要請
魔神と会敵し、話を深めていく途端とんでもない要請が入ります。
僕の娘を…ルーシー・アストライオスを捜索・救助してほしい!
告げられた言葉に2人は戸惑った。
捜索・救助をするその意図がわからないのだ。
知りもしない相手の事をどう救助すればいいのかわからないのである。
「それはどういう事ですか?
我々ではなく、貴方の部下に行わせるべきでは?」
そうなんだけどねと言っていたが、遠くバルコニーから外へと向き直り遠くを見ていた。
2人も魔神と同様に視線の先を外へと向ける。
先には日本アルプスを彷彿とさせるような山々が並んでいるがその裾野には霧が発生していた。
「この国の逸話の一つにキリに関する事がある
君たちの国でも起きるような、自然発生する霧とは違う
いつの頃からか、キリの中に魔物とも人とも言えない存在がいる
おまけに魔力を持ち、空間を捻じ曲げてしまう
君たちがここに来たのは、キリが関係しているかもしれない」
「キリ…もしかして、私達が原隊と逸れた理由って」
その可能性も有ると言うように数回ほど首を縦に振り、また山の裾野の方をじっと見つめる。
瑠香が裾野の方を見たが、数分前に見えていたキリはすっきりと消えていた。
不意にキリの向こうに見えた、景色を思い出す。
もうもうと霧の向こうに、甲冑のようなものが擦れる音と共に聞きなれない言語を話し、見るなりに金髪の女性が自分と反方向に歩いていく状況。
長い棒状のようなものを腰に吊り下げ、ふわふわと長いコートのような服を着ている。
そんな姿を口についてだしていたが、それを聞いた瞬間に魔神は顔色を真っ青にさせていた。
「間違いない…それは、娘のルーシーだ
そうか魔力を追っていたが、途中で消えたのはキリに紛れたからなのか」
「貴方の意図がわかりません
仮に我々が助けに行くとして、物的支援が必要です
それに人数も足りませんし、限度がありますよ」
「それも僕の方で準備するから安心してほしい
意図か、詳しくは言いづらいけどキリを動かすには膨大な魔力がいる
その人間か魔物かそれとも別か…
特定を急いでいるんだ
強大な魔力や魔法を使えば敵に悟られるんだ」
「だから我々が必要と?」
苦虫を噛み潰したように眉間に皺を寄せ魔神は重苦しそうに首を縦に振る。
だがそんな姿に忍は激昂しそうになっていた。
煮え切らない態度が大のつくほど忍は嫌いで仕方がない。
虫が良すぎるとばかりに言いたげだが、静止して来たのは瑠香の方だ。
「この国の現状を踏まえて理由はわかりました
魔法というものや、戦闘方法はこの国と私達の国では違います
それと大変失礼ですが、魔神様の話す内容に私も引っかかるものがあります
到底受け入れることはできません」
「そうだと…思うよ
いや思わざるを得ないよ、申し訳なかった」
「と言いたいところですが、私たちも自国に帰りたいです
なんらかの原因が特定できるならば協力させてください
本来、私の所属する自衛隊は国または都道府県…この国でいう統括する長といった決定権を有する方の命令でしか出動できませんが」
「…君もしかして?」
「これより陸上自衛隊は、命令権者である魔神様の要請を受託し対象者ルーシー・アストライオスさんの捜索・救助を行わせていただきます
私も部隊を動かす指揮官系統の階級ではなく、動かされる方の兵隊ですけどねー」
「甘すぎるぞ瑠香!
判断を誤れば俺たちは自滅しかない道を辿りかねん!」
「だけどここで何もしないでいたら話は全然進まないよ
進んでみるのもいいんじゃないかな?
それに困っている人がいたら、助けたいって思うじゃん?」
この娘は!
