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解放

アリシア解放に向けてのお話です。





進入した大扉から声が聞こえ振り返ると、美魔女と日本では騒がれるほどに目鼻立ちはくっきりとしており、背は高く品はあるが何か醜悪な空気が垂れ流れる女が立っていた。

ワインレッドよりも少し深みのあるドレスに、大きさはないものの高価なティアラを被り首元には大きな紅色の宝石が嵌め込まれたネックレスをつけている。

これだけでこの場にいた人間達は察知した。




(クラリスが言っていた継母なる存在)




それが今目の前に顕現していた。

厄介なことに魔力を探知できない忍ですら、継母の持つ鉄扇と思われるものに邪悪な物が込められていると察知する。

だからと言って武器を取り出せば、ここにいる全員の首が吹っ飛ぶのではないかと嫌な予感をマリウスは感じていた。




「まあなんて言う…ネズミなのかしらね

汚らしいけど、アリシアには丁度いいお友達かもね…

ねぇ…アリシア?」



「お…お母様…」


「お母様?

お前にお母様と言われる筋合いはないよ!」


「ぎゃぁぁぁぁぁあ!!!」





鉄扇を大きく振りかぶりアリシアに向かって勢いよく仰いだ。

なんの攻撃だと不審に思っていたウルムは身構えたが、アリシアの悲痛よりも凄惨な悲鳴をあげてその場に倒れ身体中を掻きむしったかと思えば過呼吸を起こして、頭を抱えてごめんなさいと縋るように呟き続ける。

その姿を見て気味の悪い笑みを浮かべて高笑いしていた。



「今…アリシアに何をした?

アリシアに何をした!!!!」


「そんなに怒らないでちょうだい

マリウス・ルベルト?

この薄汚いネズミに教えてあげただけよ」






解放せねばとウルムがアリシアに近づいた時見えてしまった。

アリシアが被ると言えない沙袋の隙間から何かの斬撃を受けた後に動物に噛まれたかのような髪傷が体のいたるところにあった。

その噛み傷のところから禍々しい魔力のようなものを、感じ取って血の気が引くマリウスとウルム。

魔法の類ではなく呪いのようなものだと察知した時、目の前にいる継母が醜悪な存在ではなく邪悪なものだと考えを改めざるを得なかった。




「申し訳…ありません…我が…女王様」


「生意気なのよ!」


「いぎゃぁぁぁぁぁぃ!

ひぃぁ…ひゃぁぁあ…!」



「良い様ね…早くお前が死ねばいいのよ

そうすれば、クラリスが聖女に」



「ざけんなテメェ…

それでも仮にも継母か?

己の私利私欲のためだけに…」


「何…ネズミ」




息絶え絶えになるアリシアが顔をあげて、つられてマリウスとウルムが顔を上げる。

3人の視線にケイティが入らぬよう。

ケイティの攻撃が3人に向かわぬように、立ち尽くし腰に吊るしていた軍刀の柄に手をかけて鍔をいつでも弾けるように構えていた。

ウルムが何かに気がついて顔を覗き込もうとしたが、忍が気がつき苦しそうな笑顔を見せて、アリシアの介抱を願う。




「昔の話はクラリスから聞いた

実母が亡くなって、大変だった時にあんたが継母になったと

元はあんた、2人の娘の母親のメイドだったそうじゃねぇか?

苦しむジャクソン侯爵に手を差し伸べてあれよあれよと…」


「何が言いたいのネズミ…それに私に向かって

女王に向かってなんで口の聞き方なの!

汚い獣は跪きなさい!」


大きく鉄扇を振り上げ忍に向けて渾身の力で振り下ろす。

その瞬間の刹那に忍は見切っていた。

鉄扇から黒く鋭い石礫が忍に向けて放たれていたことを。

アリシアの体にはその石のかけらが残置しており、そこから呪いが侵食していることも。

攻撃に転じて懐に入り込もうとしたが、(つぶて)が子供達に当たると察知し、体で3人を覆うように忍は防塁になって食い止めその場に倒れ込んでしまった。


「がぁぁぁぁぁぁぁあ!!!

はぁ…はぁ…はぁ!」


「忍!」


師匠(しのぶ)

お願いです、もうおやめください

やめて…えっ、うそ?」



「このくらい、どうってことない

それよりも…わざと俺に向けやがったな?」


「なっ!」



ケイティを捉える忍の目は、正気はなく睨むを超えて無を見つめるようなもの。

人として捉えていない事に恐怖し一歩一歩と後ろに下がり大扉を超えて廊下に引き下がる。

引き下がるケイティに呼応してじわりじわりと詰め寄る忍。

恐怖する原因は、表情だけではない。

ケイティが持つ鉄扇から放たれた石礫(いしつぶて)を受けた人間は切り裂かれた痛みの後に、大型動物や毒虫に肉を噛み切られ骨を裂かれ神経をもねぶられる。

死を望む痛みに襲われる真に呪いだ。

だが忍は痛みで自死を望むどころケイティを確実に仕留める何かをずっと向けてくる。




「なんなの…なんなのよ!

お前は一体なんなのよ!」


「俺?

