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別れの刻、でもその前に

ルーシーと他愛もない休日です。

最後の日本旅行になります




「ルーシーさん…練馬からいなくなるんだってなぁ」


「帰り方もわからないのにどうやって帰るつもりだ?」


「そう言えば…まだあいつは見つかってないらしいな」


「田中さんちの瑠香だろう?

あいつ早く帰ってこないと処分が」


「それ以前に…親父さんが発狂してんのになぁ」




「「「「どうにかしてくれェェェェェ!!!」」」」



「ちょっと男子!!

叫んでるんじゃないよ!!」



「yes ma’am!!」








休日の練馬駐屯地。

多くの隊員が休みを謳歌しようと東京の街へと繰り出す。

ルーシもそのうちの1人。

仮の身分証をもらい、外出申請を終えて前に池袋で買ったジーンズと長袖のTシャツ。

そして天城のお古のライダーウェアとヘルメットを持って外のコンビニへと歩いていた。



(私に会いたい人がいるって言っていたけど…)




ルーシーが目を覚ました次の日。

そろそろアルメリアに帰ると聞いた財前修が、オネェ自衛官こと沖田宛にルーシーに言伝を頼んだと言う。






『ルーシーちゃん

瑠香のお兄ちゃんの修君がルーシーちゃんに合わせたい人がいるから会ってくれないかだって

今度の休日によかったら会ってもらえないかしら?』


『もちろん構いませんよ

合わせたい人って誰でしょう?』


『もしかしたら…なんでもないわ』





含みのある何か詰まったような言葉に違和感を覚えていた。

待ち合わせにしていたされたコンビニへ向かうと、そこにはジーンズにライダージャケットを着こなした天城と村上が手を振ってルーシーを、迎えていた。



「おはようルーシーさん

今日は来てくれてありがとう」


「いえ、呼んでもらえて嬉しいです!

雪菜さんと千春さんもお呼ばれされたのですか?」


「そうだよ!

雪菜と私も呼ばれたの

あと三人来るから待っていてね

それよりどのバイクに乗りたい?」




駐車場に2台のバイクが並べられて置いてあった。

ボディにYAMA⚪︎⚪︎と書かれたバイクともう一台はHON⚪︎⚪︎と書かれていて、中型のネイキッドと呼ばれる車種という軽い説明はなされた。



「いかついのが来たわ〜

1人おかしいのが来たわ」


「いつものことだから仕方がないよ」



なんのことだろうと気になったルーシーが、駐車場に進入してきた3台のバイクに目を向ける。

エンジンを止めて、ヘルメットを脱いだ時に素顔が判別できた。

1人は財前修であり、1人はこの前出会った女性警察官の真田。

そしてもう1人は確か花岡と名乗っていた警察官はずだが何かがおかしい。





「おはようございます

ルーシーさん、俺が合わせたかったのはこの2人です

もうすぐ母国に帰るって聞いて、最後にもう一度会いたいって言い出したんです」


「忙しいのにごめんなさい

私もいきなりは失礼だと思っていたんですけど

どうしても母国に帰る前に会いたくなって

…康介さん、なんか言いたいことあるんやろ?」


「どうも鈴菌歴30年

実年齢イコール鈴菌の男です」



「あの…えっと」



「もうええわ

康介なんてほっといて海行くで!」





花岡以外の全員の心に冷たい突風が吹き抜いていったのをルーシーはいたたまれない気持ちで見ていた。

隣に立つ村上や天城はルーシーの肩に手を置いて、乾いた笑みを浮かべた。

気を取り直して真田や財前の乗ってきたバイクに目を向けると2台ともKawasa⚪︎⚪︎nin⚪︎と書かれたスポーツバイクである。

真田は1000ccクラスのスポーツツアラーと説明を軽く受け、財前は600ccクラスのスーパースポーツと説明を軽く受ける。





「かっこいいですねぇ

アルメリアでも流行らせたいなぁ」


「スズ⚪︎はかっこいいよね!

ほら見ろ、HON⚪︎⚪︎やYAMA⚪︎⚪︎やKawa⚪︎⚪︎よりもスズ⚪︎…あれ?!

