皇女の顕現
ルーシーがなぜ皇女としての力を持っているのか。その一部に触れるお話です。
「ここにきて3週間経ってた…
ようやく色々とわかるようになってきたなぁ」
「今日はレンジャー塔の整備だってぇ
ルーシーパイセン、行きますかぁ!」
「行きますかぁ、雪菜パイセン!」
この日もリアカーに草刈り機を6台と、草刈りに入れるガソリンタンクに油脂を乗せてレンジャー塔に向けて歩いていく。
2人で取っ手を持ち、後ろから佐藤が押して歩く。
「もう、慣れてきたでしょ!
ルーシーさんもどこからどう見て連隊の人とみんな錯覚してるよ!」
「だいぶ慣れてきました!
練馬の方達に恵まれました
でも…」
微かにレンジャー塔の方向から友人達の魔力が風に運ばれて微かだが感じ取っていた。
魔力が異世界に流れてくることがあるのかと首を傾げて考え込む。
父親である魔神アルバスからは、どんな魔法を使っても同じ皇国内でも感じ取ることはほとんどないという。
(やっぱり時空が歪んでいるの?
キリを消せば歪みの原因は解消される
でも2度とこの人たちとは会えなくなる)
「やっぱり帰りたいよね
誰でもそうだよ
どれほどその場所が良かったとしても、生まれ育った故郷から離れられないもの」
確かに時空の歪みの影響で異世界にやってきてしまったルーシー。
練馬での生活は悪くないとは思いながらも、郷里に住む父や兄を思い出し、夜中にふと涙を流してしまう。
家族だけではない。
自分の身を心配して探している友人や、混乱する臣民達になんと声をかけていいかわからないでもいた。
(お父様やお兄様はきっと心配してくださっている
それにティナやニコルは大丈夫かなぁ?
アリシアやルベルトさんもきっと…)
家族のもとに帰りたいと思う反面、練馬の人たちともう会えないのではないか。
迷い込んでしまった自分自身を助けてくれた恩人達に、まだ何もお礼ができていない。
寂しいや離れたくないと、そんな気持ちにもなる。
それを繰り返して堂々巡りをしているのだ。
(誰か助けて!!!)
「今誰か…?」
村上や佐藤は楽しげに会話をしながらリアカーを押している。
周りを歩く人間ですら特に普段と何も変わらず、日常を謳歌しているのだ。
だが助けを求める声に胸騒ぎを覚えていた。
「誰かが助けを呼んでる
いかなきゃ」
「「ルーシーさん?!」」
リアカーを置いてルーシーは弾け飛ぶかの如く駆け出した!
誰かわからない。
顔も知らない誰かが、理由は分からずとも助けを求め叫んでいた。
声は断続的に聞こえてくる。
練馬駐屯地という広大な敷地に落ちた刺繍針を探すようなものだ。
「ここじゃない…食堂でもない…どこ
どこ…嘘でしょ…ここは!」
目の前には鉄塔と鉄塔の上には踊り場のような場所がついた施設がある。
練馬駐屯地に存在するレンジャー塔がそびえ立っていた。
ルーシー達が整備するように言われて、リアカーを引っ張って向かっていた目的地だ。
「どうなってんだよ!
なんでお前、宙に浮いてるんだ!」
「わかりません
いだだだだだいぎゃぁぁ!!」
レンジャー塔の鉄塔と鉄塔の間に、ワイヤーが張られておりそこで訓練をすると財前に事前に聞いていた。
バランスを崩して宙吊りになることはよくあることだが、今目の前に広がっている光景は教育を受けている隊員が宙に浮いていた。
「…まさかこの感じ」
隊員達が見上げて殺気立てているが、宙に浮く隊員の足を掴んでいるのは黒く丸い煙のようなもの。
正式名称がないために、古くから「魔」と呼ばれアルメリアで古くから伝わる霧の中に住む化け物の下級族。
タチが悪いのは、捕まえた人間の心の闇を見透かして投影する。
「あの人たちが見ているのは何?
