」

と告げた。


六花は慌てて

「あの、田中刑事局長が殺された時に恐らく田中刑事部長のバッチと犯人は自分のバッチを取り替えたと私は思うんですだから」

全員を調べて行こうと思って

と説明した。


利雄は腕を組むと

「なるほど」

と少し考えて

「そうだね」

ただもしそうなら

「犯人は田中刑事部長がその時につけていたバッチを持っていると思うけどね」

と告げた。


それに全員が驚いた。


利雄は彼らを見ると

「あのバッチの再発行はないんだ」

失くしたら資格なしという事で剥奪される

「それほど重要なものなんだ」

だから特別な時以外には付けないようにしている

と告げた。


六花はそれに

「つまり、田中刑事局長が当時付けて行っていたという事は…そう言う立場の重要な意味があったんですね」

と告げた。


利雄は頷いた。

「そういう事になるね」

ただ11年前はバッチを受け継いでいなかったから

「もしどうしても調べたくなったら訪ねてきなさい」

ルミノール反応くらいは調べさせてあげるよ


六花は利雄の最大限の譲歩だと理解し

「どうしてもという時はお尋ねします」

と頭を下げた。

「ごめんなさい」


利雄は笑むと

「いいや」

じゃあ、輔くん

「くれぐれも無茶をしない事だ」

何か必要な時は俺に話をしなさい

「絶対に」

というと立ち去った。


六花は笑むと

「先ずリストの人を調べましょう」

真守さんはお父さんの過去を一覧にしてください

「生まれてから小学校中学高校と全て」

きっと犯人との接点があると思います

と告げた。


真守は頷いた。

「わかった」


葵は「俺は?俺は?」と聞いた。


六花は葵に

「私と一緒に一覧の人の情報を集めましょう」

有名人ばかりだからきっとネットや雑誌に載ってると思うんです

と告げた。


補はそれを聞きながら

「あー、だったらネットは俺が調べる!」

退院までは動けないから

と告げた。


六花は補を見て

「じゃあ、ネットはお願いします」

と告げた。


補は笑顔で頷いた。


真守は彼らを見ると

「六花ちゃん、葵くんに補君」

ありがとう

と頭を下げた。


六花も葵も輔も笑顔で頷いた。


翌日から六花と葵は大学で講義を受けてその後は校門で合流して図書館などへ行き一覧の一人一人の詳細を調べてメモっていった。


真守は仕事と大学へ行きながら養父の過去を調べ始めた。

それは今は誰も住んでいない自宅の中に残されていた日記やアルバムなどから出身から小学校中学校高校や大学などもである。


真守は一覧を作りながら

「養父の過去か」

と呟き目を細めた。


両親が死んで直ぐに自分を引き取ってくれた養父。

物心ついた頃から自分の父は養父だった。


両親の記憶がないからだ。


何時も優しく。

大きな手で優しく頭を撫でて

「お前は自由に正しいと思う道を生きなさい」

と告げて自由に道を選ばせてくれた。


だが考えると養父が何を考えて生きて来たのか自分は知らなかったのだ。


徳島で生まれ落ちて弟となる真守の実父と両親の4人で暮らし、大歩危の近くにある小学校中学校は分校で高校は阿波池田まで出て、その後、大学は東京へ…その後警察学校へ行き警察官になる。


キャリア組として出世の階段を駆け上がり、刑事局長になって数年後に殺されたのである。


真守は養父の弟である実の父と結婚相手である母のことも調べた。

が、不意に手を止めると目を見開いた。

「え?」


養父の田中真先はO型、

実の父である田中松一もO型。

母親である田中百合子はA型。


だが、真守はB型だ。


真守は一覧を見つめて

「俺は…誰の子だ?」

と呟いた。


真守が自身の出生の秘密にぶち当たったころ六花たちも徳島に関わる日本紳士同盟のメンバーにぶち当たっていた。


六花は雑誌のページを図書館で印刷しながら

「2人ですね」

と告げた。

「雑誌じゃ詳細は分からないですけど」


葵は首を振りながら

「でも2人だぜ」

2分の1じゃん

「すっげぇ、バッチから突破口だぜ」

と言い

「中出敦に坂中悟な」

と呟いた。


マンションに戻ると時刻は19時前であった。

ちょうど補から携帯が入り、補は葵に

「あ、ネットの情報をメールで送ってます」

宜しく!