俺は大昔に死んでしまった人間でなぁ

全身引きちぎれて臓物飛び散って、それなのに切り刻まれて死んだんだわ

まぁ、そんな事どうでもいいわ

俺はよぉ、テメェみてぇな親が嫌いなんだよ

子供は親の所有物じゃねぇ

ちぃっと俺の昔話をしようか」





俺が赤ん坊の時…いやぁそんなんじゃねぇなぁ。

俺は本当の親の顔をしらねぇ。

生まれてすぐにちっせぇ寺の坊主とその嫁さんに拾われて育てられた。

体に巻かれた褌に忍って書かれてたらしいぜ。

血の繋がりもない俺を拾って、育ててくれたらしい。

五つになる時には近所のガキと喧嘩して親父にゲンコツくらって、勉強すっぽ抜かせばその度におふくろは叱ってくれた。

時間は流れて15になる頃に惚れた女と付き合っていることをいつの間にか笑ってくれていたよ。

18になる頃に俺が軍に入るって言って聞かなかった俺を許してくれた。

泣いて泣いて…怒った親父にはまたゲンコツくらった。

だけど何をしても俺のことを見放すことはなかった。





「なんでそんなことができたか俺はずっと考えた

考えて夜しか寝れなかった」


「寝れないってパターンじゃね?

今のさ…」


「ウルム…しぃーっ!!

…俺は思い知らされたよ

親父がどんだけ怒鳴ってゲンコツ食らわせても、最後まで俺のやりたいことを応援してくれた

おふくろがこんな俺に優しくいろいろなことを教えてくれたのか

血のつながらない俺をの事を愛して、信じてくれたと死ぬ直前でようやく思い知らされた」



「はっはぁ!?」




何を言っているのかわかっていないケイティに、何を言っても無駄かとため息をつく。

だが、体がじわじわと痛みに耐えきれなくなってきている体に鞭を打ち最後に講釈でも垂れてやろうかとした時に、わずかに視界の端に淡く青白い光が見えた気がしてニヤリと笑う。

忍の思う希望が確実に自分が願った以上の形となって目の前に還元している事に、目元が緩んでいくのを年のせいかと嘲笑してしまった。



「あんたは親になれなかった

目の前にある権力や豪華絢爛な魔物に取り憑かれてしまったんだ

気にくわねぇと子供をこんな物で縛り付けて、1人はサンドバッグにもう1人は人形

ふざけんじゃねぇぞ!

親っていう生き物は、子供を信じて間違ってんならそれを何が正しいのか一緒に考えて、辛いことがあったら助けてやる

間違った道進もうってなら体張ってでも止めてやる」



「だから…なんなのよ!」



「本気でやろうとしてる事に信じてやる

それが親って生き物だ!

お前は何者でもねぇよ

信じた道や信念を守る子供は、他人に背中預けれるくらいに立派になる

今に見ろ…あんたの部下がボコボコにやられるぜ」


「はぁ!!」





ニッと笑う忍が指差す方向に目線を合わせると、魔法陣を展開し何かと戦う黒マントの集団が目に映る。

優勢だと思ってタカを括っていたケイティが鼻で笑うが、じっと目を凝らして気がついた、

もう己も、部下も全てが交戦している者たちの射程圏内に入っていたのだという事に。



「…殺される

あそこにいるのは一級魔法士のティナと一級詠唱士のニコル

そして緑の変わった服を着た男

…まさか!」


「やってやれ我が娘達」


「何よ…何を偉そうに!

アリシア、お前の力で盾を作りなさい!

こんな所で私が死ぬわけにはいかないのよ!

何をぐずぐずしているの!!」


「うるせぇ…あんたの指示にもう従わねぇ

私は兵隊ヤクザとして生きていくんだ…

だけどあのとてつもない魔力は、ここにいる人間が死ぬ

私も私を信じた人達のためにこの力を使う!」




我がアリシア・ヴェロナーによって全ての聖なる力よ!

我が友を我が同胞を、我が師を…我が信ずる者を守る聖なる壁と盾となれ

築きそびえ降臨せよ!!

そして海を癒し、地を潤わせ、空に輝く光となれ!!

聖盾巨城廻光(アイギスセイバーライナー)!!




「アリシアぁぁ!!

…ひっ!」



その場にいるを包む淡い光の中で一瞬、雷撃のようなものが走り轟音が鳴り響いたと思えば、ケイティが持っていた鉄扇が空中を舞い震えるように空気が熱せられ、鉄扇めがけて炎の矢が焼き尽くし逃げ惑う敵と悲鳴をあげるケイティに向かって風を纏う巨大な狼が飲み込んで消えていった。

静寂が包み込み、外からは近衛騎士団のリリアが怒号に似た声で叫び内容からしてケイティと、ケイティの計画に加担していた部下を捕まえたと宣言していた。



「…全く痺れるねぇ

瑠香の雷撃…機甲科、効力射撃

ティナが放った散り咲く鳳仙の星

ニコルが編み出した風纏巨狼(バーストウルフダウン)

本気出しすぎだろ?」


「何をそんなに喜んでるんだっちぃ

アリシアが本気で守ってくれなかったら死んでたんだぞ

マリウスゥ」


「確かに…そういえば忍…あれ?

忍…忍!?」


「2人とも大変!

あの3人が倒れて…寝てるの…」


「お姉さま、早く誰か呼ばないと!

だれかぁぁあ!!」

アリシアを束縛し殺そうとしていた継母登場です。

なぜこうなったのかは来週。

アリシアの魂である聖女の魂を狙っていたのは事実ですが…。

親とは何かを忍が説法解いてました。

親がいない忍にとっては家族がいる当たり前が羨ましく、ケイティが許せなかったのでしょう。



次回からは新章に突入します

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