みんなどこにいった!!??」





頭のおかしくなった花岡を置いて、五人はバイクに跨り首都高を抜けてお台場方面へと走らせていく。

東京駅や渋谷に池袋や練馬は攻めたがベイエリアは攻めていなかったルーシーに4人とアタオカはどうしても連れて行きたかったのだという。



「本当に康介さんの変な茶番に付き合わせてごめんな

後であいつしばき倒しとくから堪忍してや

次のサービスエリアで茶でもしばこな」


『姉さん…

ルーシーさん、大阪弁についていけてないですよ』


「ほんまかいな…ごめんやで!!」





通信機器から流れる大阪弁という言葉に、練馬で聞く日本語のフレーズの違いをくっくっと笑って慣れて行こうとする。

その様子をハンドルを握りながらつられて笑いそうになる天城に財前もふふっと笑ってアクセルを軽く蒸す。

道路の標識を見てそろそろかと村上が口を開いた。



「ルーシーちゃん、もう直ぐレインボーブリッジだよ

前に見たあの映画の場所だよ!!」


「あの映画の!?!?」


「せやで、私たちはこれを見せたくて、ルーシーさんが帰らんように田中1佐さんに頼んでたんや

封鎖できへんけど…海と景色は極上のレインボーブリッジ通過や!」


「懐かしい映画だよねー

振り落とされないように気をつけてね!」



4人がアクセルを回し、レインボーブリッジを渡り横浜方面へと加速させていく。

振り落とされないようにしっかりと村上の背に体を少し預け腰に手を回すルーシー。

目を開ければ確かにそこに、あの俳優が無線機であの言葉を叫んでいた景色を見て驚きの声を漏らす。



『ルーシーさん、言って見たら?

噂じゃ声真似ができるらしいじゃん

やっちゃえやっちゃえ!!』







レインボーブリッジ封鎖できませーん!!!!








ヤッタァという声と共に4人は千葉方面へと駆け抜けていく。

途中で折り返し再度レインボーブリッジを通過して、次の目的地である築地市場の近辺にある天ぷら蕎麦を食べに向かう。

ラーメンツーリングならぬ蕎麦ツーリングが二つ目の目的だった。

昼頃に目的の店である蕎麦屋「築前(つきまえ)」に到着し、店の外にある駐車場に入庫させようとした時だ。

見慣れたバイクが置かれてあり、何かを思い出したかのようにルーシー以外は違う場所に行こうと無線で言い合う。




(もう遅いと思うけど、言ったほうがいいかなぁ?)




店の前で仁王立ちしていた花岡康介が、明らかにこっちを凝視してお前ら許さねぇからなと睨みを利かせ前もって聞いていた初老の店主が五人を指さして腹を抱えて笑い始めた。



「降りろよ全員、大将には悪いけど

ルーシーさん以外もうみんな処刑だからな?

特に修三郎は念入りに処刑」



「「「「…っすぅ」」」」


「本当にごめんなさい」


「ルーシーさんは悪くないんだよ?

気にすることじゃないからね

残りはちげぇからな!

俺とルーシーさんの天ぷら蕎麦奢れよ?」



店に入るや否や花岡の私的制裁(うらみぶし)が炸裂し、ルーシー以外の全員が目を合わせようともせず、どこ吹く風を吹き曝す。

女将が笑いながら天ぷら蕎麦を持ってきてようやく解放された。



「エビがぷりぷりでおっきくてうまぁ甘ぁい

蕎麦はツルツルで香りが抜けてお汁とマッチしてうまぁい

かぼちゃ天ぷら甘くてサクサクでうまぁ!!

ずっと日本にいる!!

地元帰らなくていいや!」


「「「「「日本国籍取得する?」」」」」



「うんする!」



「「「「「(わたし)と契約して警察官(じえいかん)に」」」」」




と言った瞬間、謎の火花が散り始める。

そばをいただくどころじゃない五人を尻目に、無心に蕎麦を頬張るアルメリア皇国を捨てそうになる皇女ルーシー・アストライオス。

アルメリアで食べられる蕎麦は、蕎麦粉にした後に水と混ぜ合わせて薄く生地にしてクレープに近しい状態にして食べるのが主流。

いわゆるガレットの親戚のようなもの。

麺にする文化がないが故に、蕎麦という食べ物に舌鼓を打つ。




「噛めば噛むほどそばの味が口いっぱいに広がって、お汁を飲んで鰹のいい味とマッチしてお腹に広がっていく。

サクサクの天ぷらとお出汁もお互いを消すのじゃなくて、包み込み合う

…天ぷら蕎麦美味しいぃぃ!

最高ですねみなさん…え!!?!?」




先ほどまでどんぶりの中にあった絶品天ぷら蕎麦は跡形もなく消え去り、禍々しい気が店の中を包み込んでいた。

代わりに目の前にいたのは、唸り声をあげ今にも牙を向けて噛みつこうとする巨大な狼が2匹、相対するは鋭い爪を持ち巨大な体躯をブルリと震わせた若いヒグマが1匹と首の下に白いラインが入る2匹のクマ。

かつて上野動物園で見た生き物のような巨大な何かがそこにいた。



「「「「「今日という今日は決着つけるぞ!!

