入国したけど泊まる場所がありません!
収拾つかない時って無理やり拾うと余計に拗れるよね。
だったらそのまま放置する方がかえって幸せなんだと思うんだ。
じゃないとどうにもできないよね
byニコル・ヴォルフガング
全ての剣や弓はこの地で作られると豪語される国。
それが鍛治府である。
由来となる神や聖人がいたという伝承はないが、それに近い刀匠や鍛治を生業とする集団が派生して今日に至るという。
その最初の集団に多くの勇者や騎士達が敬意を表し、鍛治力夫と祭り上げ、転じて鍛治府となったのだ。
「すごいなぁ
街の至る所で武器や防具を販売しているんだなぁ」
「全ての武器達はここで生まれると言われるくらい
武器の生成については抜きん出ているんだよ
父上」
「我が息子マリウスよ
よくぞ説明してくれた」
「いつからこの2人親子になったの?」
「わがんねぇべさ」
「なんだそりゃ」
古くからの文献や歴史に感銘を受けている忍とマリウスの擬似親子モードが発動し、眉をひそめるアリシアと諦めの境地に立つ瑠香。
それを遠くから見つめるティナとニコル。
用事を済ませて帰ってきたウルムがポカンと口を開けて、状況がうまく飲み込めずにいた。
「みんな何してるっちぃ
組合の場所がわかったから早く行こう」
「「「「「「うっす」」」」」」
組合に向かう途中、鍛治府のメインストリートであるガリウス街の立て看板には緊急任務と書かれた張り紙が大々的に貼られており往来する人々は誰も彼も冒険者ばかりだ。
「緊急任務ってなんのことだろ?
それに冒険者の数が多いような気がするなぁ」
「確かに前に来たときよりすごい数だよね」
ティナやニコルが以前来た時と今の街の雰囲気の違いに驚きつつも、緊急任務の内容が関係しているのだと気がつきなんとなくの理由を察したのだ。
そして訝しげにマリウスが2人を見たが、あっと声を漏らして何かを理解したかのように往来する冒険者の顔を見た。
「すごい混み具合
組合っていつもこうだっけ?」
「「「「絶対違う」」」」
瑠香や忍が口をぽかんと開けて組合に到着した頃、入り口だけではなく建物の外に簡易テントが建てられ冒険者パーティと思わしき長蛇の列が出来上がっていた。
冒険者パーティが口々に言い合う緊急任務に躍起になっていて他のことが見えていないのだろう。
そんな冒険者パーティの対応に迫られるように、受付嬢達もてんてこ舞いになっているのだ。
「なんかすげぇ事になってやがんな」
「あんたらか!
魔神様から色々と聞いてるからとりあえずこっちに来い
詳しくはその後だ」
「「「「「「おん?」」」」」」」
「名乗り忘れていたな
俺はセド・ガリウス
教会組合長をやらせてもらってんだ
とりあえず来いよ」
恰幅いいが、背丈は155センチほど。
髭を蓄え革製のズボンと誰と戦おうとしているのかわからないが、鉄兜と年季の入った鎧を纏う。
ニコルが耳打ちで、ドワーフという種族だと教えてもらい
瑠香や忍はオドと声を漏らす。
「これも言い忘れていた
俺は森人だ…まぁアルメリア人からしたら珍しくも何ともないだろうけど
異邦人からしたら珍しいわな」
協会組合長直々に案内され、着いたのはこの建物の1番奥にある大部屋。
扉につけられた特製の看板には組合長
と書かれておりいかにもという雰囲気だ。
部屋の中に通され、ソファに座るように案内されると困ったように頭を抱え始めた。
「いや悪いねぇ
皇女様の事は俺も聞いているから、手伝ってやりたいけどそうも行かなくなってなぁ
捜索隊が来たら、助けてあげてほしいと仰せつかっているがタイミング悪くなぁ」
部屋の外から協会組合長が景色を見る。
つられるように外の景色を全員が見た。
特に何の変哲もないように見えるが、明らかに何かがうごめいているように見えた。
アルメリア皇国の中で霊峰であり高山帯の最高峰と言われるタリタウス山が雲って見えている事に、マリウスは首を傾げた。
「マリウス・ルベルト副団長さんは察しがいいなぁ
最近、この近くで新しい洞窟が見つかって、調査隊を派遣したらそいつは迷宮だってのがわかった」
「「「「ほほーぅ」」」」
(ねぇ瑠香、だんじょんって何?)
