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触れる琴線

咳が止まらないイライラと、ルーシーが練馬に慣れてくる過程を描いた物語です。




「ふふんふ

ふんふんふ

ふーん…よし!」



ルーシー・アストライオスは東京観光の帰りに何故か悟りを開いた。

財前や練馬駐屯地で働く自衛官達の優しさにあやかってばかりではいられないと。

自分でもできることがないか考えに考えあぐねた結果一つの行動に移すことにした。



「皆さんいかがでしょうか?」



練馬駐屯地内にある第一普通科連隊と木札に書かれた部屋に恐る恐るルーシーは足を運んだ。

ドアが開いたことで軋む音に反応した数人の自衛官達が振り返り、おおーだと声を漏らしどこか懐かしそうに見つめる。



「ルーシーさん、似合ってる!」


「昔ここにきたばかりの瑠香によく似てわねぇ

やーんもぅ、感激だわぁ!!」


「…なんじゃろう

外国のアーミーにいるような」




「「「「「「「3年くらい勤めてるでしょ?」」」」」」」」


「なんでそうなるのですか!!」





再びドアがぎぃと音を立てて、カップを片手に田中が部屋に入ってきた。

アルメリアでは嗅いだことのない梅の匂いと昆布の匂いが交わり飲んでみたいようなとじーっと田中を見ていた。



「おはよう…おや、ルーシーさん

5年勤めた自衛官の顔をしているね

…今からでも試験を受けるかい?」


「私アルメリア人です!!

日本人じゃないのぉぉお!!」


「あっはっはぁ!

身分証発行してもらおうなぁ

正式採用だなぁ」





朝の微笑ましい部下との戯れを終えてにこやかに微笑み部屋を後にする。

私は自衛官だったのか…そもそも日本人だったの?

と頭の中でパニックを起こすルーシーに手招きされ、ソファに座らせられたと思えば、目の前には紙とペンが置かれており明らかに志願票をかけと後ろからニコニコと笑う数人達。





「ダメじゃない…ルーシーさんを困らせたら!」


「貴方は向井3佐さん…いいえ、お母様!」


「ルーシーさん、日本国籍持ってないから

日本国籍を取得させてからよ!」


「そっちかぁい!」




最初に声をかけてきた天城や、オネェ言葉を話す沖田。

変わった方言を話す飯島。

そしてこの第一普通科連隊で働く隊員達は、ルーシーの事を一戦力と見ていた。

どうしようもねぇなぁと頭を抱えていたが、不意に耳元で鋼鉄をも壊す翼龍の羽ばたく音が響いてきた。

パッと顔を上げてもそんなものは存在しない。



(この音は…レイラ様?

イシスさんの音にも聞こえる

その向こうから雷のような音と…

どうして?)






また翌る日。

ルーシーは面倒見のいい兄貴達こと、小野と佐藤に連れられてリアカーにゴミを乗せて運び出していた時だ。

無機質で無骨な建物が乱立している中、剣戟が加速する音と共に今まで感じたことのない異質な雷の音に混じって、土煙が舞う匂いがルーシーの前をかすめて行った。




「今のは…まさか?」


「ルーシーさんどうかしたの?」


「もしかして家に帰る方法を思い出しただか?

まだ早いよ…もっと俺たちと一緒にいようよ!」


「いえいえ!

思い出せないんですよ

頑張って思い出そうとしてるんですけど」




本当は帰り方というよりも、自分の近くにキリの存在を察知していた。

キリが異世界(アルメリア)異世界(にほん)を隔てていた空間を捻じ曲げて繋げたのだと推察していた。

遠くから感じていたティナやニコルの攻撃魔法の残影を懐かしく思っていた。




(だけどまだ帰りたくない

…今火曜の10時にやってるサレ妻ドラマを身終えるまでは!

今いいところなんだって!)



毎週火曜日、消灯後に数人の女性自衛官達が集まりお菓子を持ち寄ってノンアルコールビールやハイボールを決めながら不倫のドロドロした情景を楽しむのが最近の楽しみになっていた。

アルメリアでもラブロマンスやミステリーはある。

だが濃厚なまでにドロドロした男女関係にノンアルコール飲料が進む進む。



(日本ってやばい

すごい楽しいわぁ…

アルメリアに帰ったら速攻広めてやろう

ふっふっふっふっ!)


「…ルーシーさん、不倫ドラマ好きになったの?

大人になったわねぇ」


「ありがとうございます向井さん」


「「へっへっへっへっぇ!!」」






また翌る日。

この日は、基本的な打撃攻撃を沖田や三宅から教わることになった。

本気でミットに打ち込んでこいと何故か鼻息荒く沖田が構える。

どうしようと困惑し、何かあった時に控えていた飯島が据えた目つきで沖田を見つめていた。





「ちょぅっと!