と口から漏れそうになったが、瑠香の真っ直ぐと来た目を見て悟ったのだ。
忍のみて来た経験と過去と瑠香の見つめる先の突破力と未来の違いを。
何かあった時は俺が守るとそこで踏ん切りがついたのだ。
「左に同じく大日本帝国陸軍…
第一挺進連隊所属、陸軍軍曹の神前忍
陸上自衛隊の意思を汲み取り助立ち致す…でいい?」
「やったね!」
ありがとうと、弱々しい声を出しながらゆっくりと深くお辞儀をする魔神。
大切な娘をキリなる存在によって、誘拐されて困惑し。
かつ挙兵すれば強大なる敵と戦争を起こし得ないからこそ苦肉の決断を強いたのだ。
心中は澱むが如く苦しいのだろうが、2人の姿を見て希望を見出した。
「そうそう、2人には期間中のアテンドと我が娘のルーシーの事を熟知している2人の助っ人を同行させるよ
入っておいで!」
居室の部屋の大扉が開き、2人の女性が顔を覗かせた。
鮮やかなピンク色のロングヘアに深い茶色のロングコートを羽織り白いフリルのついたブラウスに、パステルイエローの膝下までのスカート。
黒い裾広がりのブーツを履き、右手には長い木製のステッキを持つ女性が会釈する。
もう1人はシルバの髪を後ろで一つに括り、黒い革ジャンに薄い緑色のTシャツらしいものにジーンズブルーのようなズボンを履く。
顔つきは人間だが頭頂部には、犬系の耳を彷彿とさせる三角形の何かがひょこひょこと動きズボンからは尻尾が見えていた。
こちらの女性もまた会釈をした。
「紹介しよう
杖を持つ女性はティナ・フェリウス・ウィナー
16ながら多くの魔法に秀でていて、薬学にも精通しているんだ」
「よろしくお願いします」
「もう1人は聖獣族のニコル・ヴォルフガング
詠唱士の中であり、フェンリルの血統に属するんだ」
「初めまして!」
「きっと財前サン達も気に入ってくれると思う」
街の緊急封鎖は解いておいたと聞こえていた。
だが2人の頭は、目の前にいる魔法使いとケモ耳少女の理解に脳がフル稼働している。
到底魔神の話が半分しか伝わらず、同様にティナ達も2人の背格好に理解が追いつかず頭をフル稼働していた。
だがそんな3人は仲良くなれると何も言わずとも理解してしまった。
無論、瑠香とティナそしてニコルのこの3人だ。
そして忍はこの3人が混ぜたら危険だと判断してしまった。
「話はもういいや
みんな紅茶のおかわりとバニラシフォンはいかが?」
「「「お願いします魔神様!」」」
「混ぜるな危険3人組爆誕だな」
「あははは!
僕ねもうさ、嬉しくて涙出るよ!」
その後は城下町で市場が開かれており必要な買い出しはできること。
各街の宿や宿泊料金などの援助と国で負担すること。
諸々の手続きは魔神の方で済ませる事を取り付け、後は女子3人組によるガールズトークが炸裂し、忍は肩身が狭くなっていくのだった。
それは魔神も然りだ。
「あの、今気が付いたんだけど
私達は日本語しかわからないんだけどどうしたらいい?」
「今普通にアルメリア語を話してるよ?
それに7階で戦闘してる時に、翻訳スキル使って君たちとの会話ができるようにしたんだ
問題ないよ!」
「あの金色の札がそうですか!」
「それのことだよ!」
それじゃあ問題ないと忍はカップに口をつけて紅茶を嗜みバニラシフォンを一口食べた。
口の中で解けるシフォンと鼻を抜けるバニラの甘い香りに、口の中をすっきりとさせて優しい余韻を残す紅茶のハーモニーが忍の心を鷲掴んだ。
「俺もこれ作りたい」
救助要請という名のドタバタ冒険譚がここにより始まる。
魔神様の懐深すぎ案件。
そんなことはさておいて、自軍を動かすことに躊躇して娘の救出が不可能と判断し、魔力を持たずとも能力に秀でている瑠香と忍を抜擢したのです。
頼もしい仲間も増えていくのですが、いきなり仲良くなっているみたいですね。
男性2人の肩身は狭いのでしょう。
次回もよろしくお願いします