という事であった。


葵は送られてきたURLにアクセスして印刷した。

六花たちが調べた2人の詳細が載っていた。


中出敦は徳島県議会議員で代々続く政界の人間であった。

坂中悟は徳島県の豪族の息子で財界から中出家をプッシュしていたのである。


この二つの家は対の関係だったのである。


補の調べたネットの情報には後2家分あった。

「この2つについては徳島と言うよりは四国関連なのでおまけという事で」

ということである。


六花はそれを読み

「確かに香川と高知なら可能性はあるわ」

と呟いた。

「現場の渓谷ってどの県境にも近いんですもの」


葵はネットで四国地方の地図を広げると

「確か大歩危峡の近くだったな」

と言い

「マジ、徳島の端の方だし香川高知愛媛に隣接しているよな」

と告げた。


六花は頷いて印刷した香川と高知のメンバーのデータを印刷した。


1人は高知の明治の華族流れがあった政財界に力がある大蔵剛造。

最後の1人は香川の伊達満であった。

四国財界を支える人物の1人であった。


六花と葵は4人のWEB上に公開されている履歴を印刷して並べた。

その時、真守が帰宅してきたのである。


真守はレストランの住人用スペースに入り六花と葵を見ると

「ただいま」

と言い

「夕食は?」

と聞いた。


時間は既に6時を過ぎている。

7時までなのだ。


六花と葵は慌てて

「あ、今から食べます」

「そうそう、四国の要人調べてて忘れてた」

とレストランから食事を持って戻った。


真守は静かに笑んで鞄を床に置いて同じように夕食を持ってテーブルに着いた。


両親の記憶はない。

あるのは養父との日々だけだ。


だが、養父は弟の松一とその妻の百合子の遺影を見せて

「お前の両親だ」

お前をとても愛していたんだ

と言ってくれていた。

だから、疑ったことなど微塵もなかった。


だが。

だが。

俺の血液型は2人の間から生まれることはない。


真守は黙々とご飯を口に運びながらグルグルと考えていた。

が、それを見ていた六花と葵は顔を見合わせて真守に声を掛けた。


六花は心配そうに

「真守さん、カレールーだけ…残ってます」

と告げた。


葵も「何時も混ぜて食ってたよな」と顔を顰めて告げた。


真守はハッとすると

「あ、悪い」

と答え、ルーとご飯を混ぜた。


六花は真守を見つめ

「何か、あったんですか?」

と聞いた。


真守は六花を見て目を見開いた。

真っ直ぐ見つめる眼。

今まで気付かなかったが、彼女は事件に向き合う時もそう言う目をしていた。


逃げることなく真っ直ぐ強く見つめる瞳を持っていた。


自分はどうだ?

養父が死んでからずっとずっと目を背けていた。


今もだ。


真守はスプーンを置くと六花を見つめやがて俯いた。

「俺の実父と母は血液型がO型とA型だった」


それに六花も葵も顔を見合わせて小さく頷いた。

真守は苦く笑むと

「俺はB型だ」

養父は実父と同じO型で家系的にO型家系らしい

と告げた。


六花は目を見開くと

「それって」

と呟いた。


真守は大きく息を吐き出した。

「父は…知っていたのか」

それとも


六花は立ち上がると真守を抱き締めた。

「真守さんは養父さんのこと大好きですか?」


葵は首を傾げた。

六花が何を言おうとしているのか分からなかったからである。


真守も分からなかったが

「俺は父が好きだ」

と告げた。


六花は笑むと

「真守さんは養父さんが真守さんを愛していることを疑ったことないですよね?」

と聞いた。

「だって真守さん、養父さんのこと何時も『父』って言ってるもの」


真守は頷いた。

「ああ、父は俺を大切に育ててくれた」

生まれた時からずっと

「俺の記憶があるのは父とのことだけだ」

俺の父は養父だと思っている


六花はそれに

「だったらそれで良いと思います」

両親のことを知りたくなったら調べれば良いです

「でも血は本当のご両親からですけど」

心はきっと養父さんから紡がれていると思います

と告げた。

「私も私の心は育ててくれたお父さんからだと思っていますから」


それに葵は「ん?」と首を傾げた。


真守は六花をそっと抱き締め

「なるほど、そうだな」

父から俺は色々教わって育ってきた

「それで良いってことだな」

と告げた。

「本当の両親については…知りたくなったら調べようと思う」

俺の出生の秘密を


六花は笑顔で

「ですよ」

今は真守さんのお父さんの事件を解決しましょう

と告げた。


葵は何度も頷いて

「そうそう!」

絶対に解き明かそうぜ!

