収束はいつかの波乱の幕開け
全ての辟易した家庭環境から解放されて、解放の戦士たちが怪我から復帰していくお話です。
「クラリスよ
準備はよろしいですかな?」
「ばぁぁぁっちりできてますぇー
アリシア姉さまぁ
ぐふふふ!!」
「ぶふふふ…では行きますぞ
せー…のー…」
起きろニコル!!
「ぷぎゃぁ!!
…ちょっと、変な声出たじゃんかぁ!!」
「おはようニコ、いい朝だねぇ」
「思いっきり雨降ってるよアリシア
クラリス…っなんでやってやったぜって顔して笑ってるのよ」
「「…ぐふふふふふ!!」」
最初にこの国に訪れた印象と目の前にいる姉妹の姿は違っていた。
本来仲のいい姉妹なのだろう。
継母に当たる女王ケイティの手で裂かれた運命だったのだ。
ケイティや部下の魔術士が倒れた後、司法局に捕まりケイティが持っていた鉄扇もニコルとティナの攻撃により無事に破壊されたとのことだった。
だがその後の方が大変だった。
アリシアの体内に残置されていた石礫。
もとより呪いの要素を含む魔石であり、出どころが不明どころかどういった術式を組み込まれて魔石になったかもわからないという。
『由々しき事態だ
この鉄扇…邪鉄咬扇がなぜここにある!
これは元々…エストラゴに封印されていたと聞いたぞ!』
公務で海星府を出立し不在にしていたジャクソン侯爵がティナとニコルが破壊した鉄扇の残骸を見た時、近くにいたウォーレンが叫び声を聞いて驚いたという。
大昔の戦争で特別封印魔術具の指定を受け封印されていた代物が、自国にあったという事に驚愕し近く中央部にいる魔神の元へ謁見するという。
それだけで止まらなかった。
ケイティから受けた攻撃により忍は大量出血をして瀕死の状態になってしまった。
体内から取り出された石礫を医療魔術で取り除いた所、何事もなく立ち上がって歩き回る忍にその場にいた者は失神したのだ。
「そういえばそんなこともあったよね
ごめんね、うちの父親があんなので」
「タフというか…もう怖かった
アルメリアであんな人いないと思う」
「ウォーレンさんが
『俺以上に頑丈な人間がここにいたんだ…』
と言いながら腰を抜かしておりましたわ
お姉様も怖がってましたね」
「「「…」」」
なんともいえない顔をする3人。
だがニコルもそんな忍に対して何もいえないのも事実。
あの日、ティナとニコルと瑠香は攻撃を繰り出した後に失神してしまった。
ティナは散り咲く鳳仙の星というオリジナルの火焔魔法の効力を高め過ぎてしまい、自分自身でやり過ぎたと反省しながら失神してしまったという。
右手で弓を引く動作、左手でピースサインを作って人差し指と薬指の間にターゲットを持ってきて炎を込めればできてしまうとのこと。
だがやり過ぎたのだ。
「初めて見ましたわ
あの火焔魔法…怖かったです
火力というか性質が違うというか」
「クラリスは火魔法が扱えるのよねー
でも私はニコルも怖かったよ
風纏巨狼…
ケイティ様と黒魔法士を飲み込んで地面に叩きつけてたじゃん」
「…あっははは
すいませんでした」
ニコルの放つ攻撃詠唱の中でも高難易度と言われる風纏巨狼。
一度唱えれば、暴風を伴い狼の形をした大風が相手を飲み込み風の中で攻撃対象を八つ裂きにしながらダウンバーストという自然現象と同じように地面に叩きつけて再起不能にさせてしまうという。
今回の一件では手加減をして八つ裂きにはならなかったもののケイティは右腕を閉鎖骨折してしまい全治4ヶ月と診断された。
さらにいえば狼の遠吠えのような風が海星府を駆け巡ったという噂も流れていたのだ。
「私は瑠香のあの攻撃が怖かったかなぁ
なんだっけ…機甲科・効力射撃だったっけ?」
「「あれもすごかった…アルメリアで見たことない
もう、ゾッとした」」
「本当仲良い姉妹よねー」
瑠香の放った雷を纏う攻撃の一種。
機甲科・効力射撃という破壊に特化した特別な技。
本人の情報では物を破壊するために練習した技なのだという。
事前に仕込んでいゴムで作られた非殺傷弾頭を銃に装填し、限界まで帯電させた後魔術士たちが作った魔力防御壁を跡形もなく消し飛ばしたのだという。
その余力は防御を破壊するだけには止まらず、魔術士達の杖を粉々に破壊し、邪鉄咬扇を破壊するに至ったという。
「アリシアもクラリスも無事で良かった…
体に埋め込まれていた毒が除去されてよかったよ
アリシアだけじゃなくてクラリスとジャクソン侯爵にも、埋め込まれていたの
その事実は知らなかったわ」
「…あれはねぇ、私達も気が付かなかったんだよね」
「確かにお母様…いいえケイティ様に埋め込まれていただなんて覚えてないし、お父様にも同じ毒が埋め込まれていた…
だなんて初めて知りました」
「「さすが元女給手長」」
2人の実母が亡くなった後、憔悴しきったジャクソン侯爵の心の穴を埋めるようにそっと手を差し伸べてきた女給手長。
それこそが後の女王ケイティとして君臨するきっかけとなった。
その当時は片鱗など見せなかったという。
だが朧げに覚えているのは、ケイティが次期女王として君臨した後、2人の体に何かを埋め込みアリシアに聖女の魂を宿していると知った途端に虐⚪︎が始まった。
「おっかねぇ」
「瑠香さんが引き攣ってましたわ
『それ日本では普通に虐⚪︎だし
今回の件だってサツジンミスイというかナイランザイとかで無期懲役刑か最悪…うん』
って話しておりましたし」
「何も言えねぇよ…ニコは何も言えねぇや」
アリシアに対する行動がエスカレートする反対に、クラリスはケイティの思う愛らしいの基準に満ちており、聖女の魂をアリシアから強奪してクラリスに移植し新たなる女王としてクラリスを据え置きにして影から実権を握ろうとしていた。
だがそんな目論見も6人の武者が現れた事によって瓦解したのもまた事実だ。
「まぁおかげで私の両手は火傷で包帯ぐるぐる巻き
髪の毛爆発して櫛で解かしてもだめなんだよね
ティナと瑠香を説教しないとね」
「「手伝います姉御」」
「ついてっ来ぉい!!」
身支度をして痛む両腕をローブで隠し、2人のヤンチャ姫を引き連れて廊下を出た時だった。
心配なんて言葉は消え失せたのか、眉間に皺を寄せメンチを切るティナと目をこれでもかとかっ開いて⚪︎倻子よろしくとばかりに奇声をあげる瑠香がドアを封鎖するように仁王立ちし、いつも通りだなぁと感心するウルムは無の境地に立つマリウスの頭に乗っていた。
「「「…」」」
「おはよう、なんかいう事ないの?」
「ごめんなさいティナ」
「素直でよろしい…瑠香姉ぇ
3人連れて忍のところに行くよ!」
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「今日もいい天気だっちぃ」
「そうですわねウルムオネェ様」
「「「みんな情緒不安定すぎない?」」」
心配そうにクラリスがアリシアの袖を引っ張るなか情緒不安定パーティが向かったのは、重篤患者が治療を受ける隔離施設がアルビレオ城に存在する。
海星府で発生した急患も受け入れる大型病院みたいな場所だが、明らかに嫌な意味でのVIP待遇を受ける忍がいると冷やかしで来てみたは良かった。
だが、大の男が暴れ散らかす様はなんとも言えない。
瑠香は顔を伏して現実から目を背けようとする。
「離せぇ!
俺はもう元気だ、古傷からも石ころが刺さったところからも血は出てねぇぞ!
俺は兵隊だ…多少の傷は唾つけとけば治るからヨォ!」
「いいから黙っていうこと聞きなさい!
兵隊さんだか知りませんが、患者は患者なんですからね!」
「頼むよ婦長さん!
…みんな来てくれたのかい?
お父さんを…ちょいちょいちょいちょい!
置いてかないでくれよ…お父さんのこと置いていかないで!」
「麻酔とか打っていいので…存分にやってください」
「瑠香ぉぉぉぉぉ!
ぐえぇ!!」
看護師に押さえつけられ、麻酔と思わしき注射を打たれて鎮静化した忍に黙々と看護師達は身体中に拘束具を取り付け始める。
この騒動から忍が完治するまでに3日はかかる羽目になってしまった。
足止めを余儀なくされたチーム情緒不安定。
退院するまでに協会から出される中級クラスであるC級クエストに参加して次に向かう鍛治府に行く資金を調達し、時間を潰すことが確定した。
そんな珍事件が起きるアルメリア皇国だがこの場所も珍事件が起きていた。
それは瑠香たちがいなくなって数週間が経った頃の東京都練馬区。
ここには練馬駐屯地と第一師団が併設された巨大駐屯地が存在する。
瑠香がいなくなったのは、瑠香の古巣たる第一空挺団が拠点を構える千葉県習志野市にある習志野駐屯地の近傍であり、練馬駐屯地とは何も関係がないはずだった。
「るっちゃん…ぅぅぅぅ!
るっちゃぁぁぁぁぁあ!!!
お父さんは…アチャはさぁ心配っしょ!
はやぐ帰ってきて…ぅぅぅぅ
うがぁぁぁぁぁ!!」
「わや大変なことさなった
方面総監がヒグマになってしまったべ
オキタ…猟友会呼んできてくだっしょ
その辺にシュウがいるはずだんべ」
「2人とも方言が強烈な方に進んでますよ
もぅ、おきちゃんびっくりしたじゃない!」
「何にも変わってねぇな親父も連隊長も
オキタ二曹も…たまげたなぁ」
失踪情報が入り警察と自衛隊に消防の3組織による捜索隊が組まれ、今もなお範囲を広げて捜索しているが見つからない。
だがその代わりに現れた少女が、暴れ狂う男と暴れ狂う男に銃なる武器を構えて脅しをかける男。
そしてどこかオネェ様だが、強者のような風貌を構える男に恐怖心を抱き、自分の兄に似た男と目配せをする。
(…この人達、どことなくお父様とお兄様やお師匠様に似ているけど違う
というか、お父様に似ているこの方…なまらこわい!)
「いい加減にしろ財前誠!
そったことしてたら瑠香に嫌われるっしょや!」
「「今1番言ったらダメなこと言いましたよ
タナカ連隊長」」
「え?」
「ぅがぁぁぁぁぃぁぁぁ!!
キムンカムイアタァァァァック!!!」
「…怖い」
ことの発端は数週間前に遡る。
という遡らざるを得ない。
アリシアとクラリスは無事にケイティの呪縛から解放されました。
物心つく前に実母と永遠のお別れをし、憔悴したジャクソンの心に取り入り成功したのがケイティです。
おそらく先代の侯爵であるアリシアとクラリスの祖父は見抜いていたのでしょう。
アリシアをケイティの元から離れさせようと近衛騎士団に入団させたは良かったですが甘かったみたいです。
クラリスもケイティの庇護のもと…というわけではありませんでした。
仲のいい姉妹だったはずが、妨害されていたのです。
気がつかないうちに呪いを打ち込まれ、ケイティが望む家族になってしまったのです。
権力に溺れたのでしょう。
解放したチーム情緒不安定と入院患者は功労者です。
ここから新しく新章突入ですが、一度日本ステージに移ります。
ルーシーがどうやって保護されてなぜ方面総監がキムンカムイならぬヒグマになったのか。
猟友会とタナカ連隊長の苦労と判断が垣間見えます。
次回も楽しみに




