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観光という名のさぼり

ルーシー、練馬駐屯地勝手にお散歩回です。

陸自の高官が直々に案内することがないので、私個人としては羨ましい。



「すごい広いですねー!

一つの国を見てるようです」


「一つの国か!

それはいい表現だね

ここは練馬帝国だ」




練馬駐屯地をのんびり歩く2人。

遠くから見た隊員たちからすれば、財前親子が歩いているだけかと特段気にせずトラックや機械の整備をしていた。

だが手を止めて2人の姿を見て、娘がいなくなっている事を思い出し振り返って食い入るように見た。

金髪の髪をハーフアップで結び、水色と白のドレスを着た少女と規格外サイズのヒグマが歩いているのだからその場にいた全員が慌てふためく。

ルーシーの姿学校ではなく、隣に歩くヒグマが原因なのだから。





「田中さんに連絡しろ!」






確かにそう叫んでいた。

そんな叫び声はルーシーの耳にも届いていた。

なんのことだろうと財前に聞こうとしたが野暮だと思って口を噤む。

それよりも練馬駐屯地なる場所の広大な広さに感銘を覚えており、目の前に見えてくる小さな溜池に目を輝かせていた。





「気になるかい?

そうだよね…普通にここは鯉も泳げば合鴨もいるんだもんね

練馬ワンダーランドだよ

次はここだね…ここは、ついさっき来たでしょ?」




のんびり歩けばそこに広がる巨大な建物。

練馬駐屯地司令部と表札があり、その隣には第一師団と表記がされている。

ルーシーが迷った挙句、ピヨ助と名乗った鶏に連れられて来たのがこの場所であった。






「ここは関東という地域一体の駐屯地に司令を送る場所だよ

ルーシーさんがここに侵入した時に、対策本部を立てた場所でもある」


「そう言えばここに私は、迷い込んで来ましたよね

中枢に潜り込んでしまっただなんて」


「話を聞いた時は、びっくりしたよ

なかなか度胸のある人だと思ったしさ

今から武器庫に行こうか

ルーシーさんの甲冑と剣を置いてあるんだよね?

厳正な管理をしているから安心してね」


「ありがとうございます」





練馬駐屯地に入り、ここで過ごすための条件として武器や防具の管理を練馬駐屯地側に全て委託する。

その条件を満たされない場合、ルーシーは即効で警察に突き出されていた。

他の幹部自衛官たちの反対をなんとか宥めて、財前のクビ覚悟でルーシーの処遇を武器の預かりという点で引き下がらせたのだ。

これは伝説になるなぁと笑う財前に、ルーシーはやはり自分の父親であるアルバスと似ていると思わざるを得ない。




「ずっと気になっていたんだ

ルーシーさんの生まれ育った場所はどういったところなんだい?

アルメリアなんて国名は初めて聞いてね

辞書で調べたけど何も出てこないんだ」


「私の生まれた国は、四方を高山で覆われて南に降れば海につながります。

人々は山の頂から流れる清流や自然の恵みの一部をいただきながら生活しております。

無駄に資源を取らず無駄に土地を広げず、自然とあまた種族との調律を保ち干渉せず生活してます

この国は科学というもので成り立っています

私達は魔法というものが…あ!」



「ふふふ…ルーシーさんの人がわかって来たよ

あなたはあなたの故郷を愛している

そしてあなたはあなたの故郷の全てに愛されている

人々に愛される高貴な方と見ました」




全てを見透かされている感覚はあったが、ルーシーの心の奥にスゥーと優しく広がる財前の千里眼にびくっと震える。

全てお見通しと言わんばかりに、財前の琥珀色の目はルーシーの心を見抜いていた。

だが不快感は全くといっていいほどなく、全てを打ち明けても受け止めてくれるのではないかと安心すら覚えていた。

武器庫に到着した途端、整備を担当していた兵士達。

もとい自衛官達がルーシーの甲冑や剣をマジマジと見ながら甲冑に施されている装飾や剣の鋭さや美しさに声を漏らす。



「お邪魔するよ」



「綺麗だな…」


「こんなに綺麗な武器は初めて見たっす」


「お前ら刀身に唾がついたら錆びるから口を抑えておけ」


「装飾が綺麗ですね」


「丁寧に作り込まれてますね」





財前やルーシーが来ていることに気が付かず、整備そっちのけで5人の自衛官達が食い入るようにこれでもかと見ていた。

そんなに珍しいのかなと頭を傾げて財前を見る。

何かを思いついた財前が、自衛官達の間に入って剣を握っておいでとニヤリと笑う。

意図に気がついたルーシーもニヤリと笑い、交代で剣に触れる男達の間に潜り込みルーシーが権を握る。

刀身が淡い光を帯びて輝くのを見て、おおっと声を漏らす齢40代自衛官達。

だが何かに気がつき、剣を握るルーシーと入り口でニヤリと笑う財前を交互に見合う。




「やっほー」


「おじさま大勝利ですわぁ」



「「「「「あっ!!!!」」」」」




何事かと騒ぎを聞きつけた隊長が、ドタドタと足音を立てて武器庫内に入って来たがその頃にはルーシーも財前も、とんずらをこいて逃げており事実を伝えた自衛官達が皆怒られるというトンデモ展開になったと田中の耳に伝わるまでそう時間は掛からなかった。

停車してある超大型車両を横目に見ながら体育館を越えて、2人は鉄塔の前に立つ。





「ここはねレンジャー塔っていうんだよ

レンジャーになる強者達は皆ここで訓練を受けるんだ

僕の娘もここで訓練を受けたんだよ

…懐かしいなぁ」


「娘さんが…」


「そうだよ

鉄塔と鉄塔の間のロープがあるでしょう?