(お宝と化け物がわんさか出てくる洞窟)
(ほほーぅ)
セドがいうにはこうだ。
この街というよりかはアルメリア皇国は時より、迷宮が出現する。
大きさはそれぞれ違うが、発掘すれば必ずお宝が手に入る。
一攫千金を狙って冒険者達が腕試しを兼ね、その国に集結し見事お宝ゲットなどもあれば、何もなく終わる事もある。
だが、今回の迷宮は鍛治府が建国されてから、史上最大級の規模と謎が眠っているのだという。
「噂を聞きつけた冒険者どもがこの街にドカンとやってきた
それはいいんだが、一気に治安が悪くなってなぁ
悪いんだがこれは俺からの、変わり種任務だ
俺の選んだマッスル達と一緒に街を警備してほしい」
部屋の扉からどごどごと音を立てて屈強な男達が五人ほど入ってきた。
姿格好は古代ローマのスパルタのような出立ちで、鼻息荒げ「オス」を体現していた。
1人は人間、1人は成人男性の平均的な身長のオーガ。
1人はこれまた成人男性の平均的な身長の犬系獣種。
1人は身長が2メートルほどの竜種。
最後にこの4人よりもムッキムキなエルフだ。
「みんな…挨拶してあげて…」
「おっす!
俺はエドガー、人間だ
好きな筋肉は大胸筋」
「俺はオーガのボリス
好きな筋肉は三頭筋
おっす!」
「俺はビーストのライド
好きな筋肉は中臀筋と負荷
おっす!!」
「俺はワイルドドラゴンのゴードン
好きな筋肉は腹斜金とダンベル
おっす!!!」
「わしはエルフのネロ!
好きな筋肉はハムストリングスと広背筋!!!
筋肉は裏切らん!!
おっす!!!」
この人達だけでいいじゃねぇかよぉぉぉお!!!!
ティナが叫んだ時、セドは肩を窄ませ何かを察したウルムは遠くの景色を見る。
マリウスも忍も明後日の方向を見て頭を抱え始めた。
瑠香は見慣れているからか、頭の中で習志野駐屯地で見るムキムキマッチョ野郎共を思い出す。
だがアリシアだけは違った。
「ふへへへへへ筋肉だ…
マリウスと違って漢の筋肉だ
へっへっへっへ!!!」
「後で忍の筋肉も見る?」
「いただきまぁす
ゲヘヘへへへへへへ」
「お…お父さんも脱がないといけないの!?」
忍がいそいそと上着を脱ぎ、準備を始めるのをよそに
セドがモジモジとごめんなさいと顔を赤くしながら小さくなっていく。
漢達は新鮮な感情を見た事で豪快に笑い合ったかと思えば
それぞれ筋肉を示すのようにそれぞれポージングを決める。
アリシアの目が輝き、興奮するごとに漢達のポージングが変わっていく。
「申し訳ないんだが、報酬は金額100枚と宿代無料と言いたいんだが出来ないんだ
どこもかしこも冒険者どもが宿を取って行ったからなぁ
宿泊場所がないんだよ…
悪いが一等級の野営地を用意したからそこでキャンプしてくれないか…」
その瞬間、漢達も瑠香達も体が硬直しセドを凝視する。
肩をさらに窄ませ、小さくなるセドを見て全員は目を合わせて確信した。
いつもならこの五人でどうにかなったが、人の流入量がキャパを超えて制御できなくなっていたのだと。
それに気がついた忍が勢いよく立ち上がり、顔をしかめて肩を振るわせる。
「悪さした奴全員、営倉につっこんでやんよぉ
軍規違反した奴はまとめて処罰の対象に」
「キャァァァァァァァ!!!
忍の筋肉も素敵ぃぃいぃ!!
もう死ねる、アリシア・ヴェロナー今日で死ねる!
永眠…」
「忍よぉ、俺のアリシアが永眠しちまったじゃねぇかよ!!
…あんたらもポージングしてねぇで止めろや!」
そこからは終始漢達と忍のポージング対決が始まった。
セドがアリシアにごめんなさいと言い続けて何もできなくなり、とりあえず契約書の締結をして終わらせようとする。
永眠するアリシアの介抱をウルムに任せ、ティナが水の精霊ウンディーネを呼び出し、忍と漢達の頭の上に大雨を降らせようと魔法をかけようとしていた。
「入国したけど泊まるところがありませんって話だったのに
何これ?
どういう事これ…もうわけわかんない!」
ニコルが涙を流して別の意味で永眠し、倒れた拍子に瑠香が庇ったが息をしていない事に気がつき、人工呼吸を始める。
それを部屋に置かれた魔法水晶を介して、中央府で仕事がてら実は心配性の魔神アルバスが見ていた事は口が裂けても言えない。
「レイラさんに言おう
みんなの事、助けてあげてって」
「あら…アルバスさん、呼びました?」
「ゔゎぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
ニコルが最後まで頭がいなくなる話でした。
迷宮が生まれる事はたまにあるらしいですが、大規模になると話が変わってくるようです。
冒険者達はこぞって一攫千金を狙って訪れるようですが街の治安がだいぶ悪くなってしまったようです。
漢達の正体は鍛治府を守る警備兵達です。
他にも筋肉だるまがうじゃうじゃいます。
アリシアもおかしな意味でにっこりしてしまいましたね。
最後は忍が殺したも同然ですが、そんなのしらねぇと契約手続きをした瑠香を褒めてあげてください。
マリウスはまだまだ許してくれませんが
次回も楽しみに




