決着
しぶといキメラとももうおさらば!
もうお前に用はねぇ!
キメラの咆哮が響き渡り、戦闘終了と思い込んでいた冒険者達が一斉に顔色を悪くなり後退りを始める。
どれだけ攻撃をしても復活をし、何度も勝ちを確信してもそれでも何事もなかったかのように絶望の声が空間を震わせる。
もう無理なんだと錯覚してしまった。
再び逃げ出そうとするもの。
神に祈り、自分の運命が終わると錯覚するもの。
命乞いを始め、引き攣った笑い声を上げるもの。
それを見たキメラが再び立ち上がり血を飛び散らせながらニタリと笑う。
「諦めんのか…あんたら
故郷がめちゃくちゃにされてるやつもいるんだろ?」
その一言に我に帰った冒険者達が、声の主を探そうとガタガタと震える体をなんとか奮い立たせて一斉に見つめる。
片膝をつき、ズタボロになりながらもタバコに火をつけて一息つく忍がいた。
肩に軍刀の峰を数回ほど当てて、気だるさそうに息を吐く。
呑気な姿に見えてムッとする冒険者達が一斉に、暴言を吐こうとする姿を見てか、ギッとキツく睨んで立ち上がり青筋を立ててため息をつく。
「俺の故郷は…大昔、でかい国と戦争をやった
いろんなものを巻き込んで奪って奪われ奪い返し、奪い返され…
気がつけば何もかも収拾つかねぇところまで行った
それでも俺ら兵隊は、自分の何かを守ろうと命が尽きるその時まで恐怖しながら相手を殺してんだ
守りてぇもんが山ほど俺にもあった
だが俺は死に首になった…この意味わかるか?」
しーんと静まり返る空間に響く忍の声。
尚も続く戦闘を傍観するしかない冒険者達の姿に忍の苛立ちは最高潮に達していた。
激しくなる銃声も、連撃で刻む剣技も、突風が吹きるけるような魔法も、全ても包み込む聖なる光も。
その全てが今、目の前にある厄災や業火と言われるものから、我が身を賭して守ろうとする存在達の証明。
だが、冒険者と言われるもの達の弱さ。
他人任せで逃げようとする様。
皇国軍が来るから退避しようと言い出す始末に、とうとう堪忍袋の緒が切れてしまった。
「俺の故郷はなぁ焼け野原になっちまったんだよ!
場所によったら不毛地帯、ありとあらゆるものが形をなくしてしまったんだよ!
俺はそんな光景を見せたくなくて、自ら命をくれてやったんだ!
だが、そんな思いも虚しく消えちまった!
新しい世界がやってきても…遠くで俺はそれを見てやることしかできない…その気持ちがわかるか!
今目の前で、同じことがあの化け物のせいで作り上げられてんだぞ!?」
ざわつきが大きくなり、顔を見合わせ方を落としますます悲観的になっていく。
それでも止まない攻撃に、冒険者達は戦う瑠香達を見て訳もわからずにいた。
キメラの呪いが発動したと同時にすぐにティナとニコルの反転魔法で消失し、再び呪いが生まれ、そのたびにアリシアの結界が皆を守り、マッスル五剣やマリウスの高速剣戟に沈み、呪いを含んだ炎が上がるたびにセドと瑠香の銃撃によって空気が弾かれ消えていく。
そんな光景をただ食い入るようにしか見れないでいる。
「アリシアやマリウス、ティナやニコルはこの国の生まれ
大事な故郷を守るのに必死だろ?
だがこの国に、縁もゆかりもない俺や瑠香が血眼なって闘ってんだぞ!
セドさんや筋肉5人は、この国のこの街の生まれ…
大事なもんがそれぞれ蹂躙されてんのに、テメェらそれでいいのか!?
どうなんだぁぁぁぁ!!!」」
忍の声が響き渡ると同時に1人、また1人と駆け出してキメラに攻撃を、仕掛けていく!
どんなに小さなことでも良い。
どんなに弱い攻撃でも良い。
でもこの生まれた場所だけは、育ててくれたこの故郷には傷つけられたくない!!
一人一人の勇気が形になって力となってキメラに食らいついた!
「遅ぇんだよ気がつくのがなぁ
まぁいいぜ、俺も久しぶりに挺進魂が熱くなりすぎてる
俺も久しぶりにもっと本気出すかぁあ!」
一斉に走り出す冒険者達の中に混じって忍も駆け出して、軍刀を構えなおも抵抗して暴れるキメラの目に向かって舞い上がり、一閃をお見舞いする!
片目を潰されたことで叫ぶキメラに冒険者達の魔法や剣戟が浴びせられ、飛び上がって攻撃することは愚かただただ叫ぶしかできない!
冒険者達の勇気に驚いた瑠香がニコリと笑って、再度体の中にある力を込め始める!
「わかったわ!
瑠香お姉ぇが本気なら
ティナ・フェリウス・ウィナーは本気になってあげる!
魔力解放(マナゲートオープン!)」
「2人が本気出すってことなら
私も色々サービスしないとね!