と告げた。


真守は2人を見て笑むと

「ああ、ありがとう」

と答えた。

そしてご飯を食べ終えると日記とアルバムと家族の資料をテーブルに置いた。


徳島にゆかりの深い中出敦と坂中悟とは接点が出身地以外に接点はなかった。

中出と坂中は徳島でも中心地の小学校中学校と進み高校と大学は東京であったが早稲田系の高校と大学であった。


だが、養父の田中真先は大歩危分校の小学校中学校で高校大学は東京に出て東都大付属高校と東都大学へと進んでいるのだ。


真守の実父と母と言われていた田中松一と百合子は分校の小学校中学校で高校は徳島県内の高校で大学も徳島大学であった。


香川の伊達満については香川に実家はあるが小学校中学校高校大学と全て宮城の方であった。

つまり宮城の方で生活していたという事である。


高知の大蔵剛造については小学校中学校を高知の私立に通い、高校大学は東京であった。

それに葵が顔を上げた。

「これ」


六花は目を見開くと

「この人、高校大学が東都だわ」

真守さんの養父さんと同じ学年だし

「接点があってもおかしくないわ」

と告げた。


六花は真守に

「そう言えば、日記とかはありました?」

と聞いた。

「日記って凄く情報の宝庫なんです」

ヒントがあるかも


それに真守は日記を出すと

「これだが…ちょうど高校と大学時代のものがすっぽり無くなっている」

と告げた。


葵は日記を手にパラパラと見て

「もしかして犯人に都合の悪い事があって…忍び込んで処分したとか?」

と呟いた。


六花も日記を手に見て

「半分は葵さんの言う通りに犯人に繋がることが書いていたのかもしれません」

でも処分したのは…養父さん自身だと思います

「途切れる前の日記は途中で破られています」

次に始まった時は最初のページからです

「しかも真守さんを引き取って直ぐからです」

と告げた。

「私、きっと養父さんは真守さんを引き取ってから新しく日記をつけ始めたと思います」

犯人の都合で抜いたなら途中で切り取ることはせずにその一冊も抜くと思います

「反対に始まった日記も途中になっていたと思います」


真守は頷いて

「かも知れない」

と言い

「養父は犯人と何かがあって接点だった日々のところを抜いた」

と告げた。


六花は冷静に

「それはきっと真守さんの出生に関わることだと思います」

と答えた。

「しかも高校と大学というと東都大学時代」


3人は顔を見合わせた。


葵は笑顔で

「東都大学は俺達の母校じゃん」

と告げた。


六花は頷いた。

「それにこの二つの時代に接点があったのは大蔵剛造だけ」


真守は一度目を閉じて開くと

「例え俺の出生にどんな秘密があっても俺は真っ直ぐ受け止める」

俺の父は養父の田中真先だけだ

「俺は養父を愛しているし父も俺を愛してくれていたそれに一点の曇りもない」

と告げた。


六花は食事を終えて立ち上がるとレストランのカウンターに皿を戻し

「私、伯父さんに話してきます」

ちゃんと話すように伯父さんと約束したし

「お父さんとも約束したから」

伯父さんに力を借りるようにって

と笑顔で告げた。


真守も立ち上がると

「あ、俺も」

と告げた。


葵も立ち上がり

「ってことも、俺も付き合うぜ」

と告げた。


3人はマンションを出ると正面の七月の家を訪ねた。

空には夜の闇が広がっていたがそこには星が美しく輝き月が皓々と光を讃えていた。


七月は3人の話を聞き

「大蔵剛造か」

と言い

「彼は政財界を裏から動かしていると言われるほどの実力者だ」

と告げた。

「だが、解った」

3人が調べるのは東都大学内だけでだ

「その後は俺と警察に任せなさい」

もちろん

「結果は知らせるしちゃんとする」


六花はチラリと真守を見た。


真守は頭を下げた。

「宜しくお願いします」


六花も頭を下げて

「伯父さんを信じてます」

と告げた。

そう言って顔を上げると綺麗に微笑み

「私の父の椅子にはお父さんが座ってるけど」

それが2つあって1つには伯父さんが座ってる

「私、それで幸せだと思ってる」

勘違いして後悔しないでね

と告げた。

「伯父さんがちゃんとすると言ったならちゃんとしてくれると思ってます」


七月は目を見開いて六花を見つめた。


3人が去ると七月は携帯を手に見禰君雄を呼び出した。

「すまない、今夜は酒に付き合ってくれ」


見禰君雄はそれに

「しょうがない、特別料金プライスレスで付き合ってやる」

どうせ六花ちゃんのことだからな

と告げた。


七月は泣きながら

「悪いな」

と告げた。


ただ一人愛した。

花桜梨を愛した。

彼女は美しく優しい女性だった。


彼女が六月を愛していたことは知っていた。

2人を裏切る行為だと分かっていた。


だから。

「最初で最期だ」

もう君の前に現れない


「だから、触れたい」

触れても良いか?


