正式な救援依頼
アリシア救出作戦結構です。
アリシアが連行されて3日は経っていた。
騒動の後に瑠香とニコルで近衛騎士団の庁舎に見舞いに行ったが、皆憔悴しきっており副団長のリリアですら無気力状態になっていた。
かける言葉が見つからず時間だけがすぎていく。
海星府の街全てで、アリシア解放に関する嘆願書がアルビレオ城に届いていると聞く。
「どうにかしてアリシアさんを救えないですか…」
「ウォーレンさん、その気持ちは同じです」
「この所、海の様子がおかしいんですよ
荒れて漁に出れないでいる
弱ったもんだ」
アラーカム漁港で、ウォーレンとマリウスが漁港の建物から遠く海を眺めていた。
普段なら沖に出ている木造の漁船が、今はどこを探しても見つからない。
漁に出れないせいで、普段水揚げされた魚が直結の市場に並ぶことなく閑古鳥が鳴いている。
そしてウォーレンと話し、気丈に振る舞っているマリウスも憔悴しきっていた。
「どうすれば…いいのでしょう」
「ありえないんだよ
アリシアさんが、謀反だなんて…
それに謀反を起こせば最悪」
それ以上の言葉は出なかった。
謀反を起こせば死は免れないのだ。
それを言おうとしたが黙るしかほかない。
ウォーレンの計らいで小さな会議室のソファーで皆座って、これからどうするかを考えていた。
時間だけがすぎて憤りを感じてティナは下唇を噛み、隣に座るニコルが気を使って背中をさするが、耳はずっと垂れ下がったまま。
窓の外をみて荒れる海を茫然とウルムは見つめ、何かを考え込む様に瑠香は項垂れる。
「なぜそこまでしてアリシアは命を狙われてる…」
「そう言えば忍だっけ?
あんた、ここにきてからずっと」
「呟いていた事はお許しください
…どうやら来たようだな」
会議室の扉が開き、使い古された薄黄色いワンピースに
何処かボロけた白いフード付きのマントをかぶった女性が入ってきた。
フードを取り払い頭を軽く振って髪を下ろして、どこか悲しげな目でその場を見渡す。
瑠香達は入ってきた人物に対して驚き全員が口を開けて驚くが全員の目つきは鋭く冷え切っていた。
全員の敵意と怒りが突き刺さる中、忍だけが前に出て首を振る。
「役者が揃ったわけだ
敵意を向ける相手はこの人じゃない
俺も全部を信じきってるわけじゃないが話してもらえますか?」
数時間ほどして深夜。
あたりは静まり返り、草や虫静まり返り街は眠りについていた。
アルビレオ城の門番や警衛の人間があくびをして、暇そうに立っている。
城壁の上にある見張り用の櫓にいる塀ですら気が抜けており、かがり火に照らされた顔は呑気にも思えた。
「兵隊ありどもは気が抜けている…バツ!」
「評価隊の人が見たら失神するわ」
「だろうな
ところで…娘達よ
なんでぴちぴちレオタード姿なんだい?
なんでマリウスもレオタードなの?
ウルムはいつも以上にモコモコしてるし」
娘三人衆は今から潜入を兼ねてアリシア奪還に向かうというのに、どこかで見たような姿をしていた。
忍の言うようにぴちぴち黒色レオタードに、腰にはそれぞれのトレードマークを示す緑とピンクと水色のバンダナが巻かれている。
マリウスはと言うと恥ずかしそうに黒いレオタードに白いバンダナを腰に巻いていた。
「俺っち知ってるぜ?
これ」
「頼むからそれ以上言わないで
お父さん怒られるから…いろんなところに怒られるから
入知恵したの瑠香だよね?
やめてよ、ほんと」
「にいちゃんに見ろって言われて面白かったから
お父さんも履修しろって言うから」
(日本に帰ったらあの2人の枕元に立ってやろう)
忍の怒りが変なところで頂点に達した所で、高台から忍達はアルビレオ城を見下ろしていた。
アルビレオ城の西側は森林に覆われた崖が点在しており、長年敵対勢力がいなかった為に警備は少し緩くなったという。
「まさかこんな爆弾を教えてくれると思わなかったね」
「本当に…あの人が来ると思わなかったよ
それに意外だったなまさか救援依頼をしてくるなんて
その話になった途端、ニコルの顔色が一気に青白くなったの怖かったよ」
「でも信じてあげなきゃ
友達のことを守ってあげたいし
悪だと思ってみていた自分の考えを変えるきっかけだし」
時を巻き戻して夕刻。
救援依頼をしてきた人物が場内に入るための抜け道を記しアラーカム漁港を去っていった。
城の構造がわかる書物の模倣品といえど持ち出せれば、大罪に匹敵する。
そのものもわかって計画したのだ。
「どうかアリシアを…
お姉さまを助けてください!
私はもう、逆らえません!」
「ようやく話してくださる気になりましたか
クラリスヴェロナー殿
伝説が本当なら、アリシアが殺される
そうなる前に国外に逃がそうとしていたのですね」
「そうです」
「次の目的地が海星府だと知り…
俺たちの旅についてきた
クラリス殿と共謀して、アリシアを逃げ出す為に
なぁ…マリウス・ルベルト白騎士副団長
ところでいつ祝言あげるの?」
「そんなことまでご存知だったのですか」
「「「「おま…ふざけんじゃねぇぞ!」」」」
「ひゃい」
遠い昔に前の妃が病に伏せて急死し嘆いた王子が新しく妃を迎え入れた。
やがて妃は片方に対して目を背けたくなるようなほど虐げもう片方は自分に似た娘を蝶よ花よと丁重に育てた。
それをみていた当時の侯爵が不憫に思い当時、直轄部隊として率いていた近衛騎士団に入団させたのだという。
後に長女は皇国立の騎士養成所があるアカデミアへ。
次女は次なる妃として教育を受ける為、海星府に残った。
「妃になる為に、どうしても必要なのが聖女の魂
聖女になるには前の聖女が死去しない限り、移り変わる事はない
なら人為的に写り変わらせるなら?
折檻して弱らせて、衰弱死したところで移すように仕向ければ
あまりに身勝手だ…反吐が出る」
「だからって忍?
あんまりやると、前が見えなくなるっちぃ
無理はするなよ」
「ありがとう、ウルム
さてなんだかんだ降ってきたんだ
場内に入り込もうか
…久々の潜入戦だ、気合いの入り方が瑠香は違う」
「助け出してとんずらこいてやりましょう!」
皆がどこかにコリと笑う姿を見てマリウスはどうしても、ついていけなかった。
城の中に入り込み、地下通路を抜けて地上に出ようと歩き出す5人を見て立ち止まり考え込んだ。
マリウスとアリシアは婚姻関係に発展するまでに至る。
つまりは家族になろうとしているのだから、助け出して2人でどこかに隠れようとするのも無理はない。
ティナやニコルは、同じアカデミアで勉学に励んだ友人。
だが、目の前にいる忍と瑠香にウルムはほとんど関係ない人間だ。
「どうして…」
「ん?」
「どうして皆さんはそこまでアリシアの事を助けようとするのですか?
友人とはいえ、知り合った仲とはいえどうしてここまで命を張るのですか?
瑠香さんや忍さん?」
互いに目配せをしながら固まった答えを口にした。
「だって…友達だから
私の日本に住んでいる友達が過去に殺されかけた
私も友達を襲ったやつに殺されそうになった
私は、大切な人を守りたい
今回はクラリスさんからの依頼だったけど、依頼がなくても突入してやろうと思った
友達や家族守れなくて、目覚め悪いの嫌だから」
「え?」
「ティナ・ウィナーも瑠香と一緒
大切な友達がピンチなら友達として助け出したい」
「ニコル・ヴォルフガング!
…瑠香とティナと一緒
助けてあげたいし、助け出して一緒に笑いたい!」
「俺っちは…アリシアともっと花の話がしたい
いろんな花が好きだから、この前教わったんだよ
自然が好きな奴に悪いのはいない!
ってか?」
「俺は過去に守りたい人を守れずに、帰ることも許されず散る命となった
守るべき人を、もう守れないのは嫌なんだよ
だから俺は誰彼構わず助ける
それが俺の軍人としての吟醸だ」
「…ありがとうございます
一緒にアリシアを、助けてください」
「「「「「うるせぇばーろ!!
このすっとこどっこい!!
っしゃ…助けに行くぞ!」」」」」
アリシア救出依頼をしてきたのはクラリスでした。
そしてマリウスも王陵府から出国し、アリシア救出のために瑠香達の旅についてきたみたいです。
時期妃として教育を受けたのですが、さらに地位を確立させようとしたのか。
今の妃がアリシアの聖女の魂をクラリスに移し替えたがっていたみたいです。
なぜこうなったのかは次回知らされることになります。
というかマリウス…お前、アリシアと結婚する予定やったんか
次回もお楽しみ