ニコル・ヴォルフガングの中に在す風の神の力
詠唱魔法…神狼風牙」
高出力の魔力が空気の層に摩擦を生み、キィィと高音域を生み出し、次いで衝撃波が当たりを包み込む。
ティナが杖を構え、深呼吸を複数回繰り返して杖の先端に魔力の集合体が球体を生み出しやがて小さなヤジリを生み出す。
それに合わせるように、爪が伸びてより狼に近い状態のニコルがクラウチングスタートを決めるように、足に力を蓄え身体中に魔力を行き渡らせる。
2人の力に反応してアリシアはニヤリと笑い、小さな金属をポケットから取り出し空に向けて放り投げる。
「みんなが本気になるから、俺ももっと強めに行くよ
過負荷加速魔法式」
バーストという声がキメラの耳に届いた。
その瞬間目の前にマリウスが飛び込み頸動脈に狙いを定めて縦一閃に攻撃をくらいに避けようと体をくねらせるが、無駄足だった。
天に巨大な魔法陣が現れ、伸びる鎖が鎖がキメラを拘束しギリギリと音を立てて潰しにかかる!
逃げることもできず、再度呪いを溜めようとするが再度天を仰げば風を纏ってニコルが牙を剥き振り下ろされた爪が巨大な狼の手となってキメラの左目をつぶす!
「もう負けを認めて
アリシアの沈めの鎖も、ニコルの風狼の爪もあんたを捉えた
そして私の星も捉えて喰らうわ
空走る冷たき風の箒星」
構えた杖から飛び出した魔力が小さく枝分かれてソニックブームを起こしながらキメラの身体に突き刺さり、さらに跳ね回る!
追い込みをかける4人にあやかって誰かが放った雷球がティナの魔法と跳ね返り、さらなるダメージを与え続ける。
『おのれ…おのれぇぇぇえ!!』
「装填完了、次弾装填用意よし
忍さん、力を貸してほしい!」
「可愛い娘のためだ力を貸してあげよう!
行くぞ我が娘!」
「「雷撃演舞双…夜戦特科精密射撃
…義烈ぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
2人の体を覆うように蓄えられた雷撃を力強く振り投げれば巨大な雷の槍となってキメラを飲み込む。
あっと声を漏らしたキメラが2人を見た時には、目の前に鋭利な槍が飛び込んでおり、轟音を立てて全てを破壊し尽くす。
衝撃波とえぐれた地面が出現し、頭の上に雷が落ちるような激しい雷鳴が鳴り響き激しく空気を揺らす。
「…やっちまったのかい
なんてこった…キメラが消えやがった」
一瞬の静寂が全てを包み込み、セドの声が響くとダンジョンごとキメラは黒い粒となって空にふわふわと漂い、やがて消えていった。
代わりに聞こえてきたのは冒険者達の感性と、全ての事象が完結したことによって平和が戻ってくると喜ぶマッスル5剣達の啜り泣く声。
ふらふらになって倒れるアリシアをお姫様抱っこをして、助けるマリウスの姿に安心してへたり込むティナと寝転がるニコル。
「終わった…ようやく」
「終わったね…ダンジョンごと無くなったけど」
「「っふふふふ」」
2人の掠れた笑い声がこだまし、救護で後方支援をしていたウルムがふわふわと浮いて2人に回復薬を手渡す。
皆が浮かれる中、瑠香の肩を借りて忍がキメラの残骸の元に歩み寄った。
顔をしかめる瑠香に見ないでいいと、呟いて再度キメラを見下ろす。
「俺たちの勝ちだ、認めろくそ鳥
首半分になって消えかけてるところ悪いが
聞きたいことが山ほどある」
『お前…ごとき…いくらでも
悔しい…悔しい!!
女狐にバカされ、お前達にもバカにされ
我が王の復活を阻まれるなど!」
「じゃあ聞くが、テメェの言う女狐って誰だ
我が王って言うのはなんのことだ?」
『おのれ、ラミアーナ!
おのれエストラゴ!
この雪辱いずれ返させてもらう!
我が王が復活すれば、お前達は…全て消え去ってくれよう!」
「そうかよ、わかった
じゃあてめぇを楽にしてやるから
これ…南部の鉛玉食いやがれ」
ズドンと言う音と共に、首半分のキメラも砂のように空へと消えていった。
だがそこに残ったのは、見慣れない紋章と紋章の書かれた正方形状の30センチくらいの木札のみだった。
エストラゴという言葉を聞いて、忍と瑠香目を合わせる。
ルーシー・アストライオスを誘拐しようとした、真犯人の正体というものに近づいていることを。
キメラを倒し切りました。
逃げたり、現実を受け止め終わりを悟る冒険者達に、忍は過去の自分の経緯と故郷が蹂躙される恐怖を叩きつけ、鼓舞し立ち治させました。
本気になった冒険者達を見てさらに本気になる、チーム実はチートな人たち。
ティナの攻撃魔法とニコルの半獣化待ったなしな詠唱魔法。
アリシアの聖女パワーとマリウスの剣戟が重なり続け、最後に瑠香と忍の親子雷撃が発動し、迷宮ごと吹っ飛ばしました。
鎮静化されたみたいですが、真犯人の姿が出てきました。
敵国であるエストラゴにいるラミアーナです。
次回も楽しみに