なぁんでそんなに冷たい目で、おきちゃんの事を見るのよぉ!」


「ええですか、ルーシーさん?

まず変な男の人が迫ってきたらエリとか首とか掴もうとしてくるかもだし

肩を揺すぶって脅そうとしてくると思う」


「はい!」


「じゃけぇそういう時は、まずは逃げるんよ

逃げても追いかけてきた時は大きい声で叫ぶんよ

警察呼んでもらうために」




警察を呼ぶと聞いた時に、前にあった2人の事を思い出しながら飯島の話をしっかりと聞く。

そんな様子に飯島はニコリと笑い、半歩右足をずらし軽く腰を落としファイティングポーズを取るように教える。




「良いですね

でも戦うのは最終奥義

大きい声で周りの人を呼ぶんです

俺ならこうやって叫びます」




おどりゃあどこに目ぇ晒しよんならぁぁ!!

そがなこまい物みせよんかぁ!!

ぶち回すどわりゃぁぁ!



「……え?

え…日本語?」


「今のは聞かないほうがいい

おじさんが格闘を教えてあげるか」


「嫌ねぇ品がないわぁ

ルーシーさん、こんな風に喧嘩をふっかけたれたら

こう返してあげればいいわぁ

びっくりさせてしまうけど許してね」




さっきから何を言っとるんじゃこのだぁごが!!

ちっこいのはお前も一緒じゃぼげぇ!

ぶっこ⚪︎ぞ、おどれがぁぁ!!




「……沖田さん…飯島さん?」


「2人とも何を教えてるんだ!

やめなさい!」


「「すいません

2人で夜中に狐⚪︎の血を見て頭おかしくなってました」


「自営業映画やめなさいよ!」





アウトロー映画を2人揃ってみていた熱気を訓練にまで侵食させてきた2人に対し、仏の三宅といわれた三宅がため息混じりに近づいて説教を始める。

それもそうだ。

何も知らないルーシーからしたら今の2人の言動で、日本にいたくないと言われかねないのだ。




「だから…ルーシーさん?

どうかしたの?」



「三宅さん待ってつかぁさい

あっちの方からカタギの友達がいたような気がして

私のシマに帰れる方法を見つけれそうですわ」



「「「ルーシーさんもまさか!」」」


「狐⚪︎の血とそういう映画見ました」





うわぁぁァァと雄叫びをあげながら打撃演習じゃすまなくなったことに発狂する三人。

日本の文化に触れたく映画を勧められ、あれよあれよという間に辿り着いたのだとか。

慌てふためく三人を苦笑いを浮かべながら、ルーシーは財前に案内されたレンジャー塔のことを思い出す。

ティナやニコルの魔力は微かにレンジャー等の方向から流れてきていた。




(キリは…私がここにいることを察知してわざと…

原始の魔物が住んでいると聞いたことはあるけど

だとしたら練馬(ここ)にはいられない

みんなが危ない)



ルーシーが練馬にきて2週間が経った頃。

瑠香達は王凌府(ヘラクシス)で白騎士団と殴り合いの死闘を繰り広げていた。

その魔力が風に流れてやってきたのだ。

まるでピアノの鍵盤を弾くように。

ギターの弦が震えて音を鳴らすように、ルーシーの持つ魔力とアルメリアから流れてくる不思議な感覚に触れていた。




「やっぱり…ルーシーさんは」


「友達の気配を感じているあたり、もうすぐ帰ってしまうんじゃないかなぁ」


「嫌よ!

まだ沖ちゃんは一緒にいたいわぁ!」


「だけどそれが叶わないんだ

せめてもの間、たくさんの思い出を作ってあげよう」



「「「「「「「「おす!」」」」」」」」




三宅がしみじみとルーシーを見つめていたが、野太い声が増えたことに驚き振り返る。

田中や向井だけではなく小野・佐藤・飯島・村上・天城が鼻息荒く何度も頷く。

そして三宅の舎弟である室戸が電話をかけてどこかに情報伝達をしていた。

三宅は察知した。




(この人達、他の中隊にルーシーが帰るかもって広めてる

生垣のところに人が増えてきてるもの)



新しい苦労が始まる予感がした


ルーシーは日本に慣れようと必死になっています。

まず住まわせてもらえるからと、率先して雑務をやっているようです。

掃除とゴミ出しと他にも色々。

仲良くなる過程でサレツマというか火曜10時にやってそうなドラマを見たりアウトロー映画を見たり。

染まってはいけない方向に染まりつつあります。

一応アルメリアでは皇女様…お姫様なんですよ!?


身分を知らないが故にフランクに接しているのだと思います。

知らんけど。

次回はちょっとハプニングが起こります

よろしくお願いします

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