命綱を体につけてロープに、安全器具をつけて飛び降りるんだよ」


「へぇー…え?

え…えぇぇぇぇぇぇえ!!!」


「最高だべ!

その反応やヨシ!

日本を守るために強くなろうとするもの達の場所だよ」




若き隊員達の血と涙の努力を、ルーシーは魔力を巡らせて過去を覗き見た。

鉄塔が記憶する全てのレンジャー隊員達の息吹が魔力と、記憶を通してルーシーの心に響き渡る。

自国の兵士にはなかなかいない。

命をかけて命を守ろうとする姿に感動し、アルメリア皇国の勇敢なる兵士達とはまた違う勇敢さに脱帽と敬意を示す。



「私も会ってみたいです

おじさまの娘さんに、是非とも会ってみたい」



「きっと会えるよ

君に似てかっこいいんだよ

負けず嫌いで信念を通し、誰からも愛されるそんな自慢の娘だよ」


「親父、俺は?」


「信念を通しながらも、何が正しくて何が間違っているのかはっきりと判断をし

咄嗟の判断能力を武器に勇敢に前へと進んでいく

自慢の息子…あぁん?!」




声の聞こえる方に顔を向けると、2人の後ろには背の高い迷彩服を着た男が田中と共に立っていた。

背は180くらいで筋肉質。

優しい顔立ちをしているが、どこかぶっきらぼうで眉間に皺を寄せる。

どこか財前に似ている男は、財前のことを睨んだと思えばルーシーに頭を下げた。






「初めまして、

財前総監の息子で噂でよく聞く瑠香の兄です

財前修と言います

よろしくお願いします」


「ルーシー・アストライオスと申します

よろしくお願いいたします」


「噂では聞いていましたが、妹によく似てますね

…んな事いいんだよ

親父、帰るぞ…練馬の人に迷惑かけるでねぇじゃぁ」


「わんつかでいいから!

わんつかでいいから練馬に」


「ルーシーさん

この人仕事を放り出してフラフラしてるんです

サボってるので、連れて帰りますね」


「…え!?!?」




サボっているのがバレたと気がついた財前。

そして案内をしているだけだと思い込んでいたルーシー。

田中の手には頑丈なロープが握られており、修と名乗る男の手には見たこともない武器が抱えられている。

武器庫でそれが小銃というものであると聞き、殺傷能力の高い武器を持ち出し今から戦闘が始まるのではないかと冷や汗をかく。

どうしたらと財前に声をかけようとした時、財前はルーシーの視界にはおらず、地面に押し倒され田中の手でロープにぐるぐる巻きになっていた。



「うぉぉぉぉぉうがぁぁぁぁぁ!!」


「おとなしくしさんしょ!

このずんだれくま!」


「がるるるるるるる!!

うがぁぁぁがあ!!」


「ルーシーさん、ごめんなさい

この人お腹が空くとクマに変身するんだ

息子の俺が代わりに謝ります

本当に申し訳ありません」


「い…いえ、お気になさらず」


「すいません

…親父けぇるぞ!

朝霞で仕事溜まってるべさ!

皆さん、お願いします!」





いつのまにか筋骨隆々のマッチョ自衛官達が鼻息荒く財前を担ぎ上げわっしょい、わっしょいとの太い声とも歓声とも捉えられる声を高らかに第一師団の本部庁舎に向けて歩き始める。

困り果てるルーシーに気がついた修が、エスコートしながら本部庁舎に歩き始め、気がつけば応接室で甘いカフェラテをご馳走になっていた。

明日は日本という国で言うところ休日。

女性達が練馬や東京駅付近を案内したいと申し出があり、ルーシーの楽しみが増えると同時に財前のことがすこぶる心配になっていった。



財前、仕事サボっていたってよ。

休憩がてらルーシーと話しながら散歩をしていたおじさん。

施設のいろいろなところを教えてあげたり、レンジャー塔の前で娘である瑠香のことを思い出したり。

娘に似ているルーシーと離れるのが嫌で、急にクマになったり忙しいおじさんです。


そんな財前のことを、自分の父親と重ねてみているルーシーですが、さぼりであることが息子の修から告げられ驚いてしまいます。

逃げようとする様子や怒られているのを見ると、心配にもなりますわな。


次回は東京ぶらぶら観光編です。

練馬を歩いて、距離のある東京駅まで行くみたいです。

そして意外な知り合いとも出会います

次回もよろしくお願いします

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