クローズドサークルの考察
大学の授業は高校や中学と違って1コマの講義時間が長く1日のコマ数が少ない。
高校や中学などでは6時限あったが、大学では4コマとなっている。
それでも1コマ目から4コマ目まで全て講義を受けると朝の9時から夕方の4時くらいまでかかる。
だが六花は葵や真守の忠告を受けて出来るだけ講義を取り単位を増やすことにしたのである。
それに文学を深く掘り下げて考察する授業は新鮮で楽しかった。
いわゆる、大満足であった。
本格的に授業が始まって直ぐに同じ学科の交流会もあって知り合いは増えたが受ける講義はそれぞれで多くの場合が講堂に入って講義を聞き終わると去っていく。
そう言う流れなので余程気が合わない限り共に食事をするなどと言うことはなかった。
六花の場合は学部が違っても昼休みには補や葵や真守と共にマンションのレストランや時には大学内の食堂で食べることが多く1人でポツンという事はなかった。
ただ補にしても葵にしても真守にしてもどうやら女子大生に人気があるらしく大学内の食堂で昼食をとる時は何故か周囲には多くの学生がギッチギチに座っている状態であった。
補は俳優なのでその辺りの気遣いはあって
「余り迷惑にならないように」
とサラリと綺麗な笑顔でファンサも忘れないところがある。
葵も元々ホストクラブでアルバイトをしていたので
「今はマンションチームでおデートだから悪いね~」
とサラリと交わしている。
今は七月の助言もあって七月の事務所で働いている。
真守はそんな2人を
「大変なもんだな」
と自分目当ての女子大生に関してはアウトオブ眼中のようであった。
と言っても、真守目当ての女子大生はひっそりと遠くから見つめているタイプが多いようで本当に気付いていないのかもしれない疑惑が何時も補と葵と六花の中に沸き立っていた。
本当に気付いていないのか。
それとも気付いていてアウトオブ眼中なのか。
その謎については流石の六花も分からなかったのである。
そんな東都大学での授業にも慣れ、1ヵ月も経つと最初の大型連休GWが訪れる。
六花はGWの手前の4月下旬に何時ものように一階のマンションのレストランで夕食を食べていると七月から
「あ、六花ちゃん」
GWは徳島に帰りなさい
「いいね」
と厳命された。
「交通費は往復出すからね」
六花は驚いて
「良いんですか?」
と返した。
交通費と一言で言っても東京から徳島であるかなり高い。
七月は笑って
「勿論だよ」
六花ちゃんを東京に縛り付けていたら六月に殴られるからね
と業とらしく「おおお」と震える真似をした。
それに夕食を食べていた真守が
「じゃあ、俺も一緒しようか」
と告げた。
「徳島へ帰らないといけないからね」
七月はそれに笑むと
「そうだね」
真守君が一緒なら安心だ
「滞在費は?大丈夫?」
と聞いた。
真守は頷くと
「ええ、そちらは問題ありません」
と答えた。
「一応、アプリもソフトも売れていますから」
そう、田中真守は学生だがIT系ベンチャー企業の社長でもあるのだ。
六花は「あ」と言うと
「もし良かったら、うちに泊まりませんか?」
きっとお父さんも良いと言ってくれると思います
と告げた。
「実家だし宿泊費浮きますよ?」
それに食い付いたのは葵と補であった。
葵は手を上げると
「俺も!初徳島万歳じゃん!」
俺の実家東京だから帰る場所ないし
「アルバイト休んで良いでしょ?冬里さん」
と告げた。
補も手を上げて
「俺も!5月3日の後半はライブ放送があるからダメだけど5月1日までは行ける!」
と告げた。
…。
…。
七月は冷静に
「いや、六花ちゃんの護衛に3人もいらないけど」
と呟いた。
それに葵と補は両手を伏せて泣きまねをすると
「徳島―」
と叫んだ。
真守は冷静に
「駄々子か」
とぼやいた。
七月は息を吐き出し
「じゃあ、いいよ」
4人分のチケットを用意しておくから
「それから男3人はホテルにしなさい」
とビシッと告げた。
「3人も男が付いて行ったら反対に六月が心配する」
六花も真守もなんだかんだと言いながらも苦笑を零してGWの徳島行き大旅行を楽しむことになったのである。