仕方がない
発動、審判心眼!!」
ルーシーの目が一瞬星の瞬きのように輝き、彼らの心を見通す。
彼らが見ていたのは、強化された人間の体に方からは無理やりでもつけられたかのような巨大な羽を羽ばたかせ空を飛ぶ首のない化け物が飛んでいる光景だ。
「何…こんな怪物が日本にはいるの?」
「ルーシーさん怪我はない?
こいつは…まさか翼者?!
生き残っていたのか…甚大な被害が出る前にここで始末するぞ!」
騒ぎを聞きつけた村上達が武装して銃を持って走ってきており、大型車両がレンジャー塔へ向かっているのだという。
ルーシーを逃がそうと、佐藤が案内しようとするが審判心眼は砂糖や村上が見ている景色を投影していた。
化け物などいないはずなのに、彼らにも化け物が映っている。
存在しない敵に対して殺気と恐怖を纏わせて、武器を持って応戦しようとしていた。
(このままじゃダメ!
あれの…魔の思う壺!
でもみんな正気じゃない
私がやるしかない…魔法を使って倒す!)
「早く逃げろ…ルーシー!」
佐藤に背中を押され、今にも戦闘が始まるのだと誰もが直感した瞬間だった。
ルーシーの体から淡い光が溢れて、その情景に全員の視線が集まり始めていた。
キミ悪がられても構わないと、ルーシーはふわりと舞い上がり右手を伸ばして小さく何かを唱えた。
「ルーシーさん…まさかあなた、魔法を?」
「何寝ぼけたこと言ってるんだ天城!
あれは魔法じゃない!
…多分」
「だってルーシーさんの右手、さっきまで持ってなかったのに剣を持ってますよ!」
「救済者なのかもなぁ
あの子は救済を行う執行者なのかも知れぬ」
「「田中連隊長!!」」
「よく見ておやりなさい
長く生きていてこんなことは見れぬ」
「我が神名を持って闇を消し去る
我が聖剣よ、汝の力を持って魔を打ち倒し
この場にいる優しき自衛官達の闇を祓え!
春風神剣波!!」
たった一度の一閃が、たった一つの魔法が全てを包み込み闇と魔を消し去った。
轟音と共に目も開けられないほど、強烈な光が当たりを包み込んだかと思えば、体を引き裂かれんばかりの衝撃波が飲み込んで行った。
「なんということだ
敵は…跡形もなく消えたというのか?」
応戦しようと集まっていた自衛官達が、衝撃がやんだと同時に目を開けると何も変わりのないレンジャー塔が広がり
落ち着きを取り戻していた。
宙に浮いていたであろうルーシーは、キョトンとした顔をしながら皆の前に振り向く。
「本気…出し過ぎしちゃいました」
「うむうむ…よくやった!
怪我はないかい?
他の隊員は怪我の有無と、現状を調べろ!」
「田中連隊長…足ブルブル震えてますよ?」
「そういう向井さんも震えてるべ?」
駆けつけていた田中と向井に、頭をヨシヨシされながらルーシーはその場に倒れ込んだ。
安心と日本で初めて魔法を使ったが故に不安が襲ってきていた。
聖剣は武器庫に転送させておいた。
なんとかなるかと安心した瞬間、ルーシーは意識を手放す。
だが同時にもう練馬にはいられないのだと思わざるを得なかった。
ルーシーは人の心を読み解く力を持っています。
現に誰かの助けてという声を聞いて助けに行こうと奔走していました。
そして審判心眼ですが、なんでも見通せる力があるようで、今回は「魔」と呼ばれる怪物が何を幻影として見せていたのかを見抜いていました。
最後に春風神剣派です。
光と共に衝撃波で相手を切り倒しています。
春風なんてやわなものじゃありません。
田中や向かいといった自衛官達はルーシーを誉めていましたが、ルーシーは練馬にはいられないと察知しつつも失神してしまいます。
次回はルーシーが今後どうするかを考える回です
よろしくお願いします




