逆異世界転移?
ルーシーが日本という異世界に転移してしまうお話です。
逆異世界転移?になります。
練馬駐屯地の応接室に少女は通されたソファに座り、目の前にいるザイゼンマコトと名乗る男の動静を観察していた。
顔つきや立ち振る舞い、背丈にとあげればキリがないほどに確かに自分の父親にどことなく似ている所がある。
少女が幼齢であった頃、迷子になって泣いていたところ血相を変えて見つけ出し探し出し、迷子になったと聞いた途端に癇癪を起こして暴れていたこともあった。
「瑠香ぁ…瑠香はどこに行ったんだぁ…
毎日寂しくて、チョコが鳴いてるから早く帰ってきて
うぅ…うぅ…ぅおぉぉぉおぉん!」
「またヒグマになった
北海道の奥地に投げるしかねぇ」
(お父様を見ているみたい
というか…お父様そっくりなんだけど)
ザイゼンマコトの話をよくよく聞けば、彼は日本という国の陸上自衛隊なる軍事的組織の中枢を担う1人だのだとか。
だが目の前にいる大男は軍の中枢を担うようには見えず、どことなく自分の父親と重ね合わせて見えてしまい困惑するしか表現できなかった。
「…はぁ、申し訳ありません
怖い思いをしてここまで辿り着いたというのに、心労を与えてしまい、なんと謝罪すればよろしいでしょうか?」
「いえ…お気になさらず
田中連隊長様も大変ですね…あっはは」
「大丈夫ですよ、これくらいなんともありません
私はあなたの事が…少し心配なのですよ」
ルーシー・アストライオスさん
時は遡る事、数週間前。
習志野駐屯地から財前誠が務めている陸上自衛隊の中枢である陸上総隊にホットラインが入った。
ちょうど連絡を受けたの財前誠本人であり、隊員の不祥事が生起したのかと眉を顰めて受話器をとった。
『陸上総隊…東部総監の財前だ』
『お久しぶりです隊長
習志野駐屯地司令のキタバタケです
…言いにくいのですが…』
『送れ』
『当駐屯地所属、第一普通科大隊の
その…あの…』
連絡を寄越したのはかつて自身が育て上げた部下の1人のキタバタケ司令。
旧知の中であるが故に、昔はよく飲みに行ったりとしたが時より都合が悪い何かが起きるとどもる癖がある。
ホットラインにかけてきた時もその歯切れの悪さがあらわになってしまい、ついには声を荒げてしまった。
『Go Ahead!
なんでもいい…
お前の歯切れの悪さは何かあったのだろう
構わず話せ!』
『3等陸曹財前瑠香が…
娘さんが…空の神兵と共に消息を断ちました」
『………?
…ぬむやたさかあよまほとしお、はあまぬまのたりたらまらまなやむらまらたらまは!!!!』
東部方面総監兼ねてより、陸将として任を受けた財前誠。
齢52歳で陸上自衛官の数多いる幹部をねじ伏せ、陸将たる存在に上り詰めたはずが娘のことになった途端、ダメな父親に変貌してしまう。
キタバタケが歯切れ悪くなるのも致し方なかった。
財前自身もまるでダメなお父さん。
つまりマダオであることに気がついていて気がつかないふりをしていた。
その時を同じくして、1人の少女は森を彷徨っていた。
濛々と立ち込める霧の中、1人考え込んでいたのだ。
父親である魔神から受けた任務に従事しようと禁足地である終焉の大地にアリシア・ヴェロナーと共に向かい調査を終えた。
分離した所、嫌な気配に気がつき逃げたしたまではよかった。
『キリ…そんな!
最近ずっとキリが発生したなんて報告聞いてない
そもそもキリが発生するなんてあり得ない!』
自然界で発生するとは違い、キリなる存在は得体の知れないものがいるという。
確かに不自然にものが軋むような音が響き、生暖かい吐息のような息遣いが耳元で響き背筋に嫌な汗が噴き出す。
自分の身につける甲冑の触れる音だけが気持ちを落ち着かせている。
眼前に広がる世界が真っ白な世界で息を吸う事が怖くなるほどに、何も見えないことに頭がおかしくな理想になっていた。
『甲冑の触れる音?』
『そんなことよりも……!』
「誰かいるの!?」
聞いたことのない言語だがそこに男女ふ2人がいたことに安堵して駆け寄ろうとしたがキリが濃く声の主に近づく事ができない。
手を伸ばそうにも触れる子も許されず、断念して再び歩き始める。
キリが薄くなり目の前が見え始めた頃、自身の歩く場所の雰囲気がアルメリアと異なる事に気がついた。
山の中を歩く時に舞う匂い、ジワリと感じる熱気を含んだ湿気と焼けるような差し込む太陽。
全く違う国に来たのだと察したが、アルメリア皇国の隣国の気象条件が異なる事に気がついてとうとう自分がどこにいるのかわからなくなってしまった。
「私はアルメリアに帰れない…
どうしたらいいの?
お父様、お母様、兄様…助けて…
ここは一体どこなの?」
戸惑い歩いて下を向いていた所見慣れない地面に気がつき、顔を上げて目の前に広がる建築物がアルメリアのような美術品のようなものではなく無機物だが整頓された並びや、鉄塔ようなものに円形の何かよくわからないものが据え付けられいる。
そして何より嗅いだことのない油と鉄の混じり合うようなツンとしているが付き纏ってくる匂いが鼻の奥にまとわりつき、激しく咳き込んでしまった。
「ここはいったいどこなのですか?
それにこの施設はいったいなんなのですか?
私は見たことのない場所に来てしまったというのですか?
あっ…あぁっ…た、助けて…誰か!」
『誰か!』
聞き慣れない言語に体がビクッと反応して恐る恐る声の主を探す。
そこには二人組の屈強な男が立っており、ルーシーの姿を見て不気味な存在が現れたかのように硬直していた。
「あっ…あの、私は」
『誰か!!』
「あの!」
『誰かぁ!!!』
「私…私は」
『テキシュウ!!』
2人のうちの1人が黒い板のような物を耳にあてがい、何かを話している。
だがもう1人は組み手のような仕草を見せ、確実に捕縛するか殺害するのではと判断せざるを得なかった。
だが脳は逃げることを選択しきびすを反そうとするが、足は震えて動けなくなってしまう。
「ここから逃げなきゃ!
ごっ…ごめんなさい!!」
『おい待てゴラァぁ!』
後に練馬騒動と揶揄される戦闘行動が始まるとこの時、誰1人として考えていなかった。
練馬駐屯地中に鳴り響く警報音がまるでスタートの合図になると、思いもよらない。
偶然にもそこにいた暴走ヒグマ野郎こと財前誠とかつての腹心である田中源一郎一等陸佐がルーシー・アストライオスと接敵するとも思わないのである。
ルーシーは無事に保護されていたみたいです。
でも目の前にいる財前誠のインパクトが強く、困惑しているのです。
それは田中連隊長も同じです。
少し時間を元に戻し、なぜルーシーが保護されていくのかその過程が始まります。
娘のことになると仕事ほっぽり出して暴れ狂うマダオと、暴れ狂う父親に似た父親の元で育ったルーシーの邂逅まであと少しです。