推理小説研究者の探偵模倣 クローズドサークルの考察
GWの初日4月29日の土曜日のまだ夜中に近い時間に六花と真守と葵と補の4人は七月に挨拶をすると荷物を持って羽田へと向かった。
それぞれ荷物が多いので真守が車を運転して徳島に行っている間は空港の駐車場に止めることにしたのである。
かなり早い時間に出たのだが、やはりGWである。
車を駐車場に入れた時には夜明け前だが飛行機の搭乗時間ギリギリであった。
4人は何とか飛行機に乗り込むとそれぞれの席について漸く一息ついた。
東京から徳島空港までは1時間程度である。
六花と真守は29のKとJ。
葵と補がその前の28のKとJであった。
右側の窓際である。
つまり富士山が見れる方という事だ。
七月の粋な計らいと言ったところだろうか。
六花は椅子に座ると手持ちの鞄から本を取り出し読み始めた。
『山小屋の密会者』という冬山の山荘で起きた推理小説であった。
真守はキャビンアテンドから毛布を借りて六花を見ると
「それ、クローズドサークルだったかな」
と呟いた。
六花は頷くと「はい」と答え
「今、ちょうど事件が起きたところで先が気になって」
と告げた。
真守は笑むと
「なるほど」
じゃあ俺は仮眠するから
と目を閉じた。
六花は少し首をかしげて
「あれ?富士山は見ないのですか?」
と聞いた。
真守は苦笑して
「帰りに見るかな」
今日は早かったから
と答えて目を閉じた。
六花は苦笑して
「おやすみなさい」
と答えた。
機内は照明が落ちて六花は手元の照明をつけた。
葵と補も毛布を貰ってそれぞれ仮眠したのである。
七月の計らいは六花だけのものとなったようである。
早朝の便だけあって眠ってしまう人が多いようで六花は静かにページを捲って先を進めた。
機内には静寂が広がり、エンジン音だけが響いている。
だが、暫くすると一人の女性がトイレへと横を歩いて後ろへと向かった。
少しして戻り、薄暗い中を今度は男性がトイレへと向かった。
入れ代わり立ち代わりである。男性も同じように席へと戻り、その後に女性が行き、六花はチラリと彼女を見て
「トイレ行く人いるのね、珍しい」
と思った。
その時、窓の外に富士山が見えて
「見えた」
と小さく呟いて携帯を出すと写真を撮った。
それに補が振り向きながら顔を見せて
「六花ちゃん、俺も見てるよ」
と携帯を向けた。
六花は頷き足早にトイレに向かう男性に目を向けた。
「ちょうど富士山なのに」
トイレ
六花はそんなことを考えながら
「補さんは写真撮ったんですか?」
と携帯を見て告げた。
補は六花に目を向けながら小声で
「録画中」
と笑って答え
「へー、ああいう人もトイレに行くんだ」
と呟いた。
六花はトイレの方を見るとトイレから後方ギャレに入っていく女性を見て
「? あ、私も思いました」
と笑って答えた。
補は手を振ると
「じゃ、また」
と座った。
六花は頷いて再び続きを読み始めた。
冬山の山荘である事件に関連した6人の宿泊者が互いの立場を隠して宿泊し、その事件の犯人と共犯だったが逮捕されなかった人物が殺害され、誰が犯人かと言うストーリーであった。
他の5人は全員被害者の身内。
動機がある。
しかし、全員にアリバイがあるのだ。
この日、偶々宿泊した春日井南が山荘周辺を吹雪が取り巻く中で犯人を見つけ出すのだ。
が、全員が犯人のようにも思え、けれど誰が犯人か分からない。
警察の力も借りれない。
下手をすれば自分も殺されるかもしれない。
そんなドギマギの展開であった。
六花は懸命に読みつつ暗がりの中を男性が横を通り過ぎて席に座るのに気付き
「…先の人か」
と再びページをめくり始めた。
その後、一人の年配の女性がトイレへ向かうと直ぐに戻ってきて座り、今度は若い青年がトイレへ向かって直ぐに戻った。
少ししてポーンと音がした時に先程の年配女性がトイレへ向かって小さな騒ぎが起きたのである。
女性は後ろのギャレーの「浅井」と名札を付けたキャビンアテンダントに
「すみません、トイレがずっと使用中になっているみたいで」
と告げた。
浅井克美は彼女に
「わかりました」
と慌ててトイレに行くと戸を叩き
「お客様、大丈夫ですか?」