お台場海浜公園でタイマンだ!!」」」」」





ここで思い出してしまった。

花岡の違和感の正体を。

彼もまたスズ⚪︎の1000ccスポーツツアラーというのになっているが、なぜか灰色のかっこいいボディを台無しにするかのように光沢が消え失せタンクに梵字ステッカーが貼られ当の本人も近寄りがたい何か訳のわからない物を背負っている。

具現化できない恐怖そのものと、そんな物関係ないと叫ぶ人間のデスマッチの見届け人になろうとしていたことに気がついてしまったがもう遅い。





「あれ…私さっきまで蕎麦食べてたのに

今は海にいる…しかもレインボーブリッジがよく見える

今から何が」



「「いざ尋常に勝負…勝負!!」」



負けられない自衛官と警察官の男2人による、きったない相撲が幕を開けた。

背中がついたとか転がされたではなく体力が無くなったほうが負けという馬鹿らしい闘いが繰り広げられている。

審判は村上、副審は天城というなんとも言えないような。

結局何がしたいのかわからない説明しがたい戦闘を見させられているのだ。



「ごめんなさいルーシーさん

男ってねいつもあぁなのよ、どうしようもないの」


「恵子お姉さん

大丈夫です…経験済みです」


「気が済むまで遊ばせてあげて

…ここからが本音

入れ替わりで貴方がきたと聞いて正直驚いたの

友達がいなくなって私…寂しくて

命の恩人がいなくなったと思ったから」


「え?」



3年ほど前警察官になって少し経った時に事件が起きた。

練馬でルーシーが見た化け物が、本当に東京で暴れていた時市民を逃がそうと必死になっていたところを襲われそうになった真田。

それを助けたのが村上や天城率いる第一普通科連隊。

そして装甲車に乗って盾になり、機関銃で応戦したのがなんと瑠香なのだという。



「あの時助けて貰えなかったら康介さんにも会えなかった

康介さんも修くんに助けてもらったの」


「そんなことが」


「お礼がしたいって言ったら友達になってって言われたんや

せっかく友達になったのに、どこかに行くし

入れ替わり立ち替わりで現れたルーシーさんに

私たちは実は助けられたの

あの日、私たちが声をかけてもらわなかったら

私たちは事故に巻き込まれてた」


「嘘…でしょ?」


「本当だよ

さよならって別れた後に仕事に戻ろうとしたら

大型ダンプカーが歩道に突っ込んできてね

危うく私も康介さんも轢き殺されてた

運転手を助け出そうとしたらいなかったから…

まだ捜査中なんだけど

助けてくれて…私と康介さんの命を守ってくれてありがとう

ルーシー・アストライオスさん」



昼休みに見たニュースで確かに車が歩道に突っ込んで大破しているニュースをたまたま見ていた。

近くに警察官2人がいたとも言っていたのは、この事件のことだったのかと記憶が呼び起こされ、誰かの命を知らずうちに救い出していたことに涙を浮かべていた。




「お礼がしたかったけどすぐに帰ってしまうのでしょ?

貴方の生まれた国はアルメリア皇国

そんな国を調べてもヒットしない

もしかしたら違う次元の、私たちの知り得ない場所なのかもしれない

なら…お願い

例え、2度と会えなかったとしても私達と友達になってくれへん?」



「もちろん…恵子さんも…花岡兄貴も

修さんだけじゃないこの数週間で出会えた全て

私にとってかけがえのない友人です

…もっと早くに皆さんに会いたかった」




ルーシーの目に大粒の涙が溢れ、つられて真田も鳴き始め

審判をしていた村上や天城がそっと抱きしめるようにルーシーの涙を包み込む。

だが男2人はいまだに死闘を繰り広げていた。

うぉぉぉとも、がぉぉぉともなんとも言えない叫び声がお台場海浜公園に響き渡りしんみりした空気が一瞬にして吹き飛び、感動のシーンが明後日の方向に飛んでいった。




「あんたらええ加減せぇや!

何歳やと思ってんねん

大概にせぇって何回言ったらわかんねん!!

子供ちゃうねんやろ

しばき倒しちゃるわぁぁぁ!」




真田のドキツイ大阪泉州弁が虚空の空に響き、アルメリア皇国に帰ることを躊躇していたあの気持ちが別の意味ですり減っていく。

おかんからの説教で2人のいい歳であろう男2人が正座されている様を陸自女子三人はただ虚空の空を見つめながら悟りを開くしかなかった。




「私の気持ちと天ぷら蕎麦返せ」


「「それは説教したほうがいい」」

ルーシーは初めてバイクに乗り、初めの首都高を経験。

初めてガレット以外での蕎麦の食べ方を知り、天ぷらに舌鼓を打っていたはずが大人のきったない喧嘩のせいで全てが崩れました。

それは真田も一緒です。

東京駅付近で初めて出会い仲良くなった後、真田と花岡は無人ダンプカーに轢き⚪︎されてかけたのです。

その未来を壊したのがルーシーです。

そして3年ほど前にバケモノから2人を助けたのも財前兄弟なのです。

何かの因果で出会った2人に真田や花岡は親近感というよりももっと違う縁を感じたのでしょう。

お礼の代わりに友達になりたいという切ない願いが叶ったのですが男たち2人が邪魔をしました。


「「すいませんでした」」


次回はルーシーが東京を練馬を日本を離れます


よろしくお願いします

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