聖女の祈りの力
人の命を救うそして祈りの一端に触れます。
朝の穏やかな海を見つめてマリウスは目を覚ます。
気晴らしに砂浜を歩きながら、水平線を照らす太陽の光を浴びる。
ほんの数日で瑠香達のパーティの雰囲気に慣れ、白騎士団に出来なかった冒険を楽しんでいた。
「何か聞こえてくるなぁ?」
散歩から戻り宿に入ろうとするが、敷地の端の方で声が聞こえ近づいていくと運動をしている瑠香の姿があった。
しかしその光景についていけず建物の影から食い入る様に見ていた。
「おはようございますマリウスさん
いやぁ早いですね」
「おはようございます瑠香さん
そういう瑠香さんも早いじゃないですか
というよりも、何をされてるんですか?」
「空挺体操って言うんです
落下傘を背負う前に必ずやってるんですよ
これしないと体が動かないと言うか」
へぇと声を漏らして戸惑うマリウス。
だが瑠香の強さの秘訣なのではないかと察して、行動をじっと食い入る様に見つめる。
マリウス自身、人間の行動を見ることによって自身にも投影できる模倣魔法が使えるのだ。
早速、模倣魔法を発動して瑠香の真似をやってみるがすぐに後悔した。
(あ…これ、真似できない
身体がついていかない)
ついていけるはずだと踏んだが、細かな身体な捻り具合や機敏な動作。
膝を入れる角度から、回転接地する際に様々な方向や体制での捻転。
号令を一度間違えたことによって、罰として腕立て伏せ100回を己に課す鬼畜さ。
そして今まで経験したことのない身体の動かし方に困惑してしまい模倣できなかったのだ。
「みんなおはよう…
マリウス白騎士副団長さん、なんか顔やつれてない?」
「あっ…そ…
そんなことないですよ…ウォーレンさん」
朝9時ごろ、低レベルの任務に参加するため宿を出ようとした6人。
昼飯に持って行けと、グレートトラウトとフレッシュレタスにビッグトマトのスライスサンドイッチにアルメリアでよく取れるアンフィーシュリンプのビスクスープを手渡された。
宿主のウォーレンの粋な計らいに歓喜する6人。
しかしマリウスの顔はどこか引きつっていて、心配そうにウォーレンが話しかけたのだ。
「瑠香さんの真似をするんじゃなかった」
「やっちまったなぁ
あれだろ?
5点接地法ってのを真似したんだろ?」
「よくわかったねウルムさん
全身痛い…」
心中お察ししますと思いながら、ウォーレンに出発する旨を伝えてカロリ街にあるカロリ組合へと赴く。
到着した頃には、街に来た腕っぷしのあるいくつものパーティが上位レベルの任務に行く申請をし、準備を整えている。
打って変わって瑠香達は、街の情勢や自分たちの本来の目的に合う低レベルの任務を選定する。
「この、エッテル漁港のジャイアント昆布天日干し任務はどう?」
「どさくさ紛れて、海藻もらおうとしてるの丸わかりだよ
ティナは食いしん坊だよね
それならさ、フィリネン漁港のローズムール貝の仕分けの方がいいよ!」
「俺っちわかったからな!
ティナもニコルも食いたいだけだろ!?
忍と瑠香が何も物言えないのわかって言ってんだ
マリウスはどうするっちぃ?
…だめだこの3人は、サンライズオイスターの運び出し作業をやりたいって目ぇしてる!」
他のパーティが鼻で笑っているのに気がついて、受付嬢がたまらず声をかけてきた。
6人の事を心配して声をかけてきたことに、お礼をし周りを各人で見渡していく。
このギルドにいるのは、駆け出しだがそれなりの実力を持ったパーティの集まり。
低レベルな任務を毛嫌いし、そしてマリウスのことを知っているのだろう。
マリウスの身分にあった任務を受けろと言いたいのだ。
(はんかくせぇ)
と瑠香が思った矢先だった。
外が慌ただしくなっていることに気がつき、外に出ると大勢の野次馬が出来上がり、かき分けて進んでいけば2人の人間が倒れており1人は左腕から大量に出血。
もう1人は倒れているものの、口を何度か動かす仕草をしていた。
パーティのリーダーらしき甲冑を着た男が、状況がわかっておらず固まり、もう1人の人間はあたりの何か探す様に周りを見渡していた。
「さっきの商人が乗った馬車とこいつらぶつかったんだ
誰か見てねぇか!」
「何やってんだ、病院に行くぞ!」
「その人たち動かすな!
忍とニコルは左腕上腕部の大量出血を圧迫止血
ウルムは街の医者を呼んできて
ティナとマリウスさんは私ともう1人を胸骨圧迫!」
「「「「「まかせろ!」」」」」
「あんたら何言ってんだ
ただ泡吹いて倒れてるだけだろ?
なんだか大袈裟だぜ?」
「こんな状態な人を無理に動かしたら余計にひどくなるぞ
私は昔、災害派遣でこんな状況を見てんだ
大袈裟じゃなくてこれは救命
理由は後で教えるから野次馬の整理しておいて」
言葉の深い意味を分からずとも瑠香の人を指す様な鋭い目つきに身を震わせて、渋々野次馬の整理を始め出す。
忍とニコルに止血を任せて、瑠香はテキパキとティナとマリウスに、指示を出す。
マリウスに衣服を切り裂かせ、ティナに他の外傷を確認させている最中に呼吸音を聞いた。
「やっぱりないか!
仕方がないやるぞ!」
手をクロスさせて垂直に胸の中心を押し込んだ!
バキッとも、メリッとも聞こえる音に野次馬達が言葉を失いただ6人の光景を見つめるだけしかなかった。
この国の人間は目の前で行われている救命措置方法を知らない。
必死になる瑠香の心臓マッサージのカウントが街に響き渡り始めていた。
「瑠香変わるよ!」
「頼んだティナ!」
「「せーの、1.2.3!!」
医師が到着するのを待ち望むのを裏腹に時間だけが過ぎていく。
マリウスがティナと交代して心臓マッサージを開始し、忍達が出血していた男の処置も終わる頃、ようやく嗚咽と嘔吐をして倒れていた男が息を吹き返した。
ほっと旨を撫で下ろし、最後の気力を振り絞って組合の受付嬢が持ってきた毛布を男の体にかぶせ、現場の整備を始めていた。
「皆さんご無事ですか!
ここで事故があったって…えぇぇぇえ!!」
「お医者さんじゃなくてアリシアと近衛騎士団が来ちゃった」
「出血してるし、もう1人の人はぐったりしてるし…
他の皆さんもぐったりしてる…まさか!」
「アリシア…これには訳があって」
「今は、どうでもいいのマリウス!
みんなその場でじっとしていて!」
事故の一報を聞いて慌てて飛んできたアリシアが馬から降りると手を組み祈りを捧げる仕草を始める。
何が始まるんだとへたり込んでいた忍が思った矢先。
アリシアを中心として弧を描く様に、その場に淡い光が包み込み1分も経たずして光は消えていった。
「今のは…」
「もう大丈夫!
皆さんの傷は私が治しましたから!」
「団長…いくらなんでもやりすぎです!
なんでこんなのを助けたんですか!」
「リリアそんな事を言わないの!
助けられる人は助けなきゃ!」
理解の追いつかない瑠香とウルムだが、ティナ達の顔を見てアリシアが何者か気がつき始めていた。
マリウスの口ぶりやリリアの態度を観察して、アリシアが聖女なのではないかと推察していく。
すごいと言いそうになったウルムだが、忍の顔を見て凄いという言葉を出せなくなってしまった。
「よもや…そういう事なのか?」
(忍には何が見えているんだ?
俺っちは難解なんだが)
忍の顔を見た後に、怪我人の様子を見てなんとも言えない気持ち悪さを覚えたのも事実。
どんよりとした黒雲が、ウルムの心の奥に広がっていくのをウルムは気がつきながら知らないふりをする。
時間が経ち司法局と近衛騎士団の増援に対して事故の経緯を話し始めるのをぼんやりと瑠香は思い詰めた様に見ていた。
組合のすぐ出た道で事故が起きました。
ぶつかってそのままにした犯人で有る商人は逃げ、悲惨な事故が起きました。
そして普段の旅路でティナやニコルには人命救助の方法を瑠香は教えていたのです。
だがら対応ができたのです。
そして事故が起きて数分経った頃にアリシアがきました。
祈りを込めた光が傷が治癒していったのはやはり聖女たる力のなのかもしれません。
そして忍は何かに勘づいたみたいです。
次回もお楽しみに