と呼びかけた。
が、返事はなかった。
彼女は直ぐに
「トイレの中でご気分が悪くなった方がいると思います」
と言うとボールペンを出した。
六花は立ち上がると話をしている二人に近寄り
「あの、多分…中には誰もいないと思います」
何かの拍子に鍵が掛かってしまっているだけかも
と告げた。
彼女はそれに
「いえ…その…とにかく中を開けて直ぐに様子を見ないと」
と慌ててボールペンで鍵の部分を挿して扉を開いた。
が、中には誰もおらず彼女は目を見開くと
「え!?誰もおられない」
何故
と小さく声を零した。
年配の女性は安堵の息を吐き出すと
「すみませんねぇ」
と言い、トイレの周囲を見回すと
「あら、濡れているわ」
前の方がかなり荒く使って戸が閉まってしまったのかもしれないわね
と言い、浅井克美がそれに
「そうかもしれませんね」
と答えると安心したように中へと入って鍵を閉めた。
六花は浅井克美の名札を一瞥して席に戻りかけて突然響いた悲鳴に目を向けた。
中間ぐらいの右側の席に座っていた女性が立ち上がって
「誰か!」
と叫んだのである。
前のギャレーから「尾坂」と名札を付けたキャビンアテンダントが飛び出してくると彼女たちも驚いて直ぐに叫んだ女性を席からどかせて男性を座席から通路へ移動させた。
浅井克美も急いでストレッチャーを用意すると駆けつけた。
そして、男性を乗せると前のギャレーへ運び入れ館内放送を流した。
「お寛ぎ中のところ申し訳ありませんが、医師または医療従事者の方がおられましたら申し出てください」
放送が流れた。
2人ほどの客が立ち上がりギャレーへと消え去ったのである。
少し遅れて一人の男性が立ち上がるとギャレーへと足を向けて進んだ。
この騒ぎでほとんどの客が目を覚まして騒めき六花の隣で眠っていた真守も、後ろで眠っていた葵と補もびっくりしたように身体を起こしたのである。
葵と補は振り返って上から顔を覗かせると
「「何があったの?」」
と真守と六花に聞いた。
六花は補を見ると少し考えて
「補さん、携帯貸してもらえますか?」
と聞いた。
補は「は?はい」と携帯を六花に渡した。
六花は補が自分に話しかけた時の動画を見て
「やっぱり」
と呟いた。
呆然と立ち尽くしている女性にギャレーから出てきた男性が近寄り胸元から手帳を見せると
「話を聞かせてもらえますか?」
と告げた。
警察手帳であった。
警視庁捜査1課第5係の一見肇刑事であった。
女性は震えながら
「わ、私分かりません」
もうすぐ到着するので声を掛けて身体をゆすったら
と両手で顔を覆って泣いた。
六花は2人に近付いて
「あの、先の男の人は」
と聞いた。
一見は怪訝そうに六花を見て
「君は関係ないので」
後で事情聴取くらいはするかもしれないのでその時にご協力をお願いする
と告げた。
女性は泣きながら
「だって布団が落ちたら血だらけなんて…私じゃないです」
と告げた。
それに葵が
「血だらけって」
と思わず後退った。
一見は慌てて女性と六花と葵たちを連れてギャレーの中へと入った。
中では医師と看護婦と尾坂朋美、浅井克美、そしてもう一人多田恵子と言う3人のキャビンアテンダントが男性の手当てをしており、一見は邪魔にならないように5人を端へと寄せた。
そして、息を吐き出すと
「ガイシャは腹部を鋭利な刃物で刺されている」
トイレへ行って戻ってからは席を動いていない
「だとすれば隣に座っていた君以外に刺せる人がいないという事だ」
と告げた。
「取り敢えず、君と男性の名前を」
それに女性は泣きながら
「私、本当に何もしていないです」
と言い
「…戸谷真名子です」
彼は長富新一郎です
「会社の先輩です」
と告げた。
「今日だって先輩が旅行に付き合ってほしいって言うから付き合っただけで」
私から誘ったわけじゃないです
葵はそれを聞き
「つまりGWのお泊りデートってことか」
と呟いた。
戸谷真名子はそれに
「違います」
と言い
「そもそも私と先輩はそう言う仲じゃないです」
と告げた。
六花は彼女に
「どう言う仲なんですか?」
と聞いた。
彼女は少し周りを気にしながら小さな声で
「恋愛相談に乗ってくれていたんです」
と告げた。
「私、実は妊娠しちゃって…その、私の付き合っている彼は煮え切らなくって…どうしようって」
一見は睨んで
「信用できないな」
と言い
「とにかく荷物を調べさせてもらう」
君たちは席に戻っておきなさい
と告げた。
真名子は小さく頷き座席へと一見と共に立ち去った。
六花は手当されている長富新一郎を見て
「…助かりますように」
と小さく呟いた。
もしも、もしも。
自分が考えている通りなら…長富新一郎が死んでしまったら彼自身も犯人も救われないのだ。
葵も補も席に戻り、真守も六花に
「六花ちゃん」
と声を掛けて席に戻るように促した。
飛行機は徳島空港に到着し長富新一郎は待機していた救急車で運ばれ、乗客乗員全員が足止めされたのである。
それは戸谷真名子の荷物から凶器は見つからなかったからである。
全員が駆けつけた徳島県警刑事課の事情聴取うけることになったのである。
六花も真守も葵も補も機内を出る前に席に着いたまま一見から事情聴取受ける形になったのである。
一見は六花たちを見ると
「君たちの聴取は俺が担当することになった」
一番騒がしかったからな
と告げた。
六花は彼を見ると
「あの、後ろのギャレーを担当した『浅井』って名前のキャビンアテンダントさんは」
と聞いた。
一見は「ん?」と声を零すと
「ああ、浅井克美さんか」
と告げた。
「ギャレーも荷物も調べたが凶器はなかったし無くなっているものもなかった」
それにキャビンアテンダントと乗客だ
「別に問題を起こしたわけでもないのに動機がない」
六花は少し考えて
「あの2人に接点がないか調べてください」
と言い
「恐らく長富さんを刺したのはその浅井克美さんってキャビンアテンダントさんです」
と告げた。
一見は目を見開くと
「はぁ!?」
と言い
「いやいや、そんな当てずっぽう信じられるわけがないだろ」
凶器も見つかっていないんだぞ
「それに彼女は被害者に近付いていない」
と告げた。
真守はチラリと六花を見た。
振り返って葵と補も六花を見つめた。
六花は息を吐きだすと
「恐らく長富さんが刺されたのはトイレです」
トイレのバキューム式タンクから吸い出したものを調べてください血液反応があると思います
と告げて補を見ると
「補君、携帯で撮った動画を」
と告げた。
補は慌てて
「え?!は?」
わ、解った
と携帯を出して動画を映した。
始めは寝ている葵が写っており富士が写って少しすると六花の姿が映し出された。
六花は「そこです」と画面の後ろを指差した。
そこにボールペンで戸を閉める浅井克美の姿が写っていたのである。
一見は驚いて見ると
「ま、さか」
だが
と呟いた。
六花は一見を見て
「私に時間をください」
彼女を説得します
と告げた。
「自首させてあげたいんです」
一見は少し考えて
「わかった」
と答え
「きなさい」
と足を踏み出した。
六花は一見の後ろについて後方のギャレーの前で他の刑事と話をしている浅井克美の元へと進んだ。
一見は徳島県警の刑事に
「すまないが、彼女の事情聴取が済んだら話をさせてもらいたい」
と告げた。
それに三井修一刑事は
「あ、それなら終わりましたので」
とその場を離れた。
浅井克美は一見と六花を見ると
「あの、まだ何か?」
と聞いた。
一見は息を吐き出すと
「この子が君を自首させたいというので話をしてもらいたい」
と言うと
「私はそこで待っている」
と少し離れた。
浅井克美は六花を見ると
「貴女は…あの時の」
と呟いた。
六花は彼女を見ると
「私は貴女と被害者の方の関係を知りません」
でも一つだけわかることがあります
と告げた。
「恐らく被害者の方は貴女を大切に思っている」
それに彼女は視線を逸らせると
「私は唯のキャビンアテンダントであの人は乗客です」
どうしてそんなことを
と告げた。
六花はそれに
「貴女の為に被害者の人は傷を負っても席へ戻ったからです」
と告げた。
「彼を刺したのは貴女で場所はトイレです」
貴女もあのおばさんがトイレが開かないと言ってきた時に中に彼がいると思っていたと思います
「だから居なくて驚いた」
浅井克美は俯いたまま
「それは貴女が感じたことじゃないでしょうか?」
私は別に
と呟いた。
六花は彼女を見つめたまま
「いま重要参考人になっている女性の人は被害者の方の会社の人で妊娠をしています」
と告げた。
浅井克美は目を細めて
「だから?」
私には関係のないことです
と六花を睨んだ。
六花は確信すると
「彼女は被害者の方に相談していたそうです」
彼女と付き合っている男性が妊娠したのに煮え切らない態度をとっていてどうしたらいいかと
と告げた。
「彼女には他に男性がいて被害者の方は唯の相談を受けていただけの関係です」
そしてあの人は貴女を守るために死ぬかもしれないのに場所を態々移動して貴方を庇おうとしたんです
「私は彼は貴方を好きなんだと思います」
だから自首してほしいんです
「貴女も彼が死んでほしくないと思っていたからおばあさんが言いに来た時に『お待ちください』ではなく直ぐに開けようとしたんだと思います」
浅井克美は涙を落しながら唇を震わせ
「…私は…関係…」
と小さく呟いた。
六花は見つめ
「ないですか?」
と聞いた。
彼女は両手で顔を伏せると
「私、騙されたと思ったんです」
彼女が妊娠したという話を聞いて
「どうしたらいいか悩んでいると言われて」
彼の子供だと思って辛くて
と告げた。
六花は彼女に
「被害者の方とゆっくり話をして誤解を解いてください」
と告げた。
「私はあの人は貴女を愛していると思います」
浅井克美は頷くと一見の方に行き頭を下げた。
「私が、刺しました」
そう言って全てを自供したのである。
一見は優しく彼女の肩を叩いて六花を見て敬礼をして立ち去った。
六花はそれを見送ると待っていた真守と葵と補の元へ戻った。
漸く飛行機を降りて出口へ向かいながら葵は不思議そうに
「けど、凶器はでなかったんだろ?」
どこへ消えたんだ?
と呟いた。
補も頷いて
「確かに」
と告げた。
真守は六花を見ると
「六花ちゃんは分かっているみたいだが」
と呟いた。
六花は困ったように
「確信はないんですけど」
恐らくトイレに流したと思います
「ギャレーにも無くなったモノや凶器が無かったと言っていたので…恐らく氷かなぁと」
おばさんが入る時に床が濡れていたので
と告げた。
真守は「消えた凶器にクローズドサークルか」と小さく呟いた。
「しかし彼女が最後まで知らぬふりをして補の動画もなかったら」
完全犯罪になるケースだな
六花はそれに
「そうですね」
と言い
「もしかしたら一番のトリックは…被害者が加害者を守るために凶器をトイレに流して移動したことかも」
と告げた。
「それがパーフェクトクライムに近い状態にしたのだと思います」
出口を抜けた彼らの前に六月が立っており、六花は足を踏み出すと
「お父さん!」
と駆け寄った。
六月は六花を抱き締め
「お帰り」
と告げると真守たちを見て
「じゃあ、家に移動しようか」
と告げた。
真守はそれに
「あ、その前に俺達はホテルに」
と言いかけた。
が、六月は笑うと
「七月には家で泊めると言っておいた」
この時期にホテルは難しいだろ
と告げた。
「じゃあ、車に」
それに葵も補も真守も
「「「お世話になります」」」
と足を踏み出した。
後日、本郷から浅井克美は素直に罪を認め全てを話したという事であった。
凶器は六花の想像通りにギャレーの冷凍庫で凍らせておいた氷であった。
被害者の長富新一郎は一命をとりとめ意識が戻ると浅井克美の減刑を願ったという事である。
浅井克美は子供が出来ない身体で被害者の長富新一郎は子供がいなくてもという事で結婚するつもりだったという事である。
そんな時に子供が出来てどうしようかと言う話を聞き犯行に及んだという事であった。
ただ、傷自体は深く無く新一郎も言葉が足りなかったと反省していたという事であった。
六花はそれを聞き
「助かって良かった」
と呟き久しぶりの我が家の自室に入り机へと向かった。
持ってきたパソコンを立ち上げると指を動かした。
『クローズドサークルの考察』
そう打ちこむとゆっくり文章を綴った。
外では東京とは違った深い闇が広がり、真守や葵や補たちも六月が用意した部屋でゆっくりと眠りについていたのである。