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音を喰らう星の訪問者

作者: ろくさん

聴覚こそが全ての感覚の中心であるウサギ星人、彼らにとって、物を見ることや触ることよりも、音を「味わう」ことが重要だった。そんなウサギ星人が、初めて地球という星を訪れた。彼女は宇宙探査の使命を帯び、地球の文化や生命を調査するために派遣されたのだ。

1、ウサギ星からの使者


ウサギ星人の名前は「エアリィ」。ウサギ星では、聴覚こそが全ての感覚の中心だった。彼らの耳は異常に発達しており、空気を震わせる分子の動きから、遠く宇宙で回転する星々の振動までをも聞き取ることができる。


彼らにとって、物を見ることや触ることよりも、音を「味わう」ことが重要だった。ウサギ星では、奏でる音の美しさこそが料理に匹敵し、人々はその響きを体内に吸収して栄養としていた。


そんなエアリィが、初めて地球という星に訪れた。彼女は宇宙探査の使命を帯び、地球の文化や生命を調査するために派遣されたのだ。


2、異音の星


地球の大気に降り立った瞬間、エアリィは耳を震わせ、息を飲んだ。ここは音のカオスだった。

鳥のさえずり、風のざわめき、車のエンジン音、人々のざわつく声。それらが幾重にも重なり、彼女の感覚を圧倒した。


「なんて野蛮な音の洪水……!」


エアリィは、地球の音がウサギ星の静謐な旋律とはかけ離れていることに驚き、少し後ずさった。だが、次の瞬間、彼女の耳に柔らかく甘い響きが届いた。それは、近くのカフェで流れていたジャズの音楽だった。


「これは……?」


そのリズムに心を奪われた彼女は、カフェに近づき、窓越しに中を覗き込んだ。そこには、コーヒーを片手に談笑する人々と、美しいスイーツの数々が並んでいた。


3、 味覚の衝撃


人間は、どうやら「音」ではなく「物を食べる」ことで栄養を得ているらしい。エアリィはその習慣に興味を持ち、カフェに足を踏み入れた。中に入ると、甘い香りとともに、カウンター越しにケーキが並んでいるのが見えた。


「これが彼らのエネルギー源?」


店員が微笑みながら差し出したケーキを恐る恐る口に運ぶと、エアリィの目は驚きに見開かれた。


「なんて複雑な味なの……!」


甘さと酸味、そしてバターの滑らかさが舌の上で踊るように広がる。エアリィにとって、これほど多彩な「味」を持つ文化は信じられないものだった。ウサギ星には、そもそも味覚という概念がないのだ。


4、 人間の音と味


エアリィはその後も地球を探索し続けた。彼女はすぐに気づいた。人間たちは「音」と「味」を分けて楽しんでいるが、時にその二つが重なり合う瞬間がある。


たとえば、レストランでは食事の音が心地よいリズムを生み出し、クラシック音楽が流れるコンサートホールでは、観客がキャンディをそっと口に含む音さえが一つのハーモニーとなる。


「音と味の両方を持つこの種族は、私たちよりも感覚的に豊かかもしれない。」


そんなふうに思い始めたエアリィは、地球の文化をもっと知りたいと感じた。


5、地球の贈り物


エアリィが地球滞在を終え、ウサギ星へ帰る日が近づいてきた。彼女はカフェで買った小さなケーキを宇宙船に持ち帰り、故郷の仲間たちに披露することにした。


ウサギ星人たちは最初、その「食べ物」という概念に戸惑ったが、一口食べると静かに目を閉じ、驚きの表情を浮かべた。そして言った。


「このケーキから聞こえる音は、まるで小さな宇宙だ。」


音ではなく味覚から生まれる振動を初めて知ったウサギ星人たちは、その新しい感覚に感動し、地球との交流を続けることを決意した。


エピローグ  音と味の共鳴


エアリィの報告によって、地球は「味覚の星」としてウサギ星に知られるようになった。ウサギ星人たちはその後も地球との文化交流を深め、「味」という未知の感覚を探求し続けた。


エアリィはふと思った。地球の人間たちも、音の微細な美しさにもっと気づけば、この広大な宇宙をさらに深く理解できるのではないかと。


「私たちは、味と音でつながっている。」


そう呟きながら、エアリィはまた新しい星へと旅立っていった。


おわり

異星人 まだまだ知らないことばかりである。

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