彼女はまるで聖女のような優しさで受け入れてくれた。

六月は全てを知っても何も言わなかった。


そして彼女と共に徳島へと去っていった。

「花桜梨はお前を受け入れた」

勘違いだけはするな

それが六月の残した言葉だった。


勘違いだけはするな。

その意味がずっと解らなかった。


自分は弟の六月に花桜梨に六花に負い目を持っていた。

すまないと思っていた。


だが。

だが。


七月は泣きながら

「花桜梨…六月…ありがとう」

六花

「俺は君を愛しく思ってるからね」

心から

「君たち家族を心から愛している」

と酒をあおった。


それに向かい合って飲んでいた見禰君雄は苦く笑って

「複雑な兄弟だ」

俺には理解できないね

とぼやいた。


翌日、六花と葵と真守は大学の知り合いの教授を伝って真守の養父である田中真先と大蔵剛造について話を聞いた。


その事について葵の経済学部の教授が

「田中真先氏と大蔵剛造氏のことなら法学部の白上教授が詳しいだろう」

白上教授と俺は重なっているから話をしておいてやる

と言ってくれたのである。


そして、3人は白上教授と対面したのである。

彼は真守を見ると深く息を吐き出して

「いつか…来ると思っていた」

と告げた。

「思っていたより少し時間を要したが」

だが田中君が育てたんだ

「そうだろうね」


真守は息を飲み込んで

「俺は俺の父は田中真先一人だと思っています」

俺は父を尊敬し愛してます

と告げた。


教授は微笑み

「そうか」

と言い

「彼らは高校時代に出会ったと言っていた」

本当に仲の良い3人だった

「地位も貧富そんなもの関係のない仲だった」

と告げた。

「田中真先」

大蔵剛造

「そして阿久津華」


田中君は警察官になるために警察学校へ行き

「阿久津さんと大蔵君は弁護士になるために司法試験を受けて」

2人は結婚する予定で付き合い始めた


それに六花と葵と真守は顔を見合わせた。


教授は真守を見て

「君は阿久津さんによく似ている」

田中君も彼女を愛していたと私は思っていた

「だが親友を選んだ彼女と親友を彼は祝福して己の道に入った」

と告げた。

「それが大倉君は阿久津さんを捨てて他の女性と結婚した」

彼の家は代々続く華族系の家だったからそれに逆らえなかったんだろう

「それと前後して彼女は身籠ったまま事故を起こして君を産み落とすと同時に亡くなった」


「田中君の弟夫婦は子供が生まれなくて…その子供を引き取った」

田中君がもちろん頼んでだが

「だが悲劇は終わらなくて子供が2歳になるかどうか位で彼の弟夫婦も事故で亡くなり田中君が君を育てることになった」


彼が最期に訪ねてきた日のことを覚えている

「いつか君が尋ねてくるかもしれない」

自分が死んだ後に

「その時に伝えて欲しいことは誰もが君を愛していたという事だ」

阿久津さんも君を生んで育てようとしていた

「愛していた」

田中君の弟夫婦も我が子のように君を育てていた

「愛していた」

そして田中君もだ

「それは君がよくわかっているだろう」

大蔵君と何があったのかは分からない

「それは彼から聞きなさい」


真守は唇を噛みしめると涙を落した。


3人はマンションへ戻り大蔵剛造と対峙することを決めると七月に告げた。

七月は冷静に頷き

「その場を俺が用意しよう」

と答えた。


七月も日本紳士同盟の一人なのだ。

その力を発揮させることは出来る。


七月は真守を見ると

「ただ一つ」

田中君にとって見たくない現実が待っているかもしれないが後悔はないね?

と聞いた。

「真実は何時も正しく優しいものじゃない」


真守は頷いた。

「大丈夫です」

俺は父を信じていますから


七月は頷いた。

翌日、七月は3人に

「明後日の夜に千代田の料亭で会うことになった」

と告げた。

それに

「あー、それからなんか輔君も来るそうだ」

と困ったように頭を掻いていた。


つまり外泊という事だ。


六花も真守も葵も苦笑を零した。

しかしその翌日、真守は1コマ目の講義を受けてマンションへ戻り、葵も3コマ目で大学を後にした。


六花は4コマ目を終えると講義室を出て大学の門前まで姿を見せた。

そこに車が止まると数名の男が降り立ち腕を捕まえた。

「冬里家の娘だな」


六花は驚くと

「こんな状況で言われてもハイって言えません!」

と答えた。


男は「なるほど、確かに」というと

「だが調べは付いている」

と車へと押し込み掛けた。


所謂、誘拐である。

理由は…明日の会合にあるのは明白であった。


六花は強い力で車に乗せられかけながら

「お、お父さん!」

お父さん!!

と叫んだ。


その時、一台の車が正面に止まり中から男達が現れると連れ込もうとしていた男の手を掴み捻った。

「冬里家の人間と知っての犯行だな」

ならばこちらも思いっきり対抗できる


男はそう言い手刀で六花の腕を掴んでいた男の腕へと降り下ろし六花を引きはがすと男を殴り飛ばした。


男は驚いて胸元に手を入れたが、それよりも早く男が銃を構え

「俺は外さん」

と告げた。


驚く六花の背後に

「七月の命令で君に護衛を付けていたんだ」

いやぁ

「まさか本当にやってくるとは思ってなかったけどね」

と見禰君雄が苦笑しながら告げた。


そして、動けない男たちに

「誰の命令か分からないが、大蔵氏に報告はさせてもらうよ」

と告げた。

「動画も撮っているからね」


そう言って携帯を見せた。

男達は蒼褪めると慌てて車に乗り込んで逃げ去ったのである。


六花は震えながら

「あ、りがとうございます」

と告げた。


君雄は微笑み

「送って行こう」

と告げた。


翌日の夜に大蔵剛造は指定した千代田にある紅葉と言う料亭に姿を見せて七月と六花を見ると頭を下げた。

「先日は部下が無礼を働いた」

申し訳なかった


六花は首を振ると

「怖かったですけど、大丈夫です」

と答え

「それよりも真守さんに本当の事を伝えてください」

と告げた。

「真守さんはちゃんと受け止める覚悟を持ってます」


剛造は苦く笑むと真守を見た。


真守は冷静に

「父を何故殺したのか」

教えてもらいたい

と告げた。


七月は息を吐き出し

「まあ、取り敢えず全員座ってから」

と席を勧めた。


剛造は座りながら

「冬里に吾妻の護衛が取り囲んでいてはな」

流石の俺もどうしようもない

と告げた。


補は自分を指差し

「吾妻?」

と呟いた。


七月は笑んで

「後見人の我妻利雄氏に話をしておいたんだろ?」

と告げた。


補は頷いた。

「はい、約束なので」

でも

「まさか」


七月は「君の後見人だ、ちゃんと君を守るよ」と告げた。

そう、補の実の父親でもあるのだ。


葵も座りながら

「俺だけがバッチなしか」

と呟いた。

それに六花は笑って

「私もです」

と答えた。


真守も笑んで

「俺もだ」

と告げた。


大蔵剛造は息を吐き出し

「ある意味、待っていた」

と告げた。

「誰かがバッチの謎に行きついて俺と真先とのことに辿り着くと」


そう言って胸元のバッチを外して前へ出した。

「これは真先のバッチだ」

俺と真先は高校時代から同じ女性を愛した

「もう知っていると思うが阿久津華という女性だ」

俺は家のことなど親戚や誰かが乗っ取れば良いと思って彼女と結婚するつもりだった

「だがあの家の重責はそんなに甘いものではなく…俺に家を継がせるために許嫁以外の女性を排除しようとした」

別れなければ彼女を殺すという事だ

「俺は彼女を守るつもりで別れたが彼女の身体の中には子供がいた」


そう言って真守を見た。

「勿論俺の子供だ」

家のものは彼女に卸すように勧めたが彼女は頑として譲らなかった

「そして…彼女は『事故』に遭った」


その意味。

全員が息を飲み込んだ。


「彼女は瀕死の中で子供を産んだ」

真先は彼女と俺の子供を守るために当時子供が死産だった弟夫婦に子供を引き取らせた

「出生が分かると困るからだ」

それに死産だった子供の代わりと言うのもあった

「俺にはその子供が彼女の産んだ子供だと分かったが愛されて育つならばそれで良いと思った」


しかしその弟夫婦は事故に遭って亡くなり、その後は真守を真先が育てたのだ。

真守は小さく震えて両手を握りしめた。


六花はそっと真守の手に手を重ね

「真守さんのせいじゃないです」

みんな真守さんを愛しただけなんです

と告げた。


真守は六花を見ると微笑み頷いた。


剛造は静かに口元に笑みを浮かべ

「あの日、あの場所に呼び出したのは俺だ」

俺と結婚した女性との間で子供が出来なかった

「彼女も可哀想な女だった」

跡取りを産めない女だと分かった途端に離縁させられた

「そして浮上したのが華の産んだ子供のことだ」

と告げた。

「散々殺そうとしていた子供を俺の血が流れているという理由で今度は引き取ろうと画策し始めた」

俺は親族に全てが分かる前に真先に俺に渡すように告げた

「真先が幾ら守ろうとしても真先のバッチは張りぼてで何の力もない」

何故なら俺が贈ったものだからだ

「名簿に載っていても後ろ盾も何もない」

ただ警察庁刑事局長の名が後押しをしていたがそれだけだ

「親族が真実を突き止めれば真先は殺され子供は親族の手に落ちると分かっていたからだ」


だが

「真先は断った」


だから

「俺は真先を殺した」


真守は唇を噛みしめ

「そんな理由で…父を」

と剛造を睨んだ。


剛造はふっと笑むと

「待っていた」

ある意味この時を

「俺も流石に疲れたのでな」

親族ももうこの11年でほぼ断絶した

「俺が終われば大蔵家も終わりだ」

と告げた。


葵はそれに腰を浮かせて

「ひでぇよ!」

親友だったんだろ?

「きっと真守さんの養父さんはあんたへの友情もあって真守さんを大切に育てていたと俺は思う」

なのに!

と怒った。


補も泣きながら

「そんな理由で…親友を殺すなんて」

と涙を拭った。


六花は真っ直ぐ剛造を見て

「本当の理由はそれだけじゃないですよね?」

と告げた。


剛造は六花を見た。


六花は冷静に

「だって、その後」

真守さんは刑事局長の養子として貴方と触れあうことなく暮らしてます

「もしそのお話のままなら貴方は真守さんを引き取っていると思います」

と告げた。

「本当は何があったんですか?」


剛造は六花を見つめやがて苦笑すると

「なるほど、もしかしてバッチの事を見抜いたのはお嬢さんか」

と告げた。


六花は頷いて

「はい、あのバッチを入れ替えたのにも理由があったと思います」

遺品は家族に返される

「つまり張りぼてのバッチは貴方の手に」

本物は真守さんの手に戻ります

と告げた。


剛造は息を吐き出し

「真先は断った」

守る方法は一つしかないと言った

「真実を知っているものが墓場に持って行くことだと」

と告げた。

「己は命を捨てる」

その代わり俺には親であることを捨てろと


「俺は真先を撃ち全てを闇に葬った」

それしか我が子をあの家から守る方法がなかった

「それ以降、俺は親族を断絶させることに全てを注いだ」


真守は実父を見つめた。

誰もが自分を守ろうとしてくれたのだ。


だが。

だが。

「俺は父にも…母にも…貴方にも…生きていてほしいと思った」

もちろん俺を2歳まで育ててくれた父の弟夫妻にも


剛造は静かに笑むと

「こんな俺にもか」

と聞いた。


真守は頷いた。

「罪を償って…生きて欲しいと」

父もそう思っていると思います

「そしてきっと今は自分の選択が間違っていたと思っていると思います」


父は自ら死を告げるべきじゃなかったと。

貴方を苦しめてすまなかったと。


剛造は真守を見つめ

「お前はやはり真先の子供だ」

と告げた。


真守は笑むと

「はい、でも貴方の血も引いています」

と返した。


剛造は笑むと

「だが、俺は俺のやり方で決着をつける」

と言い上がると七月を見て

「感謝する」

それからお嬢さんに手を出したことを改めて謝罪する

と告げた。


七月は頷いて

「その謝罪を受け入れます」

と答えた。


その翌日、前刑事局長であった田中真先刑事局長の死の真相は明らかになった。

但し、大蔵剛造の死と共に公になることはなかった。


大蔵家に関しては真守の元に定期的に大蔵家に代々仕え大蔵剛造を支えていた執事が姿を見せるようになったのである。


季節はゆっくりと移り変わり、補も元気に退院してきたのである